独り占めもしたい、もっと仲良くもなりたい
台風は結局大したことがなく、今日は翔と橘さんが私の実家にやってくることになった。もちろん来てくれることはめちゃくちゃ嬉しいし、私も色々とおもてなしとかできればいいなって思ってる。
だけど……。
「翔くんがくるんだからそんなジャージなんか着せられないわ! ほらのどか、この服を着なさい!」
うちの母親は私以上に翔と私が結ばれることが望みであるらしく、どこで買ったのかよくわからない豪華な服を着せ替え人形のように着せてくる。これは親心というのかよくわからない……。
「お、お母さん! 私はもうこのジャージでいいの! 翔なんかどうせファッションに興味なんかないよ! この前ワンピース着た時も……」
「そうかもしれないけど貴女の良さを引き出すにもこの服を着るべきなの! それに、翔くんに今とっても可愛い女の子がいるんでしょ? その子に勝つためにも必要よ!」
「う……」
それを言われてしまうと私は反論することができない。九条さん見た目もとっても可愛くて服もかなり素敵。それに対して私は……しま●らで買ったような服ばっかり。ワンピースが唯一まともな服だと思う。
結局私はお母さんが選んだおしゃれな服を着せられて、翔を待つことになった。うう……美術館に行った時よりも攻めた格好になっちゃったなあ。
「お邪魔しまーす」
「お、お邪魔します」
そしてついに翔と九条さんがやってきた。やばい、心臓がドクンドクンなって緊張してきた。
「……どうしたのどか。台風はもう過ぎ去ったぞ」
「……う、うわああああああああああああああ!!!」
なんて翔に白い目で見られてこんなやりとりになっちゃったらどうしよう! 私もう二度と立ち直れないかもしれないよ!
「おいのどかどこにいるんだ! 早く出てこい!」
でも翔が私を呼び出している。ここで逃げ出すわけにもいかないから、私は勇気を振り絞って玄関前に行った。
「……す、素敵な格好ですね! 橘さん!」
まず最初に褒めてくれたのは、九条さんだった。女の子同士、ということもあるのだろう。お母さんが選んだこの服の良さを理解してくれた。
「……確かに素敵だ」
さらに! 翔もこの私を見て顔をほんのりと赤くしながら素敵だと言ってくれた! ちょっぴり恥ずかしそうに褒めてくれる翔が可愛くて、私の心臓はさらにドクンドクンと脈を打つ。
「……だけどなんでドレス?」
「………………お、お母さんが無理やり着せたの!!!」
あーやっぱりこの格好はおかしいよね!!! なんでいきなり純白のドレスを着ているんだって話だよね! う、うう……。
「どうかしら翔く……あ、のどかどこ行くの!!?」
「着替えてくる!!!」
これじゃあ翔に結婚しようって伝えているみたいですごく痛々しい。……い、いやいずれはいうかもしれないけど。だけどそれは目標を達成して、翔の気持ちを確かめた時にいうつもりだから……。
「うう……恥ずかしい」
鏡で自分の姿を見ながら、私は顔を真っ赤にして急いで着替えようとする。だけどさっきお母さんがやったこともあってどうやって着替えればいいのかわからず、ただ呆然としながら鏡を見つめることしかできなかった。
「……将来、これを着ることになるのかな?」
ぼんやりと、これを着る未来について考える。これを着るとき、私は一体どんな心境なんだろう、どんな大人になっているんだろう? 考えることはたくさんある。
でも一番気になるのは、誰と結婚するのか。翔としか想像はできないけど。でももし翔と九条さんが付き合ったら……。
「た、橘さん! 大丈夫ですか!」
そんな先のよくわからない未来について考えていたら、九条さんが急いだ様子で部屋の中に入ってきた。きっと心配してくれたんだろう。
「う、うん大丈夫。だけどこれが脱げなくて……」
「そ、それじゃあ手伝いますよ」
「ほ、本当?」
お互い久しぶりに二人っきりで話すからかぎこちない。もうちょっと砕けて話せれればいいんだけど、翔がいないとどうしてもうまくいかない。
「……九条さん、翔は?」
「翔くんはさすがに着替え途中のところには入れないということで待っていますよ。……でも翔くんが来た方がよかったですよね」
「……」
それを違う、といえば私は嘘つきになる。九条さんと違って今の私は翔と居られる時間に制限があって、翔を独り占めできる九条さんに嫉妬をしているのかもしれない。
だけど私はめんどくさい女の子だから。
「……でも九条さんがきてくれて良かったところもあるよ。また一緒に、二人っきりでお話しできるもん」
もっと仲良くもなりたかった。好きな人が同じ、という時点でそれがどれぐらい難しくて、どれぐらい愚かな希望であるかなんてばかな私でもなんとなくわかる。
だけど仲良くなりたい。翔を関係なしにはできないけど、それでも一緒に笑ってお話ししたいから。
「ほ、本当ですか?」
「うん。だって翔がいるところで一昨日の夜の話聞けないじゃん」
「う……」
九条さんはドキッとした顔で頰を赤くする。翔の小さい頃の話なら本人のいるところでしても問題ないけど、こういう話は絶対死ぬ気で遮られかねないからね。
「……翔くんに、気になっている人がいるって話を聞きました」
「うん、それは翔からも聞いたよ。九条さんのことだよ、きっと」
「……」
九条さんは沈黙してしまう。いきなり言ってしまったけど、やっぱり一番最初に気になることは聞きたい。
「……私は橘さんのことだと思いますけど」
「え?」
多分バカみたいなアホづらをしてしまったんだろう。私は思わず不意を突かれてきょとんとしてしまった。
「だ、だって暗くて翔くんの顔はよく見えませんでしたが……今日だって、ドレス姿の橘さんのこと、橘さんがいなくなってからポツリと可愛いって言ってたんです!」
「そ、そうなの!?」
やばいそれを聞いちゃったら私の闘志はまだまだギラギラと燃えあがれるよ。翔って本当に女たらしだ!
「……でも現状九条さんの方がリードしてると思うよ。過ごす時間も多いからね」
「そ、それは……」
ちょっと九条さんは気まずそうな顔をする。確かにこの発言はちょっと意地悪だ。
「私も翔を独り占めしたいからね。でも……九条さんなら、翔を取られてもいいかも」
「……え?」
「さっき私が鏡を見たとき、隣にいる男の人が翔しか想像できなかったけど……同時に九条さんが翔と一緒にいるところも想像できたの」
「そ、そんな滅相もないことを……」
「もちろん負けるつもりはないよ。だけどもし仮に翔が九条さんを選んでも……私は恨んだりしないから。あ、でも私たち以外の女の子を選んだら翔をボコボコにしに行こうね!」
「……あ、ありがとうございます」
恥ずかしそうにしながらも感謝の念を伝える九条さんは可愛い。やっぱり翔は九条さんのことを好きなんじゃないかと思う。ま、あの鈍感恋愛ウブの翔がどう思っているか、さっぱりだけど。
「おいまだかのどか!!!」
その鈍感恋愛ウブが着替えを急かしてくる。
「……それじゃあ早く着替えようか、すみかちゃん」
「……!!! は、はいのどかさん!」
多分本当の意味で仲良くはなれないけど、それでも私は仲良くなりたい。
だから私たちはお互い下の名前で呼び合って、にっこりと笑いながら着替えを進めていった。
――――――――――――
読者さまへお願い
第五回カクヨムコンに参加中です。
読者選考を通過するためにも、ページの↓のほうの『★で称える』やフォローで応援頂けますと、とてもありがたいです。
それではどうぞ、これからもよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます