文化祭は幕をあける
『ただいまより、文化祭を開始いたします』
校内に文化祭の始まりを告げる放送が響き渡り、お客さんと仕事のない学生たちがガヤガヤと校内をうろつき始めた。この日のために色々と準備をしてきた俺らだが、やはり緊張してしまうな。……うまくいくといいんだけど。
「なに翔緊張してるの?」
それを悟られたのか、のどかが俺の背中をバシッと叩いて気合を注入してきた。さすがいつも元気なだけある。俺の緊張した顔とは正反対の太陽のような笑顔をしているよ。
「そ、そりゃあ俺はこういうの慣れてないし……」
「そんなん慣れてる人なんてそうそういないよ! この日のために翔が頑張ったこと、私は知ってるから! ほらほら、お客さんが来たよ」
「お、おう!」
まあなるようにやるしかない。ここまでやるべきことはしてきたつもりだし。というわ家で俺は調理場に行き、オーダーを待つ。
「や、焼きそばですね! か、かしこまりました!」
噛み噛みながら精一杯接客をするメイド服姿のすみかは、実に可愛らしい。ただやはりすみかのああいう格好をたくさんの人に見られるのはなんだか色々と複雑な心境があって……。
「おい佐久間! 手を動かせ!!!」
「あ、ご、ごめん!」
ついそんなことを考えてぼーっとしてしまい、同級生からお叱りを受ける始末。割り切ろう、たとえすみかに手を出そうとする輩がいてもそれを許す奴はここにはいない。むしろ恐ろしいことが待っているに違いない。
「はい焼きそば上がり! 次からあげ揚げるぞ!」
しかし予想以上に、すみかとのどかの集客力が凄まじいのか全く無駄口も叩く余裕もなくなってきた。まさかここまでお客が来るとは思えなかったから結構メンタルもきつくなる。だけどもうすぐ昼時を過ぎる。そこまで踏ん張れば……!
「よし、それじゃあ後は任せるよ」
なんとか耐えて、無事俺は今日の業務を終えることができた。もうすっかり身体はクタクタで正直あんまり回る気力はないのだが……。
「翔! 早く行こ行こ! 」
「げ、元気だなお前は……」
のどかがメイド服姿のままで俺の手を引いて、あちこち俺を連れ回し始めた。ちなみにすみかは早めの休憩を取ってもらったので、今は業務中だ。……のどかと違って体力があるわけでもないし、仕方がない。まあ明日があるから特段問題はないけど。
「今すみかちゃんのこと考えてたでしょ」
豚汁を飲んでいる中、のどかが意地悪な笑みを浮かべて俺にそんなことを言ってきた。
「ナナナなんのことだ」
「バレバレだよ。もう、翔ってそんなにすみかちゃんのことが好きなの?」
「い、いや……えっと…………」
やばい、豚汁の味がしない。のどかにも悟られるぐらい今の俺って誰が見てもそういう風になってるってこと……だよな。じゃあすみかにもそれが伝わってる可能性も……。
「ま、これ以上は追求しないよ。……したくないし。でももしまだ告白をするつもりがないなら……冬まで待っててほしいな」
「? それってどういう……」
「あー!!! な、なんでもないから! ささ、早く次行くよ!!!」
何か重大なことを伝えられた気がするが、のどかはそれを考えさせる時間も与えずに俺の手を引っ張って次の店に向かっていった。なんかやけに手が熱い
気もするが、まさか……いやないよな。
「ふー食べた遊んだ楽しかった!!!」
そして終了時刻、俺たちは明日の準備のために教室に戻ろうとする。明日も文化祭があるからあれやこれやメンテナンスをして学校はいまだにガヤガヤとしているのが不思議な感じだ。
「翔、明日はすみかちゃんと一緒に回るの?」
「……まあそうしたいな。でも学校じゃきついだろ」
「なら三人で行く? それなら翔は私とすみかちゃんの付き添いってことになるからいいじゃん」
「うーん……それはそれでやばい気もするが……」
とはいえのどかがうまくカバーをしてくれるってことかもしれない。ならこの話に乗るのが吉だな。ほんと、のどかには助けられてばっかりだ。
「じゃあお願いするよ。ありがとな、のどか」
「いいのいいの。私も、この文化祭終わったらしばらく練習漬けだし。絶対、勝たないといけないから」
のどかは並々ならぬ決意を見せている。やっぱ因縁の相手ということで気持ちも高ぶっているんだろうな。……あれ、そういえば試合って冬だよな。さっき冬まで待ってっていってたけど……い、いやいやまさか。
「じゃあ翔、チャチャっと片付けしよう!」
「お、おう」
少しだけ、俺の思っている未来と違うものが見えた気がする。もしそれが本当なら、俺はどうするべきなんだ? ……でも、まだそうと決まったわけじゃない。その時の俺に委ねるしかないな。
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