第9話 言い争い

それからここ数日、仕事がミユとホテルで過ごす日々が続いた。会うと約束した最初の夜は連絡先を交換するのを忘れたと思いどうやって会おうかと考えていたがいつの間にかミユが連絡先を交換していたらしく電話で呼び出されて無事再会した。本当にそういうところは抜け目がないやつである。


使うホテルは全て違う場所。同じ所ばかり使うと人にバレやすいかと思い、帰り道の途中から逸れてちょくちょく変える。まぁ元々はミユが他のホテルに行ってみたいと言われ承諾したのが始まりだが。


ミユは俺が仕事が終わるまで夜飯は食べないのが基本。会ってから食事(もといデザート)を食べに行く。遅くなる時もあるから先に食べていいというのだがしゅーくん一緒に食べたいんだ。と言うのでそれまで我慢してるらしい。我慢するのはいいのだが、毎回毎回、デザートを食べさせてくるのは気恥ずかしいのでそろそろやめてもらいたい…。


会社は出勤前に自宅に一度戻り、服などを着替え準備してから出勤。ある程度、下着などの着替えは鞄に入れて置いてホテルで着替えられるようにしている。そんなホテルでの関係が金曜日まで続いていた。


「しゅーくん。明日は土曜日なんだし会社はお休みなんでしょ?」


ミユはいつも通り髪を拭いてもらいながら聞いてきた。毎回毎回、拭け拭けとせがんでくるので今やミユの髪を拭くのは自分の担当になっていた。


「そうだな。明日は一応休みだ。」


「ならさ、ならさ。明日一緒に買い物に行こうよ。ちょっと欲しいものがあるんだ!」


「残念だが明日は既に予定があるので却下だ。」


「えーなんでよー。少しぐらい付き合ってよー。」


ミユはふてくされるように不満を唱えている。


「だ、め、だ。明日は会社の先輩との約束だからミユには付き合ってられない。」


「会社の先輩って男?」


「いや女だが。」


「しゅーくんの浮気者ー!私というものがありながら他の女に手を出すなんて!」


「だから会社の先輩だって言ってるだろ!だいたいお前とはホテルで過ごす仲ってだけでそもそも付き合ってる訳でもない!」


「それでもい、や、な、の!」


自分のお願いが通らないためか頭を振って不満をあらわす。


「こら暴れるな!拭きずらいだろ!とりあえず明日は買い物には付き合えない。夜もどうなるか分からないから1人で飯を済ませてくれ。」


「…それって夜は会えないって事?」


ミユは暴れるのをやめて静かに聞き返していた。


「…そうなるかもしれないってだけだ。」


「しゅーくんの嘘つき!夜はちゃんと会うって言ってたくせに!」


ミユは後ろに振り返りバンバンと俺の胸を叩き始める。


「毎回ちゃんと会ってるじゃないか!たまにはこっちの都合も考えてくれ!」


「むみゅみゅみゅ…。しゅーくんなんてもう知らない!ミユは寝る!」


おやすみ!と最後は一言添えてミユは布団を自分の体が見えないように覆いかぶさる。なんでコイツは俺が誰かと買い物に行くのを嫌がるのかわからない。ここ最近一緒に行動する事だかりだったせいでそれに慣れてしまったのかね。


「…はぁ。俺も寝るか。おやすみミユ。」


いつものように一人でソファーで横になって睡眠を取る。朝になったらまた機嫌が治っているさと安易に考えていたんだ。


いつも通りの時間に起きると身体やけに軽いことに気付くとミユが自分のところで寝ていなかった。


部屋を見渡してもミユは居ない。荷物もなく服も靴下も何もかもなかった。変わらないホテルの朝。変わったのは部屋にいるは自分だけで狭いと感じていた部屋が広い部屋だと思った事ぐらいだった。




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