高校二年生の秋

学校でのやらかし


 長くも楽しかった夏休みは終わりを告げ、九月を迎えて学校は二学期を迎えた。性懲りも無く校長は始業式にて長くて退屈な話を長々と話している。きっと校長にとっては一生懸命考えた話の内容なんだろうけど、やはりつまらないものはつまらない。


 「やっと終わった……」


 そしてようやく終わり教室に戻る。ずっと講堂に座らさせられていたからすっかり体は鈍ってしまったため、少し体を伸ばして歩き出す。


 「ん……あれは」


 その途中、たくさんの人に囲まれながら歩くすみかの姿を見つけた。やはり学校の中では有名人で人気者であるため夏休み会えなかった分他の同級生たちは会えたことが嬉しいのだろう。それに対応するすみかはまるで教科書に沿った完璧なもので、俺としてはむしろすみかのその様子を見たのが久しぶりだ。


 「おい翔、なに九条さんのこと見つめてるんだよ」


 「な、なんだよ冬馬! べ、別にそういうわけじゃ……」


 「はいはいそういうことにしておいてやるよ」


 一緒に歩いていた冬馬にはからかわれる始末。ニヤニヤとした表情で俺のことを見ては楽しそうにしてくる。……まあ冬馬は俺とすみかが夏休み一緒に過ごしていたことを知っているからいいけど。


 ただ、やっぱり学校の中で俺とすみかが一緒に遊ぶような関係であることを知られるのはまずい。春にすみかが教室に来た時であれだけの騒ぎになってしまったのだ。となれば遊んでいるなんて知られればきっとろくなことにならない。


 そんなわけだからあまり学校では昼食以外は関わらないように努めないといけないわけだ。……俺としても、あんまりそうはしたくないのだが。


 「しっかし相変わらず九条さんは人気者だな。翔も内心ヒヤヒヤしてるんじゃないか?」


 「そ、そんなことはないからな! すみかが人気者なのは俺も十分知っていることだし、なにも問題はない!」


 「へいへい。……あれ、九条さんの取り巻きたちがこっちに向かってきてるような……」


 「は?」


 冬馬に言われて前を見てみれば、確かに先ほどまですみかの周辺にいた奴らがなぜかこちらに向かってきている。ぐ、偶然だとは思うがなんだか目をギラギラとさせている気もする。


 「あのーすみません。今九条さんに夏休みなにをしたのかお聞きしたら、あなたの下の名前が出てきたのですが……まさか?」

 「どういうことなんですか?」

 「春のあの事件といい、あなたと九条様はどのような関係なんですか?」


 ……気のせいじゃなかった。というかすみかさらっとめちゃくちゃ大きいやらかしをしてるじゃないか!!! あ、なんかすごく申し訳なさそうな表情をしてこっちにきてる。やっぱりぽろっと言ってしまったんだ!


 「い、いやーその……」


 とっさにそのような事実はございませんと言えればいいのだが、やはり俺は嘘が下手だ。口をもごもごさせてしまい、余計怪しまれる行動をしてしまう。そのせいで取り巻きたちの追求はさらに増し……。


 「ち、違いますよみなさん! 決して翔くんと遊んでいたわけではーー」


 「ほらやはり翔くんとしたの名前で呼んでいる!」

 「九条さんどういうことですか!?」

 「やはり二人は……!?」


 「はっ!!! い、いや今のはいい間違いで……さ、さっきのもいい間違いで……」


 すみかがポロポロとボロを出してしまうため、さらに取り巻きたちの追求は白熱したものになり、すみか本人もあたふたとし始めた。俺としては、こっちの方がよく見る光景であるのだが、取り巻きたちには珍しいのかすみかに物珍しい目線を向ける人も出てきた。


 しかし一体どうやってこの場面を乗り切るか……。付き合っているわけでもないため変なことも言えない。てか言えば俺の学校生活が危ない。


 「どうなんですか!?」

 「場合によってはどうなるかわかってますよね?」

 「早くなんとか言ったらどうなんですか!?」


 ただこの追求は一向に止まる気配がなく、これはなにを言っても彼らが満足することはないだろう。ああ、これは確実に詰んでしまった。なにをしても俺らが無事でいられる気がしない。何か……何かいい手はないのか……?


 「あーすみかちゃん! おはよー!」


 そんな時、偶然にものどかがこの場にやってきた。のどかも学校内ではすみかには及ばないもののそれなりの知名度を誇っているため目線がのどかに向かう。


 「あれ、橘さんも九条さんのお知り合いですか?」

 「この男が九条さんと夏休みに遊んでいたということも知っていますか?」

 「先ほど九条さんがこの男をしたの名前で呼んでいることもご存知ですか?」


 さらに取り巻きたちはのどかにすごい追求をしてきた。それを困った顔をしながらも何かを察したようで、のどかはこう話し出した。


 「あーそれは私の弟の名前だよ。夏休みにすみかちゃんと遊んでもらったんだ! その時にこっちの翔とあったから間違えたんじゃないかな?」


 め、めちゃくちゃ苦しい言い訳だ! これで納得は流石に無理があ……


 「なるほど!」

 「橘さんがそういうならそうですね!」

 「ご迷惑おかけしました!」


 納得するんかい!!! やっぱ日頃の行いがものを言うんだろうなあ……。のどかの人柄がなければ助からなかった、まじ感謝だ。


 「それじゃ九条さん、行きましょう!」


 「え、あ、は、はい」


 すみかはのどかにお礼を言いたそうだったが、取り巻きに教室に連れて行かれてしまったのでその場で別れた。人気者も大変だな、多分夏休みの鬱憤が溜まっていたからここまでやるんだろうけど。


 「いやーすみかちゃんも大変だね。あんだけ人気があるとあれこれ追求されちゃうね」


 「そうだなあ……。あれ、冬馬は?」


 「美優ちゃんのところに行ったよ。翔、見捨てられてたね」


 「う……」


 悲しい。もうちょっと友情が固いと思ってたけど。でも男なんてそんなものだよな、彼女優先だよな、うん。


 「でもなあーあんな夏休みいちゃついてたからなーそれを言っても良かったかもなああー」


 いたずらな顔を見せて、のどかはなにやらチラチラと俺に要求する目線を見せる。


 「……なにが望みだ」


 「察しがいいね! じゃあこれは貸しってことで、今度私が困ってたら助けてね!」


 「……へいへい」


 なんか変な要求をされるかと思えば大したことはなかった。……いや、これから次第だけど。でもまあ助けられたしそれぐらいはしよう。


 「さてと、私たちも教室に行こうか。ホームルーム始まっちゃう」


 「そうだなあ……はあ、今日は早く終わるかなあ」


  ――――――――――――

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