快速! 南浦和ユキちゃん

いしやまたかなり

1.《南浦和ユキの日記》2008年5月18日より

2008年5月18日 その1

ええと。

こんちは

南浦和ユキです。

私立浜東中学の2年です。

って、なに日記で自己紹介してるんだろう、

あたし。


ま、いいや。


今日、ちょっと不思議な出来事があった。

あまりに不思議なので、記録も兼ねて

日記につづっていこうと思う。

もしこの先、あたしの身になにかあったら

これが証拠になるだろう。

いや、別になにかの証拠になるような

話じゃないけど。



それは今日の学校の帰り道でのこと。

部活が遅くなっちゃったから、

夕方6時くらいだったかな。

広い交差点に、なにかが落ちてるのが

見えた。

パッと見、布切れかなにかだと

思ったのだけども、かすかに動いたように

見えたので、よく確認してみた。

動物だった。

……鳥かな?

きっと車にぶつかったんだろう。


普段だったら無視して行っちゃうところ

だけど、ちょうど赤信号で車が途切れたので

なんとなくそばに寄ってみた。

インコだ。

今は薄汚れてるけど、本来は真っ白ぽい。

外傷はなさそうだったので拾い上げてみた。

生きてる。弱々しくだけど動いていた。

あ。

そして気づいた。

拾ってしまった以上、また道路に

戻すわけにもいかない。

しかも端から見てる人には、今のあたしは

さぞや動物好きで心優しい少女に見えている

ことだろう。

これはしまった。

その鳥を家まで連れて帰ったのは、

割とそんな理由からだった。


さて。

部屋に戻って、テーブルの上に横たわる

インコを眺めるあたし。

外傷もないので、どう治療したものか

見当もつかない。

指でつっ突いてみると、ピクッと反応が

あって面白い。

いや、面白がってる場合じゃない。


とりあえず汚れを拭き取ってあげた。

思った通り、地は全身真っ白で、案外

キレイな鳥だった。

こりゃ、野良じゃなくて誰かに飼われてた

やつだろうな。

そもそもこんな都会に野良インコなんて

いるのか知らないけど。


それから、エサになりそうな豆とか

パンくずを適当に持ってきた。

するとどうだろう、さっきまで弱々しく

震えていたインコが途端に目を光らせ、

ものすごい勢いでエサをついばみだしたでは

ないか。

エサを入れた器がテーブルに触れるよりも

早く飛びついてきたのであたしゃもう、

ビックラこいたよ。

これが超反応ってやつか。違うな。


……ともあれ。

これはつまり、あれかな。

残像で2つに見えるほどの首の動きで

ガツガツとエサをむさぼる純白のインコを

眺めながら、あたしは思う。

結局、腹減ってただけなのか、こいつは。

安心したというか、呆れたというか。


やがて満腹になった様子の白インコ。

いや、白インコと呼び続けるも

かわいそうなので、適当に名前でも

付けてあげよう。

全身が白いので、とりあえず「885系」と

呼ぶことにした。

まるで摩擦撹拌方式(FSW)により

製造されたダブルスキン構造のアルミニウム

合金製のような、いい名前だ。


さて、そんな885系。

すっかり元気を取り戻し、何事も

なかったようにテーブルの上にちょこんと

立っている。

動けるようになったなら、飼い主に

返さないといけない。

変な疑いをかけられて窃盗罪になっても

イヤだしなあ。窓から放てば、勝手に

帰っていかないだろうか。

などと無責任なことばかり考えるあたし。

そういえば以前、逃げたオウムが飼い主の

名前や住所をしゃべって無事に戻れた

なんてニュースを見た気がする。

こいつもなにかヒントを話したり

しないかな?


「ほら、しゃべれしゃべれ」


なんて冗談交じりに885系を

小突いていると、あたしの顔を眺めていた

その鳥が、深々とおじぎをして。


「あ、どうも。

 お腹が空いて倒れていたところを

 助けてくれてありがとうございます、

 ユキさん」


うわあああ! しゃべった!!

いや、確かにしゃべらせようとしたのは

あたしだけど、ちょっと発声や発音が

流暢すぎてびっくりした。

それに、名前まで……。

そんなあたしの動揺を無視して885系は

続ける。


「お礼に、ユキさんにステキな能力を

 プレゼントします! じつは私、

 魔法の世界から来た使い魔なのです!」


「ええっ!?」


これはまさかの展開。

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