第21話別れの時5
入院して1年が過ぎた。すっかり学校のことは忘れている。それに親しい友達もいない。今日は母が来て検査結果を部長の診察室で聞く。
「今回の検査で菌が発見されませんでした。だが安心はできません。再発して戻ってくる人が10%ほどいるのです」
「でもこのままでは小学校に留年となるのです」
「聞いていますよ。1か月後再検査でOKなら退院されていいでしょう」
退院と聞いて私は少しもうれしくなかった。かえでと別れる。それが頭に浮かんだのだ。
「妹は今年から学習塾に通っているの。私立の中学を目指している。それで二人の部屋は今は妹の勉強部屋にしたわ。戻ってきたらしばらくおばあちゃんの部屋に預かってもらう」
ついに私の居場所がなくなったようだ。
母が帰ると画帳を持って非常階段に行く。もう寒くなって誰もいない。夕陽の中を橙の電車がゆっくり駅に入ってくる。
「なんか元気ないようね?検査結果が悪かったの?」
「いや反対だ」
「だったら?」
「退院したらかえでともう会えない」
「そうね。私一人取り残されるのね。私も新しい恋人を見つけないとね」
と言ったが寂しそうだった。
「私ブログを作ったの見てみる?」
私に手を引っ張るように部屋に連れて行く。パソコンを開くと『かえでの部屋』というブログが現れる。ピンクの帽子を被ったかえでの写真がプロフィールに貼ってある。『眠り姫』と言う作品を描きはじめている。絵本のようだ。
「綺麗だなあ」
「でも大変なの。1ページ拵えるのに1週間もかかったの。でも嬉しいの。もう100人も見に来てくれたわ」
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