5.《南浦和ユキの日記》2008年5月22日より

2008年5月22日 その1

やばい、やばい!

2日も日記サボっちゃったよ。


あ、どうも。南浦和ユキです。

この3日、色々あって大変だったのだ。

あと19日の日記が長すぎて

プチ燃え尽きた、というのもある。

その4は多すぎた。

これからは、ほどほどにしていきたいね。


それはそうと、人がこうして

日記を書いている横で、テレビを見て

ゲラゲラ笑っている885系の

やかましさはどうにかならないだろうか。


「前回の岡村の熱湯風呂、

 反響良かったんだろうね。

 定番コーナー化してるw」


いやいや。「w」じゃないでしょう。

そりゃめちゃイケは面白いけど、本当に

こいつは魔法の国の使い魔なのか?

ちょっと人間の社会に溶け込みすぎじゃ

なかろうか。

夜中までずっとお笑い番組ばかり見てるし。

しかも、それを注意すると、


「あ、これでも私、インコ界の

 みつまジャパンと言われてまして

 お笑いには、ちょっとうるさいんですよ」


と、微妙な例えを入れた返事が返ってくる。

そんな深夜番組でしか見れなかった

ピン芸人なんて誰が知ってるんだ。

しかもそれ、本当に言われてたとしても

褒めてないと思うし。

すると885系は、羽根の先を

顔の前で上下に揺らしながら言う。


「まぁ、そんなこと、

 ど~でもいいんですけどね」


正直、そのみつまジャパンのモノマネが

引くほど似てたので吹き出しそうに

なったけど、あたしは笑ったら負けだと思い

必死に我慢して日記に集中することにした。

そもそも、お笑い番組はタモリ倶楽部だけで

充分だ。


とにかく、自分の中でも整理したいんで

この3日間のことをざっとまとめておこう。


まず、ハツノリ先輩のこと。


電話では「大丈夫」と言われたけれど、

結局あれから一度も連絡が取れないし、

学校にも来ない。

さすがに大丈夫なわけがないよなあ、と

思った。


で、これはやっぱり選挙のライバルたる

現生党が、彼を陥れるために拉致監禁して

いるのではないか、という疑いを

持ったわけだ。さすがのあたしも。

定期演説をしなかったら失格になっちゃう

らしいから、たぶん、それを目論んでの

ことだろう。

関係者に疑われないよう、彼に

「大丈夫」と連絡させてるのかな。

どうやってるのかはわからないけど。

何かで脅して無理矢理……だとしたら、

ちょっと許せないぞ。

いや、それ以前の段階でも充分に

許せないけど。


というわけで、生党の関係者を

調べてみようと思ったのが一昨日の話。


まずは、変身能力を駆使して

生党の教員への聞き込み。


税田摩真人神が、なにやら事情を

知っていそうだったので、再び神経痛に

耐えつつ東先生の姿で尋ねてみた。

時間が10分しかないので、そうそう何度も

使えないのがこの能力の厄介なところだ。

本人と鉢合わせてもいけないし、

ニセ者だとバレてもいけないし、

さらに話を手短に済ませないといけない。

度胸と話術が試される仕様だ。

なんだ仕様って。


税田摩真人神も東十条先生も、

現生党の派閥だったはず。

あたしは摩真人神に声を掛け、

まずは、どうとでも取れるように聞く。


「磯子君の件、どうしてましたっけ?」


確か、ハツノリ先輩に関しては前に

「いつまで生徒に隠しておくのか」とか

言っていた。

なにか知っていて、それを生徒に

隠しているのは間違いない。

これで伝わればいいなあ、と思っていると、

摩真人神は眉を寄せ、みるみる怪訝そうな

顔になっていった。

あ、これはヤバいか……?


「さっき伝えたばかりじゃないですか。

 生徒には隠し通しますよ」


うう、それが何かを知りたいのに。

間が悪かったか。

それに対し、あたしがそうでしたっけ、など

曖昧な返事をしていると、勝手に話を

続けてくれた。さすが、神だね。


「まあ、彼には気の毒だけど、逃げた上に

 行方不明だから仕方ないですよ。

 今度の選挙、我々の生党は結局、

 彼じゃなく品川さんを推すみたいですし」


……おろ?

ちょ、ちょっと話が見えなくなってきたぞ。

ええと、品川さんというのは、もともと

現生党からの擁立候補と言われていた、

これまた優等生の

品川 紀香江(シナガワ ノリカエ)先輩の

ことだろう。

てことは、生党はハツノリ先輩を

推すつもりでいた?

でも、先輩がいなくなったから、品川先輩に

戻した?

え? どゆこと?

しかも、逃げたって? ハツノリ先輩が?


「あの、それで、隠し通すってのは、

 どれの……?」


「いやだなあ。磯子君を生活指導室の

 地下倉庫に幽閉してたことですよ」


なんと。

これは色々と驚くことばかりだが、

残念ながらそろそろ時間一杯だった。

あたしは適当に謝辞を告げ、教員室から

立ち去る。

南浦和ユキは定刻運行厳守だ。遅延は

許されない。


それから放課後を待って、生活指導室に

行った。

もうハツノリ先輩はいないみたいだけど、

幽閉していた地下倉庫ってのを

見ておきたかった。


虹彩認証のロックを解除して侵入し、

地下倉庫の入口を探す。

部屋中をくまなく調べていると、

ロッカーの後ろにスイッチを発見した。

これか?

スイッチを押すと床の一部がゆっくり開き、

地下への入口が現れた。なにこれすごい。

「なんと かいだんが みつかった!」

あたしの頭の上からそんな声が聞こえた。

そういや、いたんだ。インコ。

いや、でも確かに「なんと」って

言い得て妙な感じ。

実際、玉座の裏を調べた勇者は

こんな気分だったんだろうなあ、

などと思いながら、あたしは階段を

下ってみた。


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