ポーションの重要性
人は見たことのない商品を見た時、まず何を知りたがるのか。
それは商品の詳細だ。
何もわからないものを、誰も買おうとはしない。
そういう時に有効なのは『実演販売』だ。
その商品についてあーだこーだ言うより、結局は直接見せて商品価値を示した方がいい。
「これが──ポーションだよ」
私は水色の液体が入った瓶を、二人に見せつけるようにコトンッとわざと音を立てて置いた。
生成したポーションは一つだ。
これしか作れないのではない。商品が大量にあるより、少ない量を見せることで希少だと思わせることが出来る。
相手はポーションのことを知らない。
製造が難しいものだと思わせれば、大儲けすることだって難しくない。
──稼げる時に稼ぐ。
これが商人の基本だ。
…………え、嫌だなぁ。流石にそんなことする訳ないじゃないか。ただ単に、シャルから習った影響で腹黒い方に意識が傾いてしまうだけで、本当の私は優しいんだから。
ちょっと通常価格の二倍に設定するだけだよ。
目論見通り、二人はポーションにしか注目していない。
「効果は傷と状態異常の回復。飲んでも良し、傷付いた部分に振りかけても良し」
「……どう見ても怪しい液体にしか見えんな」
「別に色を変えてあげてもいいよ。赤と緑と紫。どれがいい?」
「すまん。このままでいい」
見た目が変わっても、味と効果は変わらない。
味と見た目は人の好きなように変えることが出来るけど、それはオプションで値段を付け足そう。
「本当にこれで傷が癒えるのですか?」
「それは保証する……と言っても、それを実演する人がいないよね。ヴァーナガンドさん、ちょうどいい怪我人いない?」
「お前なぁ。そんな都合良く……いるわ」
いるんかい。
「どれくらいの症状?」
「昨日、魔物に手痛くやられて医療中の奴だ。傷は全身に、腕は千切れかかっている。もう剣は振れないだろうな……」
「ああ、キッドさんですか。……あれは確かに、酷い傷でした。今はギルドの別室で、治療師が付き添っている状態でしたか」
「今は昏睡状態だ。あれを全快までとはいかないが、命を取り留めてくれるなら、俺は喜んでお前の交渉に乗ってやろう。それで、どうだ? やれそうか?」
「…………」
「おい、ティア?」
「…………、……あ、ああ、ごめん。で、腕が千切れかけだっけ? うん、問題ないよ」
私が考え込んでいたのは、どの程度の純度なら大丈夫そうか。ということだった。
純度は高ければ高いほど良いポーションになる。
でも、それに比例して製作難度は上がる。
私が出せる最高純度99パーセントは、一から作ると本当に面倒臭い。
というか99パーセントになれば、それはもう回復ポーションではなく、『
エリクサーについては……おいおい話すとしよう。
そんなことより、今はポーションについてだ。
話を戻すと、純度が高すぎると生産が難しい。
私のように想像するだけで創るのなら簡単なんだけれど、緊急の時以外は普通にポーションを作るつもりだ。
なので、なるべく面倒じゃない純度で売り出したいところだ。
ポーションが万能過ぎると、医者の仕事を失くしてしまう。
私が稼ぐのは良いけど、そのせいで他人に迷惑をかけるのは、後に面倒なことになりそうだ。
人の嫉妬や、プライドを傷付けられた時の恨みは、本当に面倒だ。
そこら辺は弁えている。
「これを飲ませれば良いんだな? よし、行ってくる!」
ヴァーナガンドさんはポーションを掴み、部屋を出て行く。
そして数分後。
──ドドドドッ!
──バァアアアアン!
「なんだこの薬はぁ!?」
ヴァーナガンドさんが血相を変えて、応接室の扉を開いた。
手にはさっき持って行ったポーションの空瓶が。
「おかえりなさい、ヴァーナガンド。それで、ポーションとやらはどうでしたか?」
「どうもこうもあるか! これは革命だ! 見ろ!」
そう言って部屋に連れてきたのは、冒険者風の格好をした男性だ。
連れて来られた彼も困惑しているようで、どうしてギルドマスターが二人も揃っているのか状況を把握していないものの、中にいる私達にペコリとお辞儀した。
いや、誰?
……彼が何者なのかを理解していないのは、どうやら私だけだったようだ。
ジュドーさんは驚きに目を開き、新しく入ってきた男性に歩み寄る。
「キッドさん!」
キッド? ……ああ、例の怪我人か。
無事に治ったようで何より。
私が渡したポーションの純度は80パーセント。
これで千切れかけの腕くらいは治せる。
なら、売り出すのは70パーセントくらいのポーションで十分かな。
「もう動いて大丈夫なんですか?」
「え、はい……なんか、変な液体を飲んだら、急に体が治って……すんません。俺もちょっと状況が理解出来なくて」
「腕は、問題なく動かせますか?」
「……そうっすね、もう二度と剣を振れないと思ったんですが……はい、どこも問題なく」
「そう、ですか……凄い。ポーションにはこれほどの力が」
「ポーション? それは何です?」
「ああ、いえ……何でもありませんよ。まだ混乱しているでしょう。体力も完全には戻っていないはずです。今はゆっくり休んでください」
「ええ、わかりました。では、俺はこれで……」
「あ、ちょっと待って」
部屋を出て行こうとするキッドさんに、待ったの声を掛ける。
そして新しいポーションを生成し、彼に手渡した。
「これ、体力の回復を促進させる効果があるの。飲んで眠れば、すぐに元気になるはずだよ」
「ありがとう。もしかして、あの液体を作ったのは……」
「私だよ。名前はティア。よろしく」
「俺はキッドだ。本当にありがとう。君のおかげで、まだ俺は冒険者をやっていける。何か助けがあれば、遠慮なく言ってくれ。命の恩人の頼みなら何でもするから」
「うん、わかった。よろしくねキッドさん」
握手を交わしたキッドさんは、私に手を振りながら元いた部屋に戻って行った。
見送った私はソファに腰掛け、同じくギルマスの二人も向かい側に座った。
「どうかな? 私のポーションは」
正直、私は勝ちを確信していた。
それは二人の反応を見ればわかることだ。
これで取引は上手くいった。
──そう、思っていたのだけれど。
「正直、想像以上の効果だった。だが──」
「ええ、商品として売り出すのは、厳しいでしょう」
返ってきた返事は、私が想像していたものと大きく異なった。
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