踏み出そうとしても……文化祭は幕を閉じる


 あっという間に、文化祭は終わってしまった。きっと想像以上に楽しくて、いろんな人とこれまでにないぐらい交流ができたから時間の流れが早く感じたんだろう。


 だけどそれ以上に……衝撃だった。


 のどかさんはとっても勇気がある人だ。翔くんにほぼ思いを伝えていたから。


 それに比べて私は……翔くんに思いを伝えることは一切できず、ただ一緒にいるだけだった。それじゃあ何も先には進めないことなんてわかっているのに、それでもそうできなかったのは私が臆病だからだ。


 ……だけどやっぱり私は翔くんが大好き。だから諦めたくない。……でもやっぱり……。


 「すみかちゃん! こっち来て!」


 そう思い悩んでいた時、のどかさんから手招きされる。まさかこうして呼ばれるとは思わなかったから私は思わずびくりとしてしまい、挙動不審になりながらのどかさんの元に向かった。


 一体何を言われるんだろう? も、もしかしてもう二人が付き合ったってことを言われるのかな……? そ、それはとてもおめでたいことだけど……だけど……。


 「お疲れ様ー。昨日も今日も楽しかったね!」


 「は、はい! とっても楽しかったです!」


 最初の会話は何気ないものだった。のどかさんも特に変わった様子がなく、いつも通りの感じだった。だけどちょっと前にあんなことがあったから、どうしても私が普段通り見ることができない。


 「でね、さっきのことなんだけど……」


 「……は、はい」


 そして話は先ほどのことについて。のどかさんは深刻な顔になり、私もそれにつられて静かに耳を傾ける。や、やっぱり二人の間で決着がついたのかな? 


 「……私、冬に大事な試合があるからさ。その試合に勝ったら告白するつもり。だからまだ告白はしてないんだ、あんなことしておいてね」


 「そ、そうなんですか……」


 そっか……のどかさんはまだ告白してないんだ。……情けないけど、それを聞いてホッとしてしまった。でもこれからするって決めているのどかさんと違って、私は……。


 「今告白して、もし仮に付き合えたら……翔が一番になって練習にも身が入らないだろうし……冬の試合で勝つことは私自身のけじめでもあるから。だからさ……もしすみかちゃんがその間に告白して、二人が付き合うことになっても……私は仕方がないと思ってるよ」


 「……」


 なんて心の広い人だろう。どこかで翔くんを取られることをとても恐れている私と違って、のどかさんは割り切っている。ああ、やっぱりのどかさんはとても素敵な人だ。それに比べて私ときたら……。


 「……でもね、はっきり言って私はすみかちゃんに嫉妬してるんだ」


 「……え?」


 「いやーだってねえ……理由は言わないけど、もう嫉妬をせざるを得ないというか」


 「ど、どうしてですか!? わ、私何か悪いことをしましたか!?」


 全く思い当たる節がないけど、のどかさんがそういうということは何か気に触ることをしてしまったのかもしれない。一体何が原因なんだろう……。


 「えー強いていうなら……気づいていないところかな」


 「な、何をですか?」


 「言わなーい。多分そのうちわかるよ」


 「わ、わかるって……」


 あからさまにからかわれては、結局何が原因なのか知ることができなかった。でもなんだかのどかさんの表情がどことなく悲しそうな気もして……私の心境からモヤモヤしたものが外れない。


 「これからしばらく私は練習に打ち込まなくちゃいけないから、またすみかちゃんとは一緒にいられないけど……良きライバルとして、応援もしてるからね!」


 「は、はい……!」


 本当にいい人だ。同じ人を好きになっていなければ親友になれたのかもしれないと改めて思う。でももう引き返せないところまできてしまった……。それに、のどかさんは自ら不利な状況を受け入れている。


 こんなに恵まれている環境があるのに、それでも私はどうしても……告白が怖い。


 私の家族のことがあるから?

 告白を断られたら辛いから?

 このままの関係を続けたいから?


 きっと全部なんだろう。どこまでも怖がりな私はいつまでたっても前に進めない。うじうじしてるだけの私なんか翔くんも……。


 「すみかちゃん!」


 「ふぇ!?」


 そんな頭がマイナスに傾いている時、のどかさんが私の頬をつねってきた。全然痛くはないんだけど、いきなりのことで私は動揺を隠せない。


 「すみかちゃんが思っているよりも可能性は広がってるよ! ほら、こんなにすみかちゃんのほっぺたも伸びてる! てかめちゃくちゃ柔らか! 羨ましい!」


 「え、え、え!?」


 めちゃくちゃだ。言っていることがめちゃくちゃすぎて理解するのに時間がかかった。だけど……


 「……そ、そうかもしれませんね!」


 マイナスによっていた心がポカポカした。のどかさんが明るく接してくれたおかげなんだろう。やっぱり素敵な人、私が尊敬する人だ。


 「あ、ありがとうございますのどかさん!」


 「えー私はすみかちゃんのほっぺたを堪能しただけだよ。いやーよかったよかった。それじゃ、また片付けしますか!」


 「はい!」


 結局文化祭では前に進めなかったけど、道は開けた気がする。あとは私自身が……進むだけ。


 

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