第11話秘密基地3
看護婦に頼んで車椅子を出してもらった。私は車椅子の押し手だ。今日は水色の空に筋雲が見える。
「あの看護婦さん覚えている?」
「いや?」
「秘密基地で見た看護婦さんよ。乳首が大きかった。きっと子供がいるのよ」
「よく知ってるな?」
「女性週刊誌を見ているもん」
「まだ歩けない?」
「これ見てよ」
とパジャマのズボンを腿まで上げる。何とほっそりし過ぎた脚だろう。
「すっかり肉が落ちたわ。ひろし君の絵では私は眠ったままよ。早く起こしてね?」
「今日起きるところを描くよ」
「絵はまだまだだけど文章は好きよ」
こうして話しているときは他の人は気にならない。今日も常連の子供たちに年寄りがいる。
「あの橙の電車が停まる駅の名前知っている?」
「いや、聞いてみようか?」
「そんなこといいよ。私はもう名前を付けている。天国行きよ。だからひろし君の橙の電車のようにぐるりと回らない。そこから空に飛ぶの。いつか漫画で夜行列車が空を飛ぶのを見た」
空を飛ぶ発想は私にはなかった。かえでは足をバタバタしている。
「痛い?」
「筋肉を戻したいの。そうしないと秘密基地には行けない」
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