信じようと思います
その後、どうやって鉱山に辿り着いたのかと聞いた。
どうやらリリスは、悪魔の魔力を辿って来たらしい。
嵐の中だから魔力はほとんど掻き消えていたらしいんだけど、流石はリリス。魔力残滓を何一つ見逃すことなく、超速飛行でやって来たのだとか。
「ティア様を攫ったのが半端者だったことが、不幸中の幸いでした」
出来損ないの悪魔は、魔力のコントロールが不十分だ。
だから無駄な魔力を外に放出してしまい、その残滓がどうにか残っていてくれたおかげで、嵐の中でも捜索が可能だった。という訳らしい。
つまり、他の悪魔や、ヤギ頭の悪魔が直接私を攫いに来ていたら、結果はどうだったかわからない。
……どうやら、相当危険な立場に立たされていたみたいだな。
そう理解したら、少し怖くなってきた。でも、全ては無事に終わった。
ならばもうここに居る必要はない。
早く帰ってご飯にしよう。ご飯を作っただけで来ちゃったから、お腹がペコペコだ。
「──ティア様」
「ん、どうしたの?」
振り返るとリリスは地に膝を付き、頭を垂れていた。
「あなた様を守ることが出来ませんでした。誠に、申し訳ありません……」
「私は気にしていないよ」
「ですが……! っ、く…………今回は運が良かっただけです。最初から気を付けていれば、私は……。私は、ティア様のお側に相応しくありません」
「……うちに帰るよ」
「ティア様っ──」
「私は家事が出来ない。力もない。作ること以外、何も出来ない。リリスがいなかったら、私はどうすればいいの? ──って、ここがどこだかわからないから、家に帰ることも出来ないじゃん! あーあ、私は本当にダメだな。誰かが側に居てくれな困るなぁ。……どうせなら、桃色の髪でめちゃくちゃ強い悪魔が側に居てくれたら、私は嬉しいんだけどなぁ」
私はわざとらしく言った。
すると────
「ティア様……!」
「うわっぷ!」
リリスが勢いよく立ち上がり、私に抱きついてきた。
一瞬で視界が暗くなって、顔面は柔らかい感触に包まれた。息が出来なくなって反射的に離れるけど、すぐに引き戻された。
「……大丈夫です」
「リリス?」
「ティア様のことは私が守ります。もう二度とこんなミスは犯しません。…………こんなことを言う資格はないかもしれません。ですが、どうかもう一度だけ私を──信じていただけませんか?」
私を抱き締める力が、強くなった。
リリスの体は震えていた。だから私は、安心させるために力強く抱きしめ返した。
「私はリリスを信じるよ」
リリスの顔は今にも泣きそうで……いや、もうすでに泣いていてぐしゃぐしゃだ。
正直言って酷い面だ。いつもの妖艶な雰囲気が台無し。ファンが見たらどんな反応をするんだろう。
「私はリリスを信じる。だから、次は守ってね」
私はリリスから距離を置いていた。それは、彼女のことをあまりわかっていなかったからだ。
私を慕っているのも気に入られるためだと思っていたけど、今回のことでリリスは私のことを本当に大切に思ってくれているのだとわかった。
リリスは私のことを信じてくれている。だから私も、リリスのことを信じようと思う。
「──っ、はい!」
リリスは笑ってくれた。心から嬉しそうな笑顔だ。彼女の顔を見ていたら、私も嬉しくなった。
こんな幸せな時がずっと続けばいいと思う。
だから────
「これからもよろしくね、リリス」
◆◇◆
元凶だった悪魔が消滅したことで、麻薬事件は丸く収まった……かと思いきや、後処理が沢山残っていた。
それはそうだ。沢山の人を巻き込んだ事件だったのだから、無事にそれが解決したとしても、色々と面倒なことが残っているのが当然だ。
元凶が居なくなったとしても、麻薬はまだ存在している。
中毒者の中には、まだ捕まっていない人がいる。その人達が、残っている麻薬を高額で売りさばいているとジュドーさんが言っていた。
現在、様々なギルドが協力して、残党狩りをしているのだとか。
ちなみに私は関係ないので、知らんぷりだ。事件を解決したのは私とリリスだけど、そこまで協力する筋合いはない。
ギルドといえば、あの事件が起きてから少し落ち着いた頃、ジュドーさん率いる商業ギルドの職員全員が私の店に来た。
私を危険なことに巻き込んでしまったことへの謝罪のためだ。
どうでもいいと言ったんだけど、それでは体裁がどうのこうのとうるさかったので、適当な賠償金を頂くのと店の宣伝をしてもらうということで手を打った。
本当は私の商売を邪魔してくれた悪魔を除外出来ただけで、私としては十分満足だった。
でも、貰えるというなら貰っておこうの精神で、ありがたく受け取っておいた。
ちなみにそのお金は全てリリスに渡した。私は今回の件で何もしていない。一番活躍してくれたのはリリスだ。たとえ従者の働きだったとしても、私はそれを受け取ろうとするほど強欲ではない。
勿論リリスには拒否されたけど、初めての主人命令を使って無理矢理受け取らせた。
活躍してくれたといえば、シュメルだ。
彼は嵐の中でも怪我人を助け、そして私とリリスのために町中を駆け回ってくれた影の立役者だ。
暴走をしたリリスによって怪我をさせてしまったことへの謝罪と、私の無茶振りに応えてくれたお礼として、少しばかりのお金を渡した。
リリスから話を聞いた話では、他にも協力してくれた冒険者がいたらしい。でも顔も名前も覚えていないとのことなので、感謝を伝えることが出来なかった。なのでリリスには、冒険者が困っていたら助けてあげるようにと伝えた。
そうそう。ヒューバード王国からアリス王女と騎士団長の二人も来店した。
前回、私とアリス王女は契約をした。
麻薬事件のことで役に立ったら、王国は錬金術を広めるための後ろ盾になる。という契約だ。
その時は解決するまでということで答えは保留になっていたけど、ようやくその答えを持ってきてくれたのだ。
あちら側の意見を聞いたら、喜んで協力させてもらうとのことだった。そして国王が私に会いたがっているらしいので、近々王国から迎えが来ると言い残し、二人は王国へ帰って行った。
勿論、タダで帰すことなく、商品を買わせたけど。王族なんだから金は持っているんだろぉ? と言い、そりゃぁ沢山買わせた。稼げる時に稼ぐ。それが商人というやつですよ。
王国の後ろ盾が入るというのは、嬉しいことだ。
宣伝にもなるし、国が直接私の商品を買ってくれる。信頼もお金も入って安泰だ。
嬉しいことと言えば、最近になって私の店に来る客が増えた。
商業ギルドが麻薬の件について公言したことによって、噂されていた未知の薬と私の薬品は関係ないと、町の人達が理解してくれたからだ。
この町は田舎だから、大抵のことは出来る雑貨屋の存在はありがたいらしく、道具の修理とか便利商品の注文とかで賑わうようになっていた。
その代わり忙しくなったけれど、商人にとって充実した生活だと言えた。リリスも文句を言わずによく働いてくれている。
──と、このように事件が終わったおかげで、店の売り上げは上昇し始めていた。
細かい後処理は全てギルドに任せているので、私は気にしなくていい。
アイヴィスからは連絡が来ていない。おそらくあの鉄板の研究に没頭しているんだろう。
だから今は、普段通りの生活を送れるようになっていた。
でも、問題は残っている。
それはリリスの仲間、ミアのことだ。
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