話し合いました

 世界が創造されて百年経った頃、その時すでに人間側と魔族側の間には亀裂が入り始めていた。


 それは錬金術が関係している。


 人は怠惰な生き物だ。最初は彼らも錬金術のことを詳しく研究していたらしい。

 でもある時、一人の学者が錬金術以外の術があることを知った。それはとあることに特化した技術で、その時に彼らが研究していたことだった。


 錬金術は全てに対応した技術であり、当時の彼らの研究段階では、特出した何かを持っている訳ではないと判断されていた。


 それでも研究していたテーマを乗り越えようと試行錯誤をしていた頃、学者が運良くそのテーマに特化した技術を見つけてしまった。


 おかげで研究テーマは順調に進み、彼らの研究は終了した。

 それで終わる彼らではなく、次はまた別のところに着眼点を置き、研究を開始した。


 そしてまた誰かが、それに特化した術を見つけてしまった。


 新たな技術が開発されて行くにつれ、錬金術の評価は『平均的なだけの技術』と見なされた。


 まだ錬金術というものを十分に研究せず、他のテーマに着眼点を置いてしまったことが、錬金術が廃れる原因になったらしい。


 それからは錬金術を使う者の数が徐々に減り、やがては誰も錬金術を使わなくなった。


 私の神託『錬金術を語り継げなさい。さすればこの世界は、永久に発展し続けるでしょう』は、『錬金術を使って研究することで、新たな技術が他にも眠っていることを神は気付かせてくれた』と都合良く解釈したらしい。


 だが、それに反対する者達がいた。


 それは魔族だ。

 彼らは錬金術にまだ何かが隠されていると思い、研究を続けた。


 それが、人と魔族の分裂の『引き金』になったとアイヴィスは言う。


 魔族は人よりも魔力量が何倍にも大きかった。


 それを活かして錬金の術を研究し、人間からは『死んだ技術に縋る奴ら』と言われたらしい。それでも魔族は諦めず、私の願いのままに次々と新たなものを生み出していった。


 人間にとって、それが気に入らなかったのだろう。

 自分達が当の昔に捨てた技術で、自分達以上のものを生み出している。


 彼らのプライドを傷付け、両者の間に亀裂が入った。


 ──それが続いて500年。


 ついに両者は争いを始めた。

 魔族は常に錬金術の研究をしていたせいで、武力というものを編み出していなかったのに対し、人は数々の研究で武器や魔法を覚えていた。


 最初の頃は魔族はただ蹂躙され、人の住む大陸から遠く離れた魔大陸へと逃げ延びたのだとか。そこで魔族は並行して人間に打ち勝つ技術を開発し、両者の技術は互角となった。


 それからは泥試合のように沢山の人が血を流すようになり、挙句には溜まりに溜まった両者の濃い魔力のせいで、『魔物』という魔力のみの生命体が誕生してしまった。


 魔族の魔力保持量は人の数十倍はある。


 それを活かして人々に勝利し、この不毛な戦いを止めよう。アイヴィスはそう決意したけど、それはすでに遅かった。


 最初の戦争によって魔族は数を急激に減らし、人の数を相手にするのではどうしようもなかった。


 3度目の死を味わったことでアイヴィスもそれを痛感し、この戦争は自分達だけでは止めることは出来ない。ならば距離を置き、少しでもこの争いによる被害者を減らそうと決めた。


 こうして人間は多方面の技術を、魔族は錬金術を。


 そのように分裂してしまったのだ。




 ──でも、それで終わるような優しい世界ではなかった。




 人は一度敵と決めた魔族を、常に敵視するようになった。


 それは、その時代の王が原因だったのだろうとアイヴィスは言う。


 彼らは魔族の所有する知識すらも手に入れようと欲を出し、魔族の住む魔大陸にまで侵攻するようになっていた。


 それから魔族は身を守る術を磨き、今の停滞の時代へと移り変わってしまった。


 人はその時のことを覚えていない。ただ魔族が原因で争っていたと都合の良いように書き換えられた歴史を学び、未だに本当の原因もわからぬまま魔族を敵視している。


「ララティエル様の望む世界を守れず、誠に申し訳ありません……」


 アイヴィスは歩み寄り、額を地面に付けて謝罪をした。


「魔王が土下座はやめなよ」


「しかし……!」


「我が子達がそんな時代を辿っていたことはショックだけど、それはアイヴィスが謝ることじゃない。……むしろ、13回もよくやってくれた。私は、魔族に感謝を伝えたい」


 アイヴィスの顔を上げさせ、私は微笑んだ。


「一番嬉しいのは、今まで私の言葉を信じて生きてくれたことだ。魔族の代表に礼を言う。──ありがとう」


 我が子が色々と頑張ってくれていた。

 私の言葉を忘れず、ひたすらに信じてくれていた。


 それに感謝するのは当然のことで、私が絶対に伝えたかった言葉だった。


「……っ…………ありがたき、お言葉……!」


「ああ、ほらっ、男なのに泣かないの。男が泣くのは母親が死んだ時って決まっているでしょ。私生きているよ!」


 我ながら訳のわからない言葉で慰めようと声を上げる。

 大の大人が号泣だ。それはこちらもパニックになるだろう。


「一先ずは座ろう? そして折角再開したんだ。……これからは後悔の話ではなく、思い出の話でもしようか」

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