荷物持ちは大変だ


 「うわーこれ可愛い! 翔、これとかどうかな?」


 「いいんじゃないか?」


 「うわー投げやり! まあいいや、試着してくるね」


 のどかから罰として課せられたのは、ショッピングモールでの買い物の荷物持ち。どうやら実家に帰省した際に服を買うためのお金を渡されたらしく、そのためのどかは今服を買っているというわけだ。


 「しょ、翔くん。この服……どう思います?」


 「これ? ……すごくすみかに似合いそうなワンピースだな。いいと思う」


 「!!! そ、それじゃあ私も試着してきますね!」


 そして付き添いということでついてきたすみかも楽しそうに服を選んでいる。……少しでもあの家族のことを忘れさせて楽しんでもらいたいな。


 「どうだのどか、それにすみか。服は着れたか?」


 「着れたよー。だけど翔には見せないよーだ」


 「は?」


 「お楽しみは後でってことで。ね、すみかちゃん」


 「は、はい! ごめんなさい翔くん!」


 二人とも更衣室にいながら結局俺はその場から遠ざけられて試着した服がどんな風になっているかは見ることができなかった。二人とも何か企んでいるっぽいけど一体何を考えているんだか……。


 「お待たせー翔。はいこれよろしく」


 「へいへい……。それで、まだ買うのか?」


 「うん、今から買いに行くのが本命だよ。だけど翔には内緒にしてたいんだよねえ……うーん、どうしよう……」


 「それじゃあ俺はあそこの椅子に座って待ってることにするわ」


 「あ、ありがとう翔!」


 「それぐらいならどうってことはない。すみかも一緒に買いに行くのか?」


 「は、はい! ご苦労をかけてすみません翔くん」


 「いいってことよ。それじゃ、じっくり見てきな」


 そんなわけで俺はしばらくショッピングモールにある椅子でくつろぐことになった。こういうところの椅子はたまに居心地のいい椅子もあり、今回はたまたまそれが空いていたのでふわふわの感触を味わう。


 やばいなこれ、眠ってしまいそうだ。


 「おう翔、お前も荷物持ちか」


 「……っ!? と、冬馬!?」


 くつろいでいる中、ふと俺を呼ぶ声が聞こえたと思えば隣に冬馬がいた。いやいや、びっくりするわ突然!


 「いやー海外ボランティアから帰って早々美優が買い物に行きたいと言ってきたんだが……なんか今日一番欲しい服は見せられないってことでここに隔離されたんだよ。翔もそんな感じか?」


 「びっくりするぐらい一緒だ。今のどかとすみかと一緒に来てるんだが、二人とも同じ理由だったよ」


 「へえ…………ん? あれ、お前いつの間に……九条さんのことを下の名前で?」


 「……あ」


 しまった。冬馬はことの顛末を知らないんだった。これは変な風に誤解されてもおかしくないぞ……あーどうしよ、なんて言い訳をしよう。


 「なんてな。もう橘さんから聞いてるよ。翔と九条さん、もうラブラブだったんだろ?」


 「は、半分は大嘘だぞそれ」


 「知ってる。もし本当だったら橘さんが連絡してくるわけがないからな」


 「は、はあ……なら良かった」


 理由の方はよくわからないが、まあとにかく変な誤解をされずに済んで良かった。しかしお互い男には内緒で何を買っているんだか……。水着……か? た、確かにそれは見せられないな! でもすみかの水着はこの前一緒にプールに行った時に見たし……。


 「多分水着ではないぞ」


 「……ってなんで俺の考えていることがわかるんだよ!」


 「いや、めっちゃ赤くなってるからな顔が。翔もまだまだウブだなあ」


 「う、うるさい……。てかなんでプールではないと言い切れるんだ」


 「そりゃあ美優が今更俺に水着姿を恥ずかしがって見せないなんてことはないだろうからさ」


 めちゃくちゃドヤ顔でラブラブぶりを告げられた。まあ正直今更ではあるが、今回の発言はそのまあ……色々と……なあ。


 「……お前ら、どこまで進んでるんだよ」


 「さあ? まあ翔が経験をしたことがないところにはいるかな」


 「お、おお……」


 冬馬のやつ、高校生のくせになんて大人な発言を……! で、でも俺には今そういうことをする相手とかいないし、お、大人になってからでも遅くないし……!


 「ま、俺の方の話はいいや。翔、九条さんとの話を聞かせろ。聖女様とどうやって名前呼びまで持って行ったのかすごく気になる。安心しろ、他の学校のやつには言ったりしない」


 「た、たまたま色々重なっただけで大した理由はない! 名前呼びってそういうものだろ!?」


 「九条さんは話が違う。お前、自分がどれだけ恵まれたポジションにいるかわかってるのか? 九条さんと会話すらままならないやつもたくさんいるってのに……。だがそいつらが翔よりも魅力的か、と問われれば俺は迷わず首を横にふるがな」


 「ほ、褒めてんの?」


 「褒めればすぐに吐くと思ってな」


 「吐かねえよ!!!」


 とこんな風に俺は二人が買い物を済ませるまでの待ち時間、ずっと冬馬の追求をほどよく回避していた。いやー……流石に一緒の部屋で寝てたとかはいえないから結構神経を使ったわ。


 「お待たせー。翔聞いて、偶然美優ちゃんと会った……あ」


 「お久しぶり、橘さん、九条さん」


 そしてのどかたちが戻ってくると、確かに一人増えていた。そう、冬馬の彼女である美優さんだ。……俺、美優さんの苗字知らないんだよね……。


 そして冬馬はのどかとすみかに挨拶をする。……だけど、美優さんから俺には軽くぺこりとされただけで相変わらず嫌われてんなあと思った。


 「なんだ冬馬くん翔と一緒に居たんだ。だったらもうこのままご飯も食べに行こうか」


 「いいねそれ。それじゃあ行こう。じゃあ美優、俺が荷物持つよ」


 「うん、よろしく冬馬」


 自分からエスコートする形で冬馬は美優さんの荷物を持つ。うわ、イケメンだこいつ……これが彼女を持つ男の行動か……!


 「……あれ? 佐久間はのどかちゃんたちの荷物持たないんだ。へー」


 めっちゃ嫌味風に美優さんに言われた。そ、そりゃ俺は荷物持ちだから確かに持たないといけないけど……。


 「う……わ、わかったよ。ほら二人とも、俺が持つよ」


 「え? で、でも翔くん、これちょっと重いですよ?」


 「えーそんな無理しなくてもいいのに」


 「だ、大丈夫……うん。大丈夫」


 二人分なので結構な荷物になってしまったが、なんとかいける。……だけど美優さんから依然として嫌悪感丸出しにされているため、ちょっと気まづい。……これから大丈夫か俺?

 

  ――――――――――――

 読者さまへお願い


 第五回カクヨムコンに参加中です。


 読者選考を通過するためにも、ページの↓のほうの『★で称える』やフォローで応援頂けますと、とてもありがたいです。


 加えてお知らせです。


「完璧美人のクーデレ後輩が俺をめちゃくちゃ甘やかしてくるけど絶対に惚れたりし……ない!」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891975181


 という大学生のラブコメを投稿しました。よろしければこちらも読んで頂ければ幸いです。


 それでは今度ともよろしくお願いします。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る