第25話別れの時9

 朝食の後鞄に入っていたズボンとセーターを着る。鞄の中には丁寧に画帳を仕舞い込む。それからかえでの部屋に行って本棚に交換絵物語を返す。最後のページには元気に出てくるのを待っていると眠り姫に語り掛けている。帰ってきたらこれを見てくれるはずだ。

 部屋に戻ると母がもう立っている。ジャンバーを着せられ病院の門を出る。

「タクシーに乗るわよ」

「あそこの駅から電車に乗りたい?」

「仕方ないわね」

 母はそれでもしぶしぶ商店街を歩き出す。このアーケードも非常階段から見えた。私は階段を上がると駅の先頭まで走る。ここから非常階段が見えるのだ。非常階段には寒いので誰も出ていない。かえでの個室のもまだがあるだろうか。私は何度も何度も手を振る。

「行くわよもう」

 私は聞こえないように手を振っている。

「誰かいるの?」

 それに答えないでひたすら手を振り続ける。窓の中にいるかえでが見えたように思った。見ようとしたらなんでも見えるのよ。その声が聞こえたようだ。

「行っちゃうよ」

 母が追い付いてきて腕を引っ張る。橙の電車が遠ざかる。

 いつかまた会いたいよ!いつの間にかぼろぼろと涙が溢れてくる。そこにかえでの笑い顔が見えた。



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