夏祭りというドーピングを使っても言えない


 夏の風物詩である夏祭り。屋台やら花火が人の気持ちを高ぶらせてワイワイと人の声で賑わうこの祭りは雰囲気だけでも楽しい気分にさせてくれる。


 とまあそれが理想的な夏休みなんだが、都会に来て思ったのは人の規模が違うなあ、ということだ。どこを見回しても人だらけで何かをじっくり楽しむということはほぼ不可能。……だからちょっとだけ気乗りしない部分もあった。


 ただ……。


 「しょ、翔くん……ど、どうですか?」


 「どう翔? 似合ってる?」


 すみかの青色をベースにし、朝顔柄の浴衣姿。のどかの所々可愛らしい花柄がついた黒色の浴衣姿。二人の可愛らしくて美しい姿が俺の気乗りしない感情を吹き飛ばしてしまう。なんだろう、二人とも元々容姿がいいからかなおさら様になっていて……惚れ惚れする。


 「……す、すげえ似合ってる……二人とも」


 「!!! あ、ありがとうございます翔くん!」


 「いえーい! いやーわざわざ選んだ甲斐があったよ」


 そうか、この前ショッピングモールで選んでいたのはこれだったのか。いやーしてやられたって感じ。あの時一緒に選んでいたら今よりは感動が薄れていただろうからなあ……。


 「翔は本当に幸せ者だね。こんな可愛い二人と一緒にお祭りに行けるなんて!」


 「ほ、本当にその通りだよな……俺まじで幸せ者だ」


 「「!!!」」


 二人して目を丸くしてしまう。そ、そんなに驚くことはないじゃないかと思うが、祭りの雰囲気が一つ一つの動作を大きくしてしまうのかもしれない。


 「そ、それじゃあ行こう」


 そして一つ一つの動作を慎重にもしてしまう。俺はちょっといつもと同じように二人と接することはできずおどおどした動作になってしまった。


 「なーに翔。緊張してんの? いつも通り楽しもうよ!」


 「そ、そうだよな。うん、そうだ」


 そんな俺を見かねたのどかは俺の背中を叩いて緊張を解いてくれた。


 そしてなんとか持ち直した俺は二人と一緒にあれこれ楽しんだ。金魚すくいだとか、屋台でチョコバナナを食べるとか、財布が軽くなるまでとことん。


 「結構お金使っちゃいまいましたね。お二人は大丈夫ですか?」


 「やばい。素直にやばい」


 「翔に同じく。ここまで一気に消費するなんて思ってなかったよお……」


 ただ持ち直してはっちゃけすぎるのも良くないな。俺とのどかはバンバン金を使ってしまってもう何も買えない。いやはやちゃんと金額は決めておくべきだわ……。


 「あら翔くん」


 「あ、仙道さん」


 そんな途方に暮れている中、なんか大きい看板を持った仙道さんが俺たちも前に現れた。おそらく屋台の宣伝をしているのだろう。


 「今金がなくなって途方に暮れていたんですよ……」


 「あらら。それは大変ね……。あ、そうだ。ならちょーっとだけこの看板持って歩いてくれたら、お駄賃ぐらいのお金をあげるわ。……私、歩き疲れて」


 「それでしたら全然いいですよ。んじゃ二人はどうする?」


 「私もお駄賃欲しいからついていくよ」


 「お、お二人が行くなら」


 そんなわけで俺たちはなぜか三人で屋台の宣伝をすることになったわけだ。だがこれが意外にも効果があるようで……。


 「ど、どうぞこのお店をご贔屓に!」


 すみかのちょっと恥ずかしそうにした宣伝が男どもの心を掴んでは屋台の場所をよく聞かれ、


 「おいしいよー! 絶対食べなきゃ損だよー!」


 のどかの元気一杯の宣伝は老若男女を引きつけては屋台の場所を聞かれる。俺の宣伝は一切誰も反応しないというのに……はあ、悲しいかな。


 「ありがとう! 翔くんは役立たずだったけど、二人のおかげでお客さんたくさんきたよ!」


 「う……」


 そして約束した時間をすぎると、仙道さんはこっそり俺たちにお駄賃をくれた。俺の分は二人よりも少なくされていたが。……まあ、結果主義なら仕方がないよね。


 「無事にもらえてよかったですね。これでまだ遊べますよ」


 「ウンウン! さて翔、次は何をする?」


 「うーん……あ。あれ撮ろうか」


 ふと目に入った写真撮影の店。そこだとどうやら200円で撮ってもらえるらしく、すぐに写真も渡してくれるらしい。……俺がさっきもらった額ちょうどなので、まあいいかなと思って二人を誘う。


 「しゃ、写真ですか? それでしたら私が撮っても……」


 「それだったらすみかが映らないだろ? まあそれに……すぐに写真欲しいし」


 「あれ翔、結構思い出に浸るタイプ?」


 「う、うるさい! ほら行くぞ!」


 恥ずかしながらも二人を連れて俺たちは写真を撮った。俺だけいい加減な服装で大変違和感のある写真になってしまったが、二人の美しさがそれをごまかしてくれた……いや、余計目立つわ俺のダサさ。


 「いやーほんと青春って感じ!」


 「……本当にそうですね!」


 だが二人は結構喜んでくれたからよかった。……これは友達としての俺たちを写した写真だからな。青春っぽくていいんだ。


 「あ、花火が上がりましたよ!」


 すみかがパーンと上がる花火に気づき、俺たちもそちらに視線が映る。何発も可憐に打ち上がる花火はさらに気持ちを高ぶらさせて、ついに俺の決意も固めさせられる。


 「何翔ポケーっとしてるの? 花火に見とれすぎじゃない?」


 「うん……それもあるんだけどさ。俺、気になってることがあって……」


 「? なんですか翔くん? 悩み事ですか?」


 「うん……そうなんだけどさ……なんか、なんか……」


 言葉が詰まる。本当に今言ってもいいのかわからないから。だけど心はなんでか今こそそれを言えって投げかける。


 「…………なんかさ、俺…………」


 まだまだ言葉が出せない。踏み出すことができない。そうだ、今じゃなくてもいいじゃないか、今言ったら、それこそこの楽しい雰囲気に水を差してしまう。


 「いや、なんでも……ないや」


 結局高ぶった感情に自分で水をかける形となってしまった。あーあ情けねえ俺、今日はとことん情けない。もうちょっとだけ度胸があればいいだけなのに。


 「? 本当に大丈夫ですか? 何か悩み事があればいつでも相談に乗りますからね?」


 「あ、ああ大丈夫。ほらほら、花火見逃しちゃまずい。もっと見よう」


 すみかは俺を心配して不安そうな顔をする。その姿は浴衣の美しさと重なっていつもよりも可愛らしく見えてしまう。……まあ、その悩みってすみかが原因ではあるけど、そうは言えない。だって……。


 多分俺、すみかのことが好きだから。


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