2008年5月18日 その2
「で、ステキな能力って?」
あたしは、この885系の不可解な話に
全力で乗っかってみることにした。
詳しい経緯は省くけども、ざっと話を
聞いたところ885系の語る魔法の世界の
設定に矛盾は感じられなかったからだ。
いや、設定っていうと逆に
ウソっぽい感じだけど。
ともかく、あたしにはそれが
信じられる話だと思えたのだ。
それにステキな能力っていうのも気になる。
そりゃあ、気になるでしょう。
乙女としては。
885系は懐の中から(どうやら羽根の
内側に収納があるようだ)指輪のような
ものを取り出した。
「この指輪をはめて呪文を唱えると、
10分間だけどんな姿にも変われる
能力です。名付けて変身能力」
「まじすか!?」
驚くあたし。
それが本当なら確かにステキな能力かも。
885系は続ける。
「あ、いや、すみません。
“どんな姿に”ってのは言いすぎでした。
聞こえを良くするために盛りました。
正確には、“名前と顔をよく知っている
人物の姿に”変身できる仕様となって
おります」
むむ。どうやら限定条件があるらしい。
ていうか、“よく知ってる”だと
だいぶ限られてくるような。
でも面白そう。
あたしはその指輪を受け取って、
右手の中指にはめてみた。
本当かどうかは、試してみれば早い。
「で、呪文って?」
「あ、ちょっと長いんですけど」
「うん」
「"マナク・ジュ・サンバセ・ニカ・ソクミ・
ウラユ・ガマリマ"……です」
「長いよ! 無理!
途中で読み飛ばした!」
魔法の国の言葉なのかわからないけど、
復活的な呪文じゃあるまいし、そんな
ランダム配列の言葉、覚えられないって。
「あ、大丈夫です。この並びであれば、
途中に別の音が入っても効果ありますよ」
「ってことは、文章にして
言いやすくすればいいのかな」
「そです。そです」
なるほどね。
あたしは、呪文を聞き直してメモを取り、
覚えやすいように文字を挟んで
文章にしてみた。
どうせなら昔アニメで見た魔法少女の
ような、カワイイ呪文にしたいな。
ピピルマ的なやつとか。
テクマク的なやつとか。
パンプル的なやつでもいい。
なんたって女子中学生だもんね。
それから悪戦苦闘の末。
あたし専用の魔法の呪文ができあがった。
……が。
「ユキさん、すごいです! これなら
だいぶ言いやすいですよ。天才ですね」
「まじか。これ、言うの?」
かわいらしい呪文とは、ほど遠い
仕上がりだった。
正直ちょっと恥ずかしいけど、
覚えやすさではこれがダントツだから
しかたない。
とりあえず、本当に変身できるのかどうか
試してみないことにはね。
よし! あたしゃ決めたよ。覚悟を。
立ち上がり、よく知ってる人物を
思い浮かべながら右腕を高く掲げ、
その呪文を唱える。
「まもなく13番線に、
快速・南浦和ユキが参ります!」
その途端、指輪から七色の光があふれ出し、
あたしを包み込んだ。
光に包まれている間、たぶん時間にしたら
1~2秒のことだったと思うけども、
まるで身体中の細胞の配列が入れ替わって
いるような感覚で、なんか気持ち悪かった。
“まるで”って言ってるけど、もちろん
そんな体験は初めてだ。
やがてその光が納まると、なんと
あたしの姿は、体型も顔もほとんど同じで
髪型だけが若干違う双子の妹・南浦和マキの
姿に、完全に変わっていた!
「うわ、すごい! ホントに変身した!」
と、鏡に向かいながら大興奮するあたしに
885系が言う。
「あのう、差し出がましいことを言うよう
ですが、どうせ試すならもう少し違いが
分かりやすい人に変身した方が……」
「だって、一番思い浮かべやすかったから。
でもホラ見て、間違いなくマキちゃんの
身体だよ。目の形も若干違うし」
「いや、ぶっちゃけよくわかんないっす」
だんだん885系の態度が
図々しくなってきた。
まるであたしに対する評価が1ランク
下がった感じだ。
失礼な。命の恩人なのに。
「あと、別に手は掲げなくても
大丈夫ですよ」
「いいの。好きでやってるんだから」
でも、この能力はすごいよ。
いろいろと役に立つ気がする。
それに。
今、学校で問題になっている“あの件”も
この能力があれば、どうにかなるかも
しれない。ふふふ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます