そして二人は


 「戻ってきたのかすみか。てっきり逃げ出したのかと思っていたが」


 「……はいお兄様。決着をつけるために帰ってきました」


 あの後戻ってきた俺たちは、すみかのお兄さんに連れて行かれアパートの

すみかの部屋で父親同伴で喋ることとなった。家族とは思えないほどお互いに張り詰めた空気の中、俺たちは主張をぶつける。


 「お兄様、お父様、私は二人についていきません。私は自分で自分の道を進みます」


 曇りのない瞳ですみかははっきりとそう言い放つ。


 「何を言っているんだお前は。一人だと何もできないくせに何を言ってるんだか。いいから早く来い、お前に選択肢なんてない」


 だがそう簡単に心が動かせるほどヤワな相手ではない。すみかのお兄さんは一切聞く耳を持たずに呆れ顔でそういい、ため息をつく。……確かに、一人ならできることは限られているかもしれない。でも、


 「すみかは一人じゃありません。俺がいます」


 こんな大口を叩けるほど俺は大層な人間じゃないけど。それでも俺はすみかにとってかけがえのない存在だと思っているから。だから俺は二人にはっきりこう言った。


 「……は? 何を訳のわからないことを言っているんだ?」


 「確かに俺なんて大した人間じゃないし、優秀な家庭で生まれ育った訳でもありません。……でも、誰よりもすみかのことを愛しています。それだけは譲れません。だから……俺は絶対すみかと離れ離れになりたくないし、なんとしてでも一生支えていくつもりです」


 「い、一生!? しょ、翔くん……!?」


 なんか思わぬところですみかを困惑させてしまったようだが、それぐらいの覚悟を見せないとこの場を乗り切れる気がしない。正直二人の威圧的な雰囲気は心臓を握られているように心地が悪いけど……それでもなんとかしないといけない。


 「何を馬鹿なことを。そんなたわごとに付き合っている暇はーー」


 「では君はどうやってうちの娘を支えていくつもりだ?」


 「お、お父様!?」


 ここで初めて、沈黙を貫いていたすみかのお父さんが言葉を発した。この質問……俺は一体どう答えるのが正解なんだろうか。……いや、悩んでも仕方がない。ここは心のままに答えるしかない!


 「……俺はきっとすみかにすごく贅沢な暮らしはさせてあげられないと思います。俺は料理しか長所がない人間ですから。それでもすみかを幸せにすることはできます」


 「幸せにするだけでは支えることはできないが?」


 「わかっています。だけど人間は幸せ無くして生きることはできないはずです。それに……実家に帰ってご家族と過ごすことではすみかは幸せになれません」


 「……なるほど」


 そうすみかのお父さんが言うと、数秒沈黙が訪れた。一体何に納得したのか、俺の思いは通じたのか、固唾を飲んでその答えを待つ。


 「……確かに、そうかもしれない。君の言う通りだ。」


 「……え?」


 意外だった。俺の主張はすぐには伝わらないとばかり思っていたが、すみかのお父さんは俺の主張に納得してくれたようだ。……でもなんで?


 「私たちは常に結果を求め続けてきた。そしてそうするよう教育してきた。だがそうだ、幸せ無くして人間は生きられない。……すみか」


 「は、はい!」


 「約束通り大学には合格しなさい。それさえできれば何も文句は言わない。だが高校を出たら全て自分でやるように」


 「そ、それって……大学からは何をしてもいいってことですか?」


 「……そうだ」


 「!!!」


 これ以上ない展開だ。俺たちの思いがちゃんと思いをぶつけたからこそ、この結果が得られたに違いない。……よかった、すみかと離れ離れにならなくて済む!


 「では帰る。……すみかのことを頼んだぞ」


 「は、はい!」


 そしてすみかの父親は車に乗る。去り際にすみかのことを頼まれたのは信頼を獲得できたってことでいいのか? ……きっとそうだよな。


 「……俺は認めないからなすみか。どうせお前は何もできない、考えを改めるのなら今のうちだ」

 

 だがすみかのお兄さんは認めていないようで、まだ俺たちのことを敵視している。だけどもう俺たちはもう、覚悟を決めたから。


 「ご心配ありがとうございます。でももう大丈夫です。私には翔くんがいます。……きっとどんな困難だって乗り越えられますから!」


 「……ちっ」


 吐き捨てるように舌打ちをして俺たちを睨みつけ、お兄さんも車に乗ってここから去っていった。……また来るかもしれない。けどまた来たって追い返せばいいだけだ。


 「……やりましたね!!! 大好きです、翔くん!!!」


 「うわっ!」


 車が遠くなったのを見計らってか、すみかは俺に思いっきり抱きついてきた。今までにない積極的な行動だな……。う、嬉しいけど。


 「……本当、良かったよ。これでもっと二人で居られる」


 「もっと、じゃなくて一生、です。……ふふっ」


 「そうだな、そういったからな。……それじゃあ、記念に美味しいご飯でも作るよ。これからの俺たちの未来に向けて」


 「!!! はい!!!」


 

☆☆☆

めちゃくそ遅くなってすみません。次回最終回です。

 

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