2008年5月19日 その3

さて。

ここで、さっきの磯子ハツノリという

人について説明しておかねばなるまい。

いや、これはあたしの日記だから

書かなくてもわかってるんだけど。

万が一、記憶喪失になってしまった時の

ために書き残しておくことにする。


ええと。

磯子ハツノリ先輩というのは

うちの中学の3年生で、頭脳明晰、

容姿端麗、成績優秀で、今期の

生徒会長候補の筆頭でもあり、

それでもってぶっちゃけてしまうと、

あたしの彼氏でもあるのだ。カレシ。

語尾上げてね。


あ、いや、彼氏って言っていいのかどうか

ちょっとあれで、よくわからないんだけど。

たぶん、そう言ってもいい関係なんだと

思うけどなあ……。

なんだか思い込みの激しい乙女みたいな

感じだけど、ともかく、あたしは

そうじゃないかと思ってるわけだ。

むう。言い訳すればするほど怪しいぞ。

まるで痛い女の子みたいじゃないか。


まあ、そのあたりの説明は後に譲るとして。


で、そんなハツノリ先輩が、どうも

3日くらい前から行方不明になっている

ようなのだ。

“なっているよう”と、曖昧な言い方をする

だけあって、実はそのあたりにはなにかと

疑問点が多い。

単なる病欠という噂もあれば、事情があって

姿を隠しているとか、実は身代金目的の

誘拐をされて秘密裏に捜査が進んでいるとか

生徒会選挙のライバル候補が彼をおとしめる

ために監禁してる……とかとか。

ともあれこの3日、学校にも来ないし、

連絡も取れない状態なのだ。

ちょうど選挙期間まっただ中の時期という

こともあって、このことは学校中で

話題になっていた。


あたしも彼には何度も連絡したんだけど、

電話も通じないしメールの返事も来なくて、

そりゃもう心配しているのだ。

こんなのんきな日記つけてるけど、

実は心の底から心配してる。

ホントだってば。

あああ、心配だよう。

ほらね。

変身の能力を手に入れたときも、

これが彼の捜索に役立たないだろうか、

なんてことを考えてたわけだし。


だから、さっきの税田先生の発言は

とても気になった。

まるで先生たちはハツノリ先輩の居場所を

知ってるような感じだったけど……。

どういうことなんだろう。

これは後で探ってみなければ。


で。

生活指導室のドアは、なぜかここだけ

妙にハイテクで、瞳の虹彩認証システムが

搭載されており、登録された人でないと

カギが開けられないようになっている。


しかしそんな時にも、有能美人スパイたる

あたしは慌てない。


変身をすると、その人の虹彩、指紋、

声紋なども完全にコピーされることは

885系に確認済みだ。

あたしは再び東先生の姿に変身して、

難なく生活指導室のカギを解除する。

このあたり、なんかゲームで使えそうな

設定だよね。何か狙ってるのかしらん。


さて部屋の中に入ると薄暗く、部屋の中央に

警察の取調室のように机と椅子だけが

ぽつんと並んでいた。

なんかコワい。こんな環境で指導されるの

やだなあ。

そして机の上には小さな段ボール箱が

置かれており、今朝没収された生徒の

持ち物がいくつか入れてある。

お、これだこれだ。


携帯電話は4~5個あったけど、

マリのものはすぐ見つかった。

だいじなもの、「マリの携帯電話」を

手に入れた!

頭上に掲げるあたし。

ちゃららら~!(ゼルダの伝説のアレ)

これにてミッション完了!

ミッションコンプリート!

そういや、任務コンプリートと言わないのは

なんでだろう。

なんてことを考えちゃうくらいの

余裕っぷり。やるね、あたし。


その時、掲げていたマリの携帯が

震えだした。

メールの着信だ。


お、これがマリの言ってた大事な連絡って

やつかな。

これは、あれかね。やっぱオトコ関係かね。

ぐふふ。

なんて中2乙女に似つかわしくない下衆な

勘繰り方をしつつ、着信中のディスプレイに

目をやった。


すると、そこには


 ───────────────

  メール着信:磯子ハツノリ

 ───────────────


と表示されていた。


……なぬ!?

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