従者がヤリやがった

 頭の中では否定していたけど、もしかしたらと思ってジュドーさんの足元を向いていたら、案の定彼の頭が現れた。


 この人、わかりやすいのか、わかりずらいのか……どっちかわからないな。


「……とにかく、落ち着いて? いちいち土下座されていたら、調子狂うよ」


「すいません。最近になって少し、感情的になってしまうんです」


「うん、多分それ寝ていないからだと思うよ」


 それだけは断言出来る。


「追加、ってことは全部売れたの?」


「はい」


「ええ……ほんと?」


「嘘は言いません。キッドさんの存在が大きかったのでしょうね。重傷だった彼が全回復したことを知った冒険者が、我先にとこぞって購入していきました。現在、十分に買い込めなかった冒険者達から、次の入荷はいつだと言われ続けています」


 そこまで人気だったのか。


 あの日からまだ一週間しか経っていない。

 注文を受けて、それを届けに行って残り5日。次の日に売り始めたとして4日の間で完売して、それでもまだ数が足りないとは……予想外だったな。


 1000ゴルドが1000個売れたから、100万ゴルド。ギルドの収入分を考えても、80万は確実だ。うっわ、一気にお金入ってくるじゃん。やば。


「追加の数は?」


「同じく1000……と言いたいところですが、厳しいでしょうか?」


「うーん、次は手作りでやりたいからなぁ……三日は欲しい」


「あの数を三日ですか……わかりました。では三日後、商品を受け取りに行きます。場所は、あの空き地……今はもう家を建てているのでしたっけ。そこでよろしいですか?」


「え、自分で持っていくから大丈夫だけど……」


「こちらが無理を言ってお願いしているのです。それくらいはさせてください」


 そう言われてしまっては、私も断りづらい。


「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 期限は三日後。

 それまでに薬草を摘んで、魔石を採取する。これはリリスにお願いしよう。森には魔物がいるから、私では危険だ。でもリリスなら、魔物相手でも問題はないだろう。


 そうしたら次は錬成作業だ。

 設備は全て地下室に揃っている。私が全て作った作業台と機材達、誰が作った物よりも信頼出来る。


「──っと、そうだ。私もそろそろ自分のお店を開くから、ぜひ来てよ」


 店の品揃えも、ようやく整ってきた。

 もう胸を張って店を構えることが出来る。


「ほう! それは楽しみです。お店の名前は?」


「お店の名前は『錬金術師ティアの雑貨店』だよ」


「雑貨店……ということは、様々なものを売るのですよね?」


「うん、今予定しているのは調合に使う素材とか、ポーションとは違った効果のあるポーションとか……後は故障した物の修復とかもやるよ」


「基本なんでもやると……確かに雑貨屋ですね」


「希望があれば他の商品も揃えるし、錬金術で出来ることなら何でもするよ」


「それは心強い。ぜひ、宣伝させていいただきます。ちょうど、三日後に受け取りに行く予定もありますからね。今から楽しみで仕方がありませんよ!」


 頬を硬直させながら、心底楽しみそうにジュドーさんはそう言った。


「さて、と……それじゃあ、そろそろ私は行くよ、リリスも待っているだろうからね」


 ポーションの売り上げを確認出来たし、専属契約を結ぶことも出来た。

 素材や薬の値段もある程度は決めることが出来たな。この世界は、私が予想していたよりも発展が遅れている。ポーションも1000ゴルドで売れるくらいなんだから、少し高めに設定していいだろうな。


「リリスさん……あの一緒に同行していた女性ですか。この一週間の間に、どこで出会ったのです?」


「それは…………内緒ってことで」


「ふふっ、わかりました」


 人差し指を立てて、口の前に運んだ。

 ジュドーさんはそんな私を見て、色々と察してくれたらしい。


 私は立ち上がり、部屋を出る。


 リリスはどうしているかな。

 用事が終わったら静かにしていろって言ったけど、大丈夫かな。


 下で変な音はしなかった。だから安心してジュドーさんと話せていたけど、どうしよう。今になって心配になってきた。


 急ぎ足で階段を降りて、私の契約悪魔を探す。


 桃色の髪は目立つ。だからすぐに見つかるだろう。そう思って目線を彷徨わせると、冒険者側の方で奇妙な光景が広がっていたのを発見する。


 それは、とある人物を中心に、冒険者の男達が並ぶように倒れている光景だ。

 死んでいるのかと思ったけど、息をしていることと、誰も血を流していないことから、ただ眠っているのだとわかった。どこか幸せそうなのは、あえて突っ込まないことにする。

 何がどうしてこうなっているのかはわからないけど、中心に佇む人物が何かをしたことだけは予想出来た。


 その人はサラサラの桃色の髪をしていた。全ての男性を魅了してしまうような美貌を持ち、彼女の服装はそれを余すことなく発揮している。


 その人物は、私が探していた悪魔だった。


「何をしているのさ、リリス」


「──あ、ティア様。お帰りなさいませ」


「うん、ただいま。それで何やらかしたの?」


「酷いですわ。私が何かをしたと決めつけるだなんて」


「いや、お前がやったんだろ?」


「まぁ……そうですわね」


 ──だったら今の会話の意味は何だよ!


 そんな荒れに荒れまくっていた私の内心を──知っているんだろうけど、リリスは横髪をくるくると弄りながら、事の顛末を説明し始めた。


「別に、特別変なことはしていませんわ。むしろ、イイことをしてあげたのですから、感謝して欲しいくらいです」


 登録が終わったリリスは、椅子に座って適当に暇を潰していたらしい。

 そしたら、冒険者パーティーに絡まれた。


 仕方のないことだとリリスは言う。


「私は美しいですから。孤独を嘆く男性の皆様が湧いて出てくるのは、至極当然のことです」


 ──何を言っているんだこいつは。と素直に思った。


 男達はニヤニヤと粘つくような笑みでリリスに近づき、自分達のパーティーに入らないかと勧誘をしてきたそうだ。


 下心丸出しの勧誘に、リリスは「可愛い」と思ったらしい。

 流石は淫魔。気味が悪いとかではなく、下心丸出しの男を見て可愛いと言いますか。


「昔の私ならば全員を相手してあげてもイイのですが……それはティア様に禁止されていますから、仕方なく彼らの望んでいる夢を見させて、その精気を吸っているのです」


「いや、サキュバスじゃん」


「違います。元です」


 元はサキュバスだったんかい。

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