第10話秘密基地2

 蝉の声がもの悲しい。朝は涼しい風が吹き込んでくる。いつものように朝食を済ませると非常階段に陣取る。かえでとの交換絵物語はもう私だけの物語になっている。病気になったかえでの横でいろいろ話をしている絵が続いている。もう3か月になるか。毎日一番にかえでのベットを覗きに行く。何よりも恐ろしいのは本棚が整理されることだ。私の部屋も1人そうしていつの間にかいなくなっていたのだ。

「彼氏」

 背中から声を掛けられて振り向く。かえでの隣のベットの姉さんだ。

「呼んでいるよ」

「へえ!」

 私は小走りにかえでの部屋に行く。

 小さくなった水色の毛糸の帽子を被ったかえでだ。

「帰ってくれたよ」

「待っていたよ」

 私は手に持っていた交換絵物語を布団の上に置く。彼女は黙ってあの止まっていた日から頁を繰る。

「秘密基地に行ってくれるのね?」

「ああ」

「私は森から迎えに来た魔女の手を懸命に振り払った。まだやり残したことがあるの。でもまだ歩けないの。眩暈がする」

「お母さん来てたよ」

「会ったわ。結婚すると言っていたわ。それと私はおじいちゃんのお墓に入ると言っていた」

 何という母だ。

「もう余命の時間はとっくに過ぎている。でも私はやり残したことするまで行かないよ」

 私はそっとかえでの手を握った。冷たい手だ。




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