第6話 ファミレス

「それで土曜日は琴香と橘くんと一緒に過ごしていたのか。」


「えぇ。おかげで次の日は身体の節々から激痛のあまり動けず全く家から出られませんでしたけどね。」


土曜日から日を跨ぎ、現在は月曜日の昼のランチ。いつものように香坂さんと一緒に食事を共にしてるところである。


「それは残念な休日だったね。でも呼んでくれないなんて仲間外れは酷いものだな。」


「いやいや、香坂さんだって琴香の料理知ってるでしょ。あんなのまともに食えたもんじゃないですって。」


「それでも一声かけてくれても良かったじゃないか。おかげで私は一人寂しい休日を過ごすことになっていたじゃないか。」


「いや、それは悪かったと思いますけど…。」


香坂さんの言葉に対してフォローする語彙が減ってくる。まずい、何も言い返せねえ…。


「ふふっ、冗談だよ。寂しいと思ってはいたがそんなに気にするものでないよ。ちょっとからかって見たかっただけだ。」


「…勘弁してくださいよ。」


香坂さんは先程の不機嫌そうな顔から面白そうにクスクスと笑っていた。


「でも古村崎くんがどうしても私を呼ばなかった事を後悔しているならそれに代わる事を享受するのはやぶさかでもないかな。」


一瞬、何を言ってるのかわからなかったがあれだ。仲間外れにしたのだから今度は私を誘いなさいって事だ。


「…じゃあ次の土曜日ならどうですか?」


「いいだろう。少し暑くなってきて新しい夏服が欲しいと思っていたんだ。それに付き合ってもらえるかな?」


「分かりました。是非、エスコートさせていただきます。」


「なら決まりだ。そろそろ仕事に戻るとしよう。…土曜日、楽しみにしてるよ。」


葵さんは機嫌良さげに席を立って食事を片付けに行った。


自分は葵さんのご機嫌取りとはまた休日が潰れた事に頭を悩まされた。




仕事も終わり定時での帰り。


葵さんとは帰り道が違うため会社でお別れ。喧しい橘は部署が違うため基本的には帰りは一緒にならない。(待ち伏せは除く。)


平日は妹も仕事があるためアパートにはやってこない。当分は胃にも体にも優しい生活が送れるのだ。


帰路はこのあいだの少女との事を考え、当分は路地裏での帰宅はやめておこうと自粛を決意。大通りを使って自宅に帰る。


少女に関わってしまったのも自分が路地裏なんて人目の付きにくい場所を歩いていたからだ。援交目的の人達はそういったあぶれた人達をターゲットにしてるのだろう。…と、勝手に推測。


よって人目の多い大通りで帰れば声をかけられる事もないのである。


「あー!しゅーくんやっと見つけたー!」


そう考えていた自分の脳はよっぽど甘ちゃんだったのだとすぐに思い知らされた。


「ねー!しゅーくんでしょ!しゅーくんだよね!」


「…人違いです。」


帰りの大通り。人目のばかりの密集地帯で人目を憚らず大きな声で少女に名前を呼ばれるなんて事案の他ならない。よって自分は人違いだと言って逃げるのがベスト。


「ねー!しゅーくんってば!!!…そんなに無視するなら私にも考えがあるんだからね。」


ミユは何か企むいるようだが聞こえないフリをして前を歩き続ける。


「お巡りさーん!実は私この人にこないだ無理やりホテルに連れて行かれました!」


「嘘言ってんじゃねえよ!!!」


とんでもない事を口にし始めた少女の口を咄嗟に押さえて口封じをする。こないだの事を誤解されるような言い方すんじゃねぇ!


少女はモゴモゴと口を動かしていたが押さえていた腕をタップしてきたので結構息苦しいのだと思う。


「…変な事を口走らなければ離す。」


言葉に対して少女は頭を上下に振り頷いて返事をしたので手を離す。


「…ぷはぁっ。もうしゅーくんいきなり何するの!」


「何すんのはこっちの台詞だ!いきなり社会的死を送りつけてくんじゃねえ!」


「それはしゅーくんが話を無視するからでしょ!」


「普通は二回と関わりたいと思わない。」


「しゅーくん酷い。私をベットであんなに抱いていたのにそんな事言うなんて。」


「変な言いがかりをするんじゃねえ!」


ミヤはメソメソと泣いてる素振りをし始めてそれを周りの通行人が訝しげにこちらを見ている。側からみれば傷心な女の子と酷い男の関係にしか見えない。


「あぁもう、ここじゃろくに話も出来ねえ。ちょっと付いて来い。」


ミユの手を取り近くにある適当なファミレスにとりあえず入る。


「あっ、すいませーん!胡麻団子パフェとミックススイーツ。後タピオカドリンクを一つお願いします!」


が、入った矢先これである。お腹すいたから何か食べていい?と聞いてくるから食べてもいいと答えたが全てデザート。しかも注文は既に5回目にもなる。


「…どんだけお前は食うつもりなんだ。」


「全部。」


「は?」


「お店にあるデザートメニュー全部だよ。」


冗談か?と思っていたが目がやけに真剣なので嘘ではないみたいだ。メニューも残り半分を切っているでコイツは本気のようだ。


「んー。おいし〜い。」


店員に運ばれてくるデザートを食べるたびに嬉しそうに食べる。余程甘いのが好きなのだろうな。


「しゅーくんは何か食べないの?」


「俺はいい。お前のを見てるだけで十分だ。」


「そっか。でもしゅーくん、お前じゃない。ミユはミユだよ。」


「悪かった。ミユ。」


「うん、うん。それでよし。」


ミユは名前で呼ばれた事に満足したのかまた嬉しそうにデザートを食べ始める。


「あっ、そうだ!しゅーくんほら、あーん。」


「…いや、俺は大丈夫だって。」


「駄目だよ。ちゃんと言う事を聞いてくれた人にはご褒美をあげなくちゃ。だからほら、あーん。」


口を開けることに躊躇していたがまた大通りのように変な事を言い出されても仕方ないので渋々口を開ける。


「あ、あーん。」


「あーん。美味しい?」


「…あぁ。うまいよ。」


正直、恋人紛いの事をやらされてかなり恥ずかしい。が、顔には出さないように努める。


「よし。よし。」


ミユはガッツポーズを決めて、とても満足そうにしている。


「じゃあもう一回。」


「まてまてまて!そんな事をするためにここに来たんじゃない。」


ミユがまたデザートを自分の口に運ぼうとしているので話題を変えて阻止する。


「なんで俺を探してたんだ。ホテルに行くのは誰でも良かったんじゃないのか。」


「もう、しゅーくんは真面目さんだなぁ。」


「ちゃんと答えてくれ。」


「…しゅーくんが初めてだったんだよ。」


「?」


「しゅーくんに抱きしめてもらえた時だけ私よく寝れたんだ。」


「普段は寝れないのか。」


「そうだね。基本的には寝れないかな。でも抱かれた後の少しの間だけなら寝れるの。」


ほんの少しだけだけどね。とミユは小さな声で付け加えるよう言った。


「だからしゅーくんを探してたんだ。しゅーくんと居ればまたよく寝られるかもしれない、と思って。」


「俺はミユの安眠枕になれってことか。」


「んーまぁ間違ってないし、そうといえばそうだね。」


「俺に拒否権は?」


「ホテルにいたいけな少女と入った事を通報されたく無かったら。」


「…つまり無いって事だな。」


「しゅーくんが素直でミユは嬉しいな。」


「ほぼ恐喝と同じ事をだがな。」


「はて?なんのことやら。」


ミユはとぼけたように知らないフリをする。


「まぁまぁ、しゅーくん。私も寝たいだけなんだよ。別にえっちな事までしろなんて言わないからさ。私が寝られるように手伝って欲しいだけ。それぐらいなら協力してくれてもいいでしょ?」


「まぁ、それぐらいなら…。」


「よしよし。ならまず、手伝ってくれるしゅーくんにご褒美を与えなくてはいけないね。」


ミユは先程まで下げていたデザート付きのスプーンをこちらに向ける。


「…それはやらなくちゃいけないことか?」


「大事なことです。」


それからミユの満足するまでデザートを口の中まで運ばれた。





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