元凶との対面です
──さて、困ったぞ。
私は現在、空にいる。決して飛行魔法で飛んでいるとか、飛行機に乗っている訳ではない。……って、この世界に飛行機は造られていないか。
構造はとても複雑だけど、造ろうと思えば造れる。
時間は掛かるけどね。
でも、飛ぶための燃料が無いな。
燃料の代わりに魔核を差し込んで、ガソリン代わりに魔力を供給すれば、あるいは……。
それが出来たとしても、危険だ。この世界は魔物で溢れかえっている。勿論、空を飛ぶ魔物だっている。それに地上に住む魔物より、空を飛ぶ魔物の方が厄介だ。そんなところを機械のデカブツが飛ぶのは少々……いや、めちゃくちゃ危ない。
魔物に対抗する武器と、誰かの接近を察知するレーダー。魔物の襲撃に耐えられる障壁を持ち合わせれば、どうにかなるか。
……でもそれって飛行機じゃなくて、空中戦艦じゃね?
ま、まぁ、細かいことは気にしなくていいよね。
それを造ったとしても、この世界ではあまり需要が無い。
だって遠出するとしても『テレポート』を使えば良いし、それを使えなかったとしても馬車がある。
わざわざ危険な上空に飛ぶ必要はない。
──っと、話が随分と逸れてしまった。
私は、私を掴んでいる男を見上げる。
「ねぇ、まだ着かないの?」
「ぐるぅ……」
「は? なんて言ってるのかわからないよ。元は人間なんでしょう? 言葉くらい話せるでしょ」
「……ぐぅ」
「何、話せないの? ったく、しょうがないな」
悪魔と成り果てた男は、困ったような表情をした。
「はぁーーーーぁ……悪魔側も、話せる人物を用意してくれればいいのに。ほんと、気遣いが出来ていないなぁ」
「ぐるぅ?」
「あんたもあんただよ。どうして悪魔なんかに体を渡したのさ。馬鹿じゃないの?」
「ぐぁあ!」
「わー! ちょっとたんま! ごめん、悪く言ったのは謝るから、空で揺れないで!」
私がこいつに連れ去られてから、30分くらいが経過していた。
その間、私はずっと奴に掴まれたままだ。
流石に服を掴まれたままなのはキツいから、両手で優しく持ってもらうように言ったけど……めちゃくちゃ暇だ。
しかも、本格的な嵐が来ているから、雨が酷い。ずっと雨に打たれているせいで、びちゃびちゃに濡れてしまった。風邪……は引かないな。そのために作った指輪だ。
この悪魔のなり損ないは、一度自我を失ったせいか言葉を話せなくなっていた。
こっちの言葉は理解しているみたいだから、なんとかスキンシップは取れているんだけどね。だからって会話が出来ないのは、本当に暇だ。
だから私は、その間に色々と考え事をしていた。
この一連の事件に関することだ。
今も私を掴んでいる悪魔のなり損ないは、おそらく元凶とはあまり関係がない。
そう思うのは、この悪魔は未完成にも程があるからだ。
この人はただの中毒者。
元凶と契約を結んでいる悪魔に惑わされ、ただ操られただけの哀れな人間だ。まだ悪魔になりきれていないから、町の結界にも反応しなかったのだろう。
でも、今の彼は角と羽、そして尻尾。全てが生え揃っていた。ここまで進行してしまえば、もう元の人間の姿に戻ることは出来ない。
悪魔にもなれず、人間に戻れない。
それが悪魔に唆された者の末路だ。
……と言っても、ここまで酷いことをする悪魔は少数だ。
大抵ははぐれ者か、魔界から追放された悪魔か。一番厄介なのは、人を惑わすことの快感を覚えた悪魔だ。
そういった奴は、手段を選ばない。簡単に人を騙すし、人の感情を操作する。
「──お? なんか見えてきた」
それは鉱山だった。
どうしてこんなところに……なんて疑問は抱かない。身を隠すには良い場所だと思う。
悪魔は鉱山の穴に入り、そのまま私を運んだ。
どうやら道は覚えているようだ。……それとも、行動さえも操作されているのか。
詳しくはわからないけど、一つだけわかることはある。
もうすぐ私は、この麻薬密売の元凶と出会える。
人を操り、居場所を逆探知されるというリスクを冒してでも、私をここに運んだ理由を……ある程度は予想出来ていた。
「──おや? ようやく来ましたか」
洞窟の奥底。
そこに作られた空間には、一体の悪魔が岩に腰掛けていた。
ヤギ頭で紳士服を着込んでいる。……アイヴィスのくれた証言と同じだ。
手には本を持っていた。どうやら、ひと休憩と洒落込んでいたらしい。
奴は悪魔に連れてこられた私に視線を向け、歓迎するように両手を広げた。
「ようこそこんな狭い場所で申し訳ありません。……つい先程、とある事情で拠点を手放すことになってしまい、急遽ここに引っ越すことになってしまいました」
「あ、そう……そっちも、大変みたいだね」
「ええ、困ってしまいます。本当に人というのは、ちょこまかとうるさい生き物です。ただの家畜が、おとなしく我々の言い成りになっていればいいものを……あなたも、そう思いませんか?」
「それ、私に言う? 私も一応人間なんだけど?」
「いえいえ……あなたの本性くらいは知っていますとも。ティアさん……あなたからは人間の匂いがしません」
──ああ、そう。
それくらいはもう気付かれているのね。
「ティアさんの噂は耳にしていますよ? なんでも、ポーションという万能な回復薬を作ったとか……いやぁ、素晴らしい腕をお持ちのようで」
「私もお前の噂は耳にしているよ。麻薬『デビルパウダー』を作り出したらしいね。悪魔にしては良い腕だ」
「おおっ、それすらもわかっていましたか。流石です。……では、ここに呼んだ理由もある程度は想像しているのではないですか?」
「……まぁ、ある程度は、ね。どうせ、私に力を貸せとかでも言うんでしょう?」
私の噂を知っているのなら、ここに連れて来た理由もわかる。
というか、それ以外に思い浮かばないな。
「よくおわかりで。ですが、少し違います……私は、あなたと協力したいのです」
悪魔はにこやかに微笑み、私に手を差し伸べた。
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