慣れないけれどやらざるを得ない


 「え、佐久間がリーダーに立候補するのか!?」


 職員室に向かい、リーダーに立候補するべく担当の教員に事を話すとはっきりとそう言われてしまった。やはり普段学校で目立つような事を自発的に行っていないからこんな反応をされてしまうのだろう。


 「まあちょうど人数が六人だし他の候補とも争わなくて済みそうだから問題ないぞ。それじゃあ企画内容をここにこの場で書いておいてくれ。勧誘は今から行っていいぞ」


 とまあ運がいいのか悪いのか、それでも俺は無事に企画をすることができる立場となったらしく紙にカフェと書いて教員の許可をもらい、職員室を後にした。とはいえこれから一体どうしたらいいのやら……ん?


 「翔、リーダーになれた?」


 バタバタと駆け足でのどかが俺の元にやってきた。先ほど講堂でのどかを取り囲んでいた取り巻きたちも一緒にいて、どことなく俺に強めの視線が向けられている気がするが見ないようにしながら俺は無事慣れた事をのどかに伝える。


 「やったあ! それじゃあここにいるみんなも翔の企画に参加してくれるみたいだし、早くどんなメニューだすか考えようよ!」


 「え、ここにいるみんな参加するの?」


 「もちろん!」


 背けていた取り巻きたちの顔をみると、不本意ではあるがのどかのためだからといかにも言いたげな顔をしていた。これ、のどかがいなくなったらクーデターでも起こされるんじゃないか?


 「あ、しょ……さ、佐久間くん! ど、どうでしたか?」


 続いてすみかもこの場に登場する。もちろんのどか同様取り巻きたちも連れて。こいつらの推しに対する愛って本当尊敬にも値すると思う。


 「リーダーになれたよ」


 「本当ですか! おめでとうございます! それじゃあ私も参加させてもらいますね」


 とすみかは嬉しそうにそう言ってくれたのだが、取り巻きたちはその様子が気にくわないのか、はたまたその中に入りたいのか。次々と参加させてくれと言う人たちが続出した。おかげでいい事なのか悪い事なのか、予想以上に人数が集まってしまい、はてさてどうしたものか。


 「じゃ、じゃあみんなでメニューでも考案しようか」


 困惑状態ではあるが、もうやると決めてしまった以上行動せざるを得ないため、とりあえず俺は皆と会議をするべく空き教室に集める。結構ガヤガヤとするものかと思ったが、案外みんなちゃんと席に座ってくれた。


 「そ、それじゃあい、今からメニューを決めます」


 大人数の前に慣れていないせいか、何回か噛みながらも進行を進めていく。なんだかんだみんなカフェという企画自体も楽しみであるようで、色々とアイデアも出してくれる。もちろんすみかもしくはのどかを通して。


 ……いやー、リーダーの威厳ゼロだなあ……。


 「一つ質問があるのですが」


 そんな中、初めて俺に直接言葉を向けたおそらくすみかファンの女子が真剣な眼差しで質問をしようとしてきた。それに俺は怖気付きながらも質問を聞いてみる。すると……。


 「佐久間さん自身は料理ができるのですか?」


 「……え? あ、ああ一応人並みには」


 意外にもまともな質問だった。そりゃカフェを企画している奴がなにも料理ができなかったら従う方はたまったものじゃないからな。


 「そうだ! こいつは橘さんを餌付けしてやがるんだ! いつも美味しそうな弁当を作ってきやがって……」

 「ウンウン。唐揚げを美味しそうにつまみ食いするのどかの可愛さときたら……」


 「え!? な、なにみんな!? そんなに翔の弁当が気になってたの!?」


 のどかの取り巻きたちが結構怖い発言をしている。そういえばいつものどかに弁当のおかずあげてる時に視線が向けられていたから不思議ではないか。恐怖ではあるけど。


 「なるほど……でしたら明日食材費をお渡しするので、私にもお弁当を作っていただいてもいいですか? あなたの料理の腕がどれほどのものなのか、非常に気になりますので」


 「そ、そんなことをしなくてもしょ……佐久間くんのお弁当は美味しいですよ。私が保証し……あ」


 「……!!!」


 すみかが爆弾発言をしてしまった。すみかと一緒に弁当を食べているのは秘密であるため、この中で知っているのは俺とすみかとのどかのみになる。……というわけだから先ほど質問をしてきた女子に鋭い目線を向けられながらこう言われた。


 「へえ……なるほど。九条さんまで餌付けしてらっしゃると……」


 「い、いえ誤解しないでください! わ、私佐久間くんのお弁当は一回しか食べたことがありません!」


 すみかは精一杯嘘をつく。とはいえもう一度は俺がすみかにご飯を食べさせたということになったので、すみか派から怪訝な表情を向けられる。


 「でしたら非常に楽しみです。一度食べただけで絶賛されるお弁当とやらが」


 ああ、これは確実に満足させる料理を作らなければならなくなってしまった。そうしないともう企画がうまくいかなくなってしまう可能性までもある。ああ、まさか文化祭の企画以前にこんな試練が待ち構えてしまうとは……。


 「なに翔、自信ないの? 翔の弁当ならもうすぐに虜にできるでしょ!」


 そんな不安な心境を察したのか、のどかがゲキを飛ばしてくれた。……そうだな、のどかもすみかも美味しいと言ってくれる弁当だ。きっとこの人たちも満足させられるに違いない。


 「……ああ。それじゃあ明日材料費をもらって、明後日空き教室で食べてもらうよ」


 「わかりました。少しだけ、楽しみにしてますよ」


 質問をした女子は挑発的な笑いを向けて、席に着席した。ほんと、これは舌を唸らせないといけないな。


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