第9話秘密基地1

 あの日から私とかえでは姉弟のようになった。かえでは兄弟もなく一人ぽっちだから私を何くれと面倒を見てくれた。私は妹と疎遠となっていたから甘えるようになった。だがどうしてか二人とも秘密基地を避けていた。交換絵物語は少しずつ過激になっていくのを気付かないでいた。

 真夏になってかえではまた個室に入った。私は交換絵物語を持ったまま毎日かえでの部屋を訪ねた。今度は10日経っても出てくる様子がなかった。そんな日初めてかえでの母を部屋で見た。母親の匂いが全くしない歳の離れた姉のようだった。

「今回は覚悟してください」

と医師が言う言葉に吃驚した。

「いえ、入院した時から諦めています」

 冷たい声だ。

 私は耐えれなくなって非常階段に行き橙の電車を描く。そう言えば悲しいことがあればただひたすら絵を描く子だった。何台も何台も電車を見送り赤い太陽が沈んだ。死という現実を初めて考えた。もうかえでには会えないかもしれない。かえでが秘密基地に行こうというのを無意識で拒んだ。それと誰にも隠していたことがある。それをかえでには今話をしたい。

 帰りに夕食が運ばれている中また部屋を覗いた。かえでのベットにアロハシャツを着た男が立っている。かえでの母が立ち上がって男の腕に手を絡ませる。こんなところで待ち合わせしていたのだ。かえでは母のことを滅多に口にしなかったのはこれなのだろう。悔しさで涙が溢れる。

 その夜私は交換絵物語を連続して描いた。花の咲き乱れる秘密基地の森だ。かえでが目を閉じていて私が彼女の胸で寝ている。そのかえではピンクの毛糸の帽子を被っている。ピンクは勝負色だとかえでが言っていた。そう言えば秘密基地に誘ったかえではピンクの帽子を被っていた。

 その夜夢の中にかえでが出てきた。どういうわけか小さなリュックを背負っていた。私は引き留めようと手を伸ばすが届かない。

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