番外編 橘のどかと過ごすお正月
注:このエピソードは本編と基本的には関係ありません。僕が書きたいシチュエーションを書いただけです。もしかしたら……という気持ちでご覧くださいませ。
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お正月と言えば気ままに過ごすのももちろんいい。呑気に体を休めてのほほんとこたつに温まるのも最高なのは間違いないだろう。ただ、世の中には常に体を動かしていないといけない人物もいるわけで……。
「ほら翔! くらえー!!!」
「うわっ!」
強烈なスマッシュをお見舞いされて、またも俺は羽根つきで負ける。これでもう二連敗目なんだが……しかも一回も俺は勝つことができていない。だが、それも仕方がないことなのかもしれない。だって……
「の、のどか! 多少は手加減してくれ! お前プロのアスリートなんだから敵うわけがないだろう!」
「へっへーんだ。別に私羽根つきのプロってわけじゃないもん。弱い翔が悪いんだもんね!」
俺の妻、橘のどか……いや、それは旧姓だ。佐久間のどかは現役のプロサッカー選手であるため運動神経も抜群にいい。なので当然運動が全くできない俺が敵うはずもないわけで。
少しは手を抜いてくれてもいいじゃないか……。
「にしたってこんな全力でやる必要もないじゃないか。せっかく日本に戻って実家に帰ってきたんだからもっとこうのんびりとはしないのか?」
「? それじゃあ体が鈍っちゃうよ。アスリートたるもの適度に体を動かさないとね」
「お前らしいというかなんというか……」
「でも翔、そういう私の元気なところが好きなんでしょ?」
「う……」
のどかは俺の元に近寄り、ニヤニヤとした表情を向けてくる。まさにその通りではあるんだが……くう、こうして結婚してものどかには未だにからかわれる。
「そ、そうだよ! だからその好きって気持ちを形にした指輪を渡したんだろ!」
「お! 顔を真っ赤にしてる翔可愛い! ……ま、私も結構恥ずかしいけど」
あの時のどかに指輪を見せてプロポーズをした場面……お互い一緒に異国の地で生活をしている中ようやく慣れてきた中行きつけになったお店で気持ちを伝えた時よりは全然恥ずかしくないが……思い出すと……ムズムズする。
「この指輪をもらった時……めちゃくちゃ泣いたなあ……。もう去年のことなのに、今でも鮮明に思い出せるよ」
「俺もだ。あの店でプロポーズしたから店員にも客にもめちゃくちゃお祝いされたこともあるんだろうけど……まあなんだ、やっぱのどかとこれからずっと一緒にいるって決意をできたからかな」
「ふふっ、これからも頼りにしてるからね♪」
のどかは俺のおでこをつんと人差し指で叩いてニッコリと笑う。
「じゃあ羽根つき再開! ほらほら翔、早く準備して!」
「結局まだやるのか!?」
「だってあと一回どうしても勝たないどいけないからね! ほらほら、早く落書きされる準備をしてよ!」
「落書きされる前提か……。なめるなよ! 俺だってお前との戦いで多少は成長しているんだ!」
とは言ったものの、結局ボコボコにされた。ここまでくるとのどかが強すぎるのか俺が弱すぎるのかよくわからない……。
「やったー! それじゃあ翔、ちょっと我慢してねー」
「う……」
自分の顔の状況をまだ確認できていないためどうなっているのか全くわからないが、意気揚々と俺の顔に落書きをするのどかの様子を見ているとあんまりいい予感がしない。
「おいのどか、俺の顔一体どうなっているんだ?」
「それは鏡を見てからのお楽しみだよ!」
「それはそうかもしれないけど……」
とりあえず宅配便とかがきても受け取らないようにしよう。特に何か頼んだわけではないが……。変な顔を見られてもまずいからな。
「それじゃあ翔、帰ってお雑煮でも食べよう! ……あ、でもどっちの家に帰る?」
「俺の家でいいんじゃないか? というかのどかのご両親も俺の家で酒を飲んでいるみたいだし」
「そっか! なら急いで宴会に加わろう! ほらほら早く!」
のどかは元気いっぱいに俺の手を引っ張って走り始める。のどかは本当にどこまでも元気なやつだよな。……俺の方がこの元気に支えてもらっているまである。本人には、恥ずかしくて言えないけど。
「あら二人とも、羽根つきは終わったの?」
そして俺の実家に帰ると、母さんが出迎えてくれた。家の中からはガヤガヤとしている雰囲気が漂っているためおそらくもう酒に飲まれた大人が何人かいるのだろう。
「はい! お腹が空いたので帰ってきた感じです!」
「あらあら。……それじゃ、二人とも手を洗いに行きなさい。翔、顔を洗うのは鏡を見てからにしなさいね」
「は、はあ……わかった」
さっさと顔を洗いたかったんだが……まあ言われたからには一度見てみるか。というわけで俺はのどかと一緒に洗面所に行き、鏡を見てみる。
「…………なるほど」
鏡を見たとき、俺は思わず笑ってしまった。別に俺の顔がめちゃくちゃおかしいというわけではない。書かれていた3文字を見て、笑ってしまっただけだ。
「笑うことないじゃん!」
「すまんすまん。だけどな……顔に「大好き」って書かれてたらそりゃ笑わずにはいられないだろ」
そう、俺の顔には「大好き」と大きく書かれていた。どうやらのどかが三回勝ちたかったのもこれを書くためのようだ。何もそんなことをしなくてもなあ……。
「のどかが俺のことを大好きであるのは高校の時のあれからずっと知ってるからな。わざわざ書かなくてもわかってるよ」
「ぶーっ! 十数年間気づかなかったくせに!」
のどかは頰を膨らます。それを言われると俺としては大変心苦しいところもあるんだが……。
「それはまあ……なんだ。で、でも気持ちは伝わったよ。そんじゃ、ご飯を食べに行こうか。……俺も多少は作るし」
「うん! 今日も翔のご飯たくさん食べるからね!」
それから俺たちは家族団らんで食卓を囲み、いつの間にか飲めるようになったお酒も飲んで楽しいひと時を過ごした。きっとこれ以上ない幸せを噛み締めて。
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