いつになったら言えるんだろう
「私……私……」
伝えるなら、今なのかもしれないと思った。翔くんの優しさは私が思っていた以上に欠かせないものになっていて、これからの人生において翔くんがいないことが、いよいよ考えられなくなった。
だから今この場で好きって気持ちを伝えたい。
だけど同時に、私が好意を伝えれば翔くんの身に危険が生じる可能性だってありえることも考えた。きっと家族は翔くんを認めてくれない。家柄ばかり気にしているため、翔くんの中身なんか見向きもしないだろう。
そのためもし翔くんが私のことを受け入れてくれても……引き離される可能性は大いにある。最悪、もう二度と会うことができないかもしれない。
きっとそうなったら翔くんは一緒に逃げようとしてくれる。だけど翔くんには他にも大切な家族、のどかさんがいる身。私だけのために行動してはいけない人だ。
……そう思うと、言い出せない。こんなにも大好きなのに、たかだか3文字の言葉なのに、どうしてすっと言えないんだろう。
「? どうしたすみか?」
翔くんは言葉を詰まらせる私を心配そうに気にかけてくれる。きっとさっきのことでまだ悩んでいると思っているんだろう。
……でもさっき、翔くんは私を大切な人だって言ってくれた。それって友達と……してなのか、それとも……恋愛感情としてのものなのか、わからない。
「……しょ、翔くんはさっき私のことを大切な人だって言ってました。でもそれは……友達として、ですか?」
最初に言おうとしていた大好き、という言葉からいつの間にか質問に変わっていた。何をやっているんだろう私は。
「…………半分はそうだと思う」
「……半分?」
「…………もう半分は自分でもよくわからない」
だけど翔くんから返ってきた答えは実に曖昧なもので、言っている本人も気まずそうな顔をしていた。……でもそれって、もしかしたら翔くんが私に好意を寄せているかもしれないということにもなる。
やっぱり今言うべきなのかな。……だけど、そうじゃなかった場合が怖い。翔くんとの今の関係もすごく心地が良くて、壊したくない。それに私も……人を好きになったのが初めてだから、なおさら怖い。
「……ヤーやめだこの話! 俺が恥ずかしい!」
「ご、ごめんなさい!」
翔くんが顔を真っ赤にしてそう言う。いつもは私が顔を真っ赤にしているけど、翔くんが顔を赤く染めるなんて珍しい。……でも、その姿も素敵だった。
「と、とにかく今からもらったリンゴを切るから一緒に食べよう」
「は、はい」
だけど完全に話は逸らされてしまった。やっぱり翔くんも気まずさを感じてしまったんだろう。……でも仕方がない。最初から私が大好きだって言えればよかったんだから。
「ほらどうぞ」
そして翔くんは切ったリンゴをお皿におき、それをちゃぶ台の上に乗せてくれる。
「い、いただきます」
りんごはとっても甘くて、とっても美味しかった。翔くんのご実家で作っていたものらしいから、やっぱり翔くんの家はすごい。……
「……どうして、りんごと同じ文字数なのにさらっと言えないんでしょう……」
「……え?」
「……あ」
ど、どうしようもない心の呟きが声に出てしまった!!! こ、これだけであればきっと伝わることはないはずだけど……それでもやっぱり恥ずかしい!
「ご、ごめんなさい翔くん! 今日は帰ります!!!」
すかさず私はすぐに立ち上がり、すぐに帰ろうと駆け出そうとする。だってすごく恥ずかしいから。言葉の意味は伝わってなくてもこのままここにいるわけにはいかない!
「す、すみか! 気をつけて……あ」
だけど私はいざと言う時に失敗してしまう。急いで立ち上がった反動からか、何もないのに転んでしまい、さらにそこには翔くんがいて覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。
「……!!!」
顔が、近かった。多分今までで一番、翔くんの顔を間近で見た。ドキドキする。顔が火照ってしまう。
「……す、すみか。大丈夫か?」
翔くんは、自分の心配を棚に上げて私のことを心配してくれた。その顔は私と同じように真っ赤になって、目線は逸らしていたけれど。
「……は、はい。大丈夫……です」
私も目を見ることができない。……だけど、ここで目を見ることができれば、あの3文字も言えるんじゃないか、そうどこか心の中で思った。だから私は、必死に勇気を出して、翔くんの目を見つめる。
「……ど、どうしたんだすみか?」
翔くんは恥ずかしそうな顔をしつつ疑問の表情を浮かべる。
「……翔くん、私……」
息を整え、ついにあの3文字を言おうとした、その時……。
「翔!!! 私のスマホ知らない!? って……え、ええ!?」
とってもタイミングが悪いことに、のどかさんが鍵が開けっ放しだった扉を開けて入ってきてしまった。
「ち、違うからなのどか! これは偶然すみかが倒れ込んできてこうなっただけだからな!」
「う……そ、それは信じるけど、だったら早く離れなよ!!!」
「もっともだ! ほらすみか、立ち上がってくれ!」
「は、はい!」
結局私は言葉を言えずに翔くんから引き離され、のどかさんには困った顔で「い、意外とすみかちゃんって大胆だったんだね……」と誤解されてしまった。い、いや大胆だったらもうとっくに気持ちを伝えられてるのでは……。
……いつになったら、「大好き」だって言えるんだろう。
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