2.《南浦和ユキの日記》2008年5月19日より
2008年5月19日 その1
南浦和ユキです。
あ、また名乗っちゃった。
この日記、あたししか見ないのに。
いやあ、今日は色々と大変だった。
変身ってすごいよ。
……どうでもいいけど、隣の885系が
残像が見えるくらいの首の動きでエサを
ついばんでるのがちょっとうざい。
周りにえらい飛び散ってるし。
こいつ、お腹が空いてたから速かったんじゃ
なくて、これが普通の食べ方だったのか。
と思うと、突然動きを止めてこちらを向き、
「あの、皮むき餌は食べやすくて
いいんですけど、カロリーが高い割に
栄養価が下がるんで、できれば
皮つきの餌がいいんですよね」
などと言い出す。
インコって、実際はこんなことを考えながら
エサ食べてたのか。
でも皮つきはもっと散らかりそうだから
やだ、と素直に伝えると。
「いやあ、しのびないです。
これでも私、インコ界のギャル曽根と
言われるほどの食通だったもので」
なるほど。
でもインコ界も何も、あんた魔法の世界から
来た使い魔なんじゃなかったっけ。
それに、ギャル曽根ちゃんは別に
食通で売ってるわけじゃない気がするし、
よしんば本当にそう呼ばれてたとしたら
単に大食いってことなんじゃないの、だとか
突っ込みたいことは山ほどあったけど、
できれば静かに食べてて欲しいので
あたしはひとこと「うるせえ」とだけ
告げた。
「御意」
インコのくせに変な言葉をよく知ってる。
まあ、中2で“よしんば”なんて使ってる
あたしもあたしだが。
いや、そんなことより本題に入ろう。
今朝のことだ。
教室に入ると、友人の蒲田戸マリがいた。
なんだか深刻そうな顔をしているのが気に
なったので、話しかけてみた。
「おあよ。どうかしたの?」
「あ、ユキ。おはよう。
……え、なに? その鳥」
あたしの頭の上には、どうしても
ついて来ると言ってきかなかった885系が
チョコンと乗っていたのだ。
ヒマだったのだろうけど、頭の上というのは
おめでたい人に見えてしまうので、できれば
勘弁してほしいところではある。
「あ、こいつ? 885系って
いうんだけど……」
こういうのってあまり他人にバラさないのが
定番だけど、まあ、自分からついて来た
くらいだし、ただの拾ったインコって体で
マリに紹介するくらいは大丈夫かな。
しかしマリは、あたしの紹介をさえぎって
言った。
「885系はインコじゃなくてカモメだよ。
もしくはソニック」
しまった、そっちか。
まさかマリが九州の鉄道に詳しいとは。
これ以上深く突っ込まれると面倒なので、
適当に流すことにする。
「まあ、新幹線の静電アンテナみたいな
ものだから、気にしないで」
「むしろ気になるよ、それだと」
「あ、どうぞお気になさらず」
「そう? ……わかった」
うわ。
後のは885系の放ったセリフだった。
まじかお前。
マリもマリで軽く流してたけど、少しは
気にした方がいいんじゃないのかね。
どうやらそれにも気にならないくらい
深刻な状況だったみたいで正直、
色々助かった。
でもって、たぶんアホだ、この鳥。
いや、そんなことより。
一体どうしたのかとマリに聞いてみると、
どうやら朝の持ち物検査で携帯電話を
没収されてしまったらしい。
放課後には返してもらえるのだけども、
「お昼までに大事な連絡が来るから、
どうしても必要」と困り果てている
様子だった。
うむむ。
いわゆる優等生でお嬢系でおとなしい
タイプのマリが、持ち込み禁止の携帯電話を
わざわざ持ってきたうえに、ここまで深刻に
なるとは、よほど大事な連絡なのだろう。
これは友達として一肌脱ぐべきじゃ
ないのかね。ユキよ。
よし。
「任せて。あたしが取りもどしてくる!」
「えっ、ホントに!?」
「じゃ、1限目の代返よろしく!」
そうだ今こそ、あの能力を活かすとき!
あたしは、たかだか三十数人のクラスで
果たして代返が通用するのかということは
考えないようにして、ささっと教室を
飛び出した。
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