第24話別れの時8

 退院の日が続くがかえでは出てこない。今日は雪が降って肌寒いが一人非常階段で続けて交換絵物語を描いている。寒いので誰も出てきていない。最近は橙の電車に窓を描くし時には運転手を描くこともある。これは見えているわけではなく想像だ。かえでの影響だ。かえでには見えないものがよく描かれている。とくに天使がよく描かれている。

「彼氏?」

 この看護婦は私のことをそう呼ぶ。彼女にはかえでの部屋の状況を見てきてもらうように頼んでいる。

「まだ微熱があるようだけど元気になっているわ」

「話出来た?」

「ええ、この帽子上げてほしいと言ってた」

 ピンクの毛糸の帽子だ。

「その帽子の中に写真が入っていると言っていたわ」

と渡しながら、

「どうこれから?」

 度々誘われている。だが私にはかえで以外は全く興味がない。黙っているといつの間にか消えている。私が退院するまでに出てこれないと覚悟したのだろう。ピンクの毛糸の帽子は彼女が抱かれたい時に被る帽子だ。彼女は7色の帽子を持っていてその時の気持ちで帽子の色を変えるのだ。

 帽子は裏生地が貼ってあってその間に写真が入っていた。これは秘密基地で撮った二人の裸写真だ。まるで裸の結婚式のようだ。この後彼女は画面を見て噴き出したのだ。それは私のものが上を向いていたのだ。この1年2か月が私の人生の空白時間になるのだ。

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