やらかした代償はもちろん……ね?


 「え、夏祭りにこの店で屋台をするんですか?」


 実家から帰りなんだかんだお金は欲しいのでバイトに勤しんでいた中、休み時間にバイト先の先輩である仙道さんから初耳の情報を得る。


 「そうそう。なんか店長がやりたいんだって。そのためにわざわざ祭りの日は休みにするらしいよ」


 「へえ……あれ? それって俺もいかないといけないんですか?」


 「うーんとね、その日にシフトを入れていたら……あ、入ってますね翔くん。御愁傷様」


 「え……」


 なんてことだ。まさか祭りの手伝いまですることになるとは予想外だった。まだ祭りの予定は何も立ててないが、俺だって祭りぐらいは遊びたい!


 「なんてね、冗談だよ〜。店長が一人で全部するらしいから、翔くんは働く必要はないよ」


 「よ、よかったあ」


 「あ、すごく喜んでる。あれでしょ、お隣さんと一緒にお祭り行きたかったからでしょ? ねえねえ?」


 「う」


 仙道さんの年上特有の巧みな追及に俺は圧倒されてしまう。い、いやそれは思わなくもなかったが、なんかこう、いざ他人に言われるとなかなか認めがたいというか、恥ずかしいというか……。


 「いいなあ青春してて。私とかしばらく彼氏できてないし……はあ」


 「え、仙道さんが?」


 ついつい驚いてしまった。だけど仙道さんの容姿はすみかやのどかにも負けないぐらい素晴らしく、正直彼氏はいるものだと思っていた。だがため息をつく仙道さんを見るとどうやら本当らしい。


 「うん、私結構冷めやすいからさ。だからあんまり人を好きになれないというか……めんどくさいんだよね、恋愛が」


 「そ、そうなんですね……」


 「うーん、本当に好きになった人がいないからかな。でも多分翔くんは大丈夫じゃない?」


 「と言いますと?」


 「常に幸せそう」


 「そ、そんな風に見えてますか!?」


 他人から見た俺はそんな風に見えていたのか……。た、確かにこの人生に不満はないけれど、他人からは幸せそうに見えるんだな。すみかやのどかには感謝しないと。


 「ウンウン、見えてるよお。いいねえ若いって……あ、やばいそろそろ戻らないと。あんまりお客さんはいなさそうだけどね」


 「あ、ほんとだ。それじゃあ……ん? なんか見覚えのある顔が……」


 休憩室から出てみると、何やら目に見覚えのある顔が映った。……あ!


 「翔! やっぱりここにいた!」


 「さ、探しましたよ翔くん……」


 「な、なんですみかとのどかが……?」


 どういうわけか、すみかとのどかが店の席に座っていた。え、何があったの一体? この前すみかと一緒に倒れ込んでしまったことの誤解は解けたはずだし……なんだいったい?


 「翔、今日はなんの日だと思う?」


 「今日? ……??? 明日がのどかの試合だってことは覚えてるけど」


 「あーやっぱり。……はあ」


 「?」


 「翔くん、今日がのどかさんの試合だったんです」


 「……まじ?」


 ……やばい、冷や汗が止まらない。言われてみれば、のどかの肌にはまだ汗と思われるものがあり、さらには額に傷が少しついている。お、俺はなんてことをしてしまったんだ!!!


 「となると今日は……帝華桜蘭との試合だったってこと……だよな?」


 「うん。まあ今日は5−0で負けたけどね」


 「…………」


 のどかにとってかなり大事な試合だったというのに、ほんと俺は何をしているんだ……。これはどんなに謝っても謝りきれない。


 「あ、メンタル面なら気にしないで。そうなんども同じ落ち込みをしてられないし、冬には絶対勝つから。今日は勝算を見つけることもできたからね」


 「そ、そうなのか……よ、よかったあ」


 「だけど! 翔が来なかったのは論外!!! すみかちゃんもギリギリまで探してくれたのに……翔ったら朝からいなかったらしいじゃん!」


 「う……本当にごめん。早く出すぎた……」


 「ぶーっ。じゃあ翔、今日はここでちょっと遅いお昼を食べるけど……もちろん翔のおごりだよね?」


 「そりゃそうよ! 翔くんが悪いものね!!!」


 「せ、仙道さん!?」


 俺がとことん追い詰められている中、仙道さんがとどめを刺す形で話に入ってきた。しかもすっごく楽しそうに。でも俺が全面的に悪いからなあ……。


 「翔くん、店長からは私が翔くんの給料から出しておいてっていっておくわ。女の子を悲しませちゃダメよ。しかも二人も!!! 翔くん、案外隅に置けないのね♪」


 「な、なんか勘違いされてそうですけどわかりました! じゃあのどかとすみか、ご注文は?」


 「スペシャル定食!」


 「の、のどか……」


 スペシャル定食はこの店の中で一番ボリュームがあり、さらには値段も一番高いものになっている。もちろん俺の財布には大打撃だが……うん、仕方がない。


 「……わ、私は唐揚げ定食で」


 「えーすみかちゃん一緒にスペシャル定食頼もうよ。今日は翔のおごりだし」


 「で、でも……」


 「……構わない! もうどんと俺の給料で食べるといい!!!」


 「……そ、それじゃあ私もスペシャル定食で」


 これでもう少しバイトをしないとめちゃくちゃ欲しい声優さんの特装版ドラマCDが買えなくなりました。まあいい、もうこうなったら二人にはとことん満足してもらおう。


 というわけでスペシャル定食……ハンバーグ唐揚げスパゲティの上にカレーのルーをそっとかけて二人の元に届ける。


 「す、すごい量です……」


 すみかは初めてなので当然のごとく驚いてしまう。……でも多分すみかなら食べ切れるんじゃないか? ちょっとだけいつもすみかが食う分量に調整しておいたし。


 「いやーこれこれ。ここにきたらこれだよね」


 そしてのどかは去年もこれを平らげていたから問題ないだろう。というか、むしろこれだけじゃ足りないまでもあるぞ。


 「それじゃあ、いただきまーす」

 「いただきます!」


 そしてのどかとすみかはお互いに食前の挨拶を済ませてパクパクと食べ始める。ああ、やっぱりこの二人の食欲は半端ないわ。


 「……翔くん、やっぱり幸せそうだねえ〜」


 「え?」


 「顔、おごらされてる身なのに、すっごく嬉しそうだよ」


 そう言われて俺は慌てて顔を取り繕うも……確かにおごらされて笑ってるのすげえ変だな。……でもあの二人に俺の作った料理を食べてもらうと、どうにもこうなってしまう。


 「でもイチャイチャしてる暇はないからね! 他のお客さんもいるし、ほらほら働いて!」


 「い、イチャイチャはしませんけど……は、はい!」


 そんなこんなで俺は今日、やけに元気よく働いた。もちろん仕事が終わった後、改めてのどかとすみかには謝罪をしたけど。でも二人とも定食を完食してくれて、さらに美味しかったといってくれたから……素直に嬉しかった。 


 ただなんか、のどかからはさらなる罰として何か買い物に付き合わされることになったけど……。すみかも一緒らしいが、一体なんなんだろうか。


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それでは今度ともよろしくお願いします。


 

 

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