第4話・いざ王都
商人の馬車はケツが痛い。アルタナはそんなことを思いながら馬車に揺られて数時間。王都、スペサルチン、中央門前へと到着した。
ちなみに、王族の馬車以外全ての馬車はケツが痛いのである。
巨大な城壁に囲まれた巨大な街である。特に注目すべきは、外周の家々ほど背が低く、中央ほど高いことだろう。それが原因で、街がまるで一つの城である。また中央の建物はゴシック調だが、周囲に行くにつれて堅苦しさが薄れていく。城壁の際など、世紀末だ。
だだし、門から続く大きな道の周りはどこでも治安が良い。いわば観光用の世紀末である。
商人、ゴルドン・テイラーの馬車が貴族用の門に向かうと、門から騎士が一人歩いてきたのである。
「お帰りなさい、テイラー男爵。お隣のお坊ちゃまはどなた様でございましょうか?」
ゴルドンは貴族でもあった。それが原因で、アルタナまでもが貴族だと思われているようである。いや、服装も、顔立ちまでもが、貴族どころか王族の風格を漂わせているのもその原因だ。
「あぁ、彼は私の護衛だよ。彼の強さは、恐ろしいものだね!」
「それにしては、幼いし、丸腰に見えますが。」
「何か見せてあげられるものはないかね?」
ゴルドンはアルタナに問いかける。
「はい、では……。ゴーストソード」
その呪文によって現れたのは、ゴーストソードなどではなく、半透明な聖剣だった。
騎士はその優しい光に魅せられ、ゴルドンも同様にその聖剣から目を離せずにいた。
「呪文偽装にトレースウェポン……。素晴らしい魔法技術ですね……。」
と騎士は言うが、アルタナにとってこれはただのゴーストソードである。ただし、アルタナの魔法技術と知力、魔力がそれを全く別の魔法の次元へと押し上げたのだ。
「起源は何かね?」
起源とは、トレースウェポンに必要な要素である。騎士も、ゴルドンもそれがゴーストソードであるとは思えなかった。
「起源はないです。ただのゴーストソードです」
アルタナは正直に答えていた。
「起源は明かせませんか。これだけの剣です、詮索は止しましょう。」
騎士はそう言って、納得してしまう。
それにゴルドンすら、頷いていた。
「えぇ……。」
アルタナはその一連の出来事に少し驚いていたのである。
「ところで、護衛様のお名前伺ってもよろしいでしょうか……。」
いつのまにか、騎士の中でアルタナは尊敬すべき人物となっていた。
スペサルチンの騎士は、魔法や剣技などあらゆる戦闘技術を総合した能力が求められる。アルタナの見せた魔法は、それ一つで尊敬に値するだけの技術なのだ。呪文偽装は、詠唱破棄よりさらに高等技術であり、トレースウェポンで聖剣を作り出すのは大魔法だ。
だが、実際にアルタナが行ったゴーストソードによる聖剣級の作成は、もはや神の技である。それを騎士が知り得なかったことは、アルタナにとって幸運だろう。
「はい、アルタナと申します。」
アルタナが名乗ると騎士は瞳に憧憬の念すら浮かべ、門を開いた。
「テイラー男爵、ならびにアルタナ護衛官様、お帰りなさい!」
「あれ?俺怪しまれないんですか?」
「私と共にいることが、保証になのだよ!この国の貴族は、平民を許すことに於いて強い権限を持つ。私が隣にいるから、税金すら許されたのだね!」
スペサルチンの貴族に与えられた権限の多くは、平民を許す為のものであり意味なく害することを許される権限はほぼ無い。その権限の中には、平民を臨時に護衛とすることができるものがある。騎士に、護衛能力を認められた場合、護衛とされた平民は一時的に貴族待遇を受けるのだ。
例え、住民証を持たずとも。
斯くして、アルタナは王都への入場を果たす。
「さて、これからどうするのかね!?」
ゴルドン男爵は王都に入ると、アルタナに訪ねた。
「まずは冒険者にでもと思っています。」
アルタナにとっては夢のまた夢だった。だが、それはステータスを持つものにとっては特段難しいものでは無いのだ。冒険者とは、英雄から社会の底辺までを包括する組織なのである。
「そうかね?なら、そこの店に入るといい。冒険者ギルドだね!」
ゴルドンはそう言って馬車を止め、目の前の店を指差した。冒険者の店は、門に入ってすぐのところにあったのだ。
「ありがとうございます!」
「例には及ばないね!私の店は、ここをまっすぐだ!服が足りなければくればいいね!」
ゴルドンの店ジャック・テイラーは中央通り沿いらしかった。
「ありがとうございます、いつか寄りますね。」
アルタナはそう言って馬車を降りるのだった。
「達者で暮らすんだね!」
とゴルドンはアルタナの背中を見送りながら、手を振るのであった。
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