冤罪でした
大勢の騎士に武器を突きつけられ、対する私は対抗手段がない。
ここで無駄に暴れても、後々面倒なことになりそうだし、今忙しい時期に大国と敵対するつもりもなかった。
おとなしく降参した私は、荷物のように簀巻きにされて、大柄の騎士に担がれた。
その後、王国に輸送されるのかなぁ……なんて内心思っていたら、町の入り口とは真反対の方向へ進みだした。
どうやら、騎士達が向かっているのは、この町のギルドらしい。
私が商業ギルドと専属契約を結んでいるのも判明しているらしく、私の悪事を放置しているギルドにも問題があるとかで、話を付けるのだと、第二王女アリスは言っていた。
ぐるぐると縄で拘束されてしまった私に抵抗出来るはずがなく、町の住人の視線を一身に浴びながら、ギルドまでおとなしく運ばれた。
威厳を保つためなのか、私を辱めるためなのか。それとも別に理由があるのか知らないけれど、騎士達が無駄にゆっくりと歩いていた。
暖かい日差しと揺り籠のような上下の揺れのせいで、少し眠気に誘われたのは内緒だ。
若干寝たのは更に内緒のことだ。
ここ最近新しい武器を開発していたせいで、少し寝不足だったのが効いたかな……。
ギルドに向かう途中の道で、野次馬に混ざったリリスとシュメルを見つけた。
リリスの方は、凄まじい怒りの形相で騎士達を見つめ、その横でシュメルが彼女の暴走を押し留めていた。
激怒したリリスの相手をするのは、私でも怖い。力を持たないシュメルにとって、寿命が縮む思いをしていたことだろう。
……後でお礼を言っておかなきゃな。
情報が既に出回っていたのだろうか。
ギルドの入り口には、ギルドマスターの二人、ジュドーさんとヴァーナガンドさんが立っていた。
中では職員と冒険者のみんなが、静かに私達のことを注視している。
アリスは冒険者達の視線を一身に浴びながらも、堂々とした様子で宣言する。
「私はヒューバード王国の第二王女、アリス・マレット・ヒューバードだ! 我が国の民を、怪しげな薬で苦しませた罪人ティアを、王族権限により捕縛した。このギルドと専属契約を結んでいるとの情報も掴んでいる。これは、罪人の暴挙を野放しにしていた商業ギルドの怠慢も問題である! 商業ギルドのギルドマスター、ジュドー・ヴェルタ! 貴様の身柄も拘束し、王国にて審問を受けてもらう!」
「え、ちょっと待って? 私は別に冤罪とかどうでもいいけど、ジュドーさんは関係ないよ?」
「罪人が口を開くな!」
「……はーい、すいませーん」
だめだ。話を聞いてもらえないや。
こういう時は──ジュドーさん、お願いします。
その思いが届いたのか、ジュドーさんは私に強い視線を向け、こくりと頷く。
そして、アリス王女に朗らかな笑みを見せた。
「これはアリス王女殿下。わざわざこんな田舎町まで来ていただき、御足労感謝いたします。先程申された内容のことですが……残念ながら、私には全く覚えがありません。そちらのティアさんは、我がギルド並びに冒険者の方々にとても貢献してくださり、とても民を苦しめるとは思えません。
……どうやら王女殿下は勘違いをなされている様子。どうぞお茶でも飲みながら、詳しい話を聞かせていただけませんか?」
「…………ほう? この私が勘違いをしていると?」
「ええ、そうでございます」
「貴様、よくもぬけぬけとそんなことを言えるな」
「事実ですから」
……ジュドーさん凄い。
王女さんの剣圧を真正面から受けても、余裕の表情を一切崩していないなんて。
その横にいるヴァーナガンドさんも同じく凄い。他の騎士が何か言わないよう、威圧だけで黙らせているのだから。
アリス王女とジュドーさんの睨み合いが続き、折れたのは王女の方だった。
「……良かろう。どうせ後か先かの問題だ。貴様の誘いに乗ってやる」
それから30分後。
「──すまなかった!!」
アリス王女は、私に土下座していた。
「本当に申し訳ない! ジュドー殿の言った通り、私が勘違いをしていたようだ。非礼を詫びる。この通りだ!」
「は? 許す訳ないじゃん」
王女様の誠心誠意の土下座を、私はバッサリと切り捨てた。
「──なっ!?」
「だってそうでしょう? 大勢の前で恥をかかされて、私の信用はダダ下がりだよ。私はみんなが少しでも楽に暮らせるようにって頑張っていたのにさ、その見返りが罪人扱いとか。
……あーあ、もうポーション作りも出来ないなぁ。だってここは、新しい薬を作っただけで罪人扱いするような場所なんでしょう?
そうでなくても、もう私の情報は出回っていることだし、もうここで働けないよ。別の場所でこの力を利用した方が得じゃん?」
ねぇどうなの? そう問いかけると、アリス王女は何も言えずに口籠った。
「そ、それは……」
「簀巻きにされるのなんて人生初だよ。しかも、詳しい調査もしないで、ただの噂だけで? ──はぁ!? ほんと、王女だからってこんな横暴が許されるなんてね。騎士達もそうだよ。こんな穴だらけなこと、誰もおかしいとは思わない訳? どんな神経しているの? 王族の言うことは全て正しいとか思っちゃっている感じ?」
「「「「……………………」」」」
王女も騎士達も、誰も何も言ってこない。
言い過ぎかと思われるかもしれない。
でも、商売をしている身としては、信用というのは何よりも大切な物なんだ。
それを理不尽に傷付けられたのだから、怒るのは当然でしょう?
実際その通りで、私の周りでこれを咎める人はいなかった。
ここはギルドの一階、関係者だけでなく冒険者と職員、野次馬で付いてきた住民が溢れかえっていた。
皆同様に、中心にいる私達を心配そうに見つめている。
最初は応接室で話し合いをするのかと思っていたけど、それでは全員入らないということで、冒険者達には壁際に移動してもらい、わざと注目を集める場所で話し合いをすることになっていた。
でも、今はそれで良かったと思っている。
私の無実を証明するのと同時に、騎士達が間違いで私は何も悪いことをしていないといち早く報せることが出来るからだ。
「──ちょっと、退いてくださいまし!」
あ、やべっ……一番やばい奴が来た。
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