一緒にいたいから
「あー明日は一日中ここらの電車が止まるみたいだな。ま、予想される被害を考えると仕方がないか」
台風の対策を済ませ、かあさんとすみかが帰ってきたのでのどかも一緒に昼食の焼きそばを食べている最中、親父がテレビを見ながら呟く。電車が止まるとなれば、明日帰る予定の俺らにはもろ影響が出るわけか……。
「すみかちゃんとのどかちゃん、明日は大丈夫なの? 帰るなら今すぐ準備をしないといけないわ」
「私は大丈夫ですよおばさん。さっき携帯を見たら連絡がきてて、部活も休みになるみたいです。というわけで、私は明日もここにいます!」
めちゃくちゃ部活がないことに嬉しそうなのどか。まあ休みってなるべく長く続いてほしいものだから当然といえば当然か。
「すみかは……模試があるとか言ってたよな。大丈夫なのか?」
「…………わかりません」
「じゃあ今から確認した方がいいんじゃないか?」
「……でも、私は明日もここにいるつもりです」
「……サボるってこと?」
「……はい」
真面目なすみかからまさか模試をサボるだなんて言葉が放たれるとは思いもしなかった。だけどすみかは真面目な顔でそう言っているから、冗談ではないのは確かだ。
「おおそりゃいいことだ! 若いうちは勉強なんかよりも遊びを優先すべきだぞ!」
「お父さん、サボりを助長しないの。……でも私も嬉しいわ。すみかちゃんにはもっとゆっくりしていってもらいたかったから」
さらにうちの両親は勉強に力を入れていないからサボることになんら抵抗を見せることなくそれを受け入れる。でも俺のテストの点数にはいちゃもんをつけてくるんだよなあ……。
「のどかちゃんはどう? すみかちゃんは帰った方がいいと思うかしら?」
「九条さんにはもっとここを堪能してもらいたいし、全然いいと思います! ……でも九条さん、今日は翔と別々の部屋でお願い!!!」
「そ、それはもちろん!」
なんでのどかが俺とすみかの部屋に対してあれこれ言うんだ。……ま、今日も一緒の部屋となれば流石に気が持たないだろうから仕方がないけど。
「よし、二人とも残ると言うことで今日の夜は橘家も誘って宴会でもしようじゃないか! 母さん、酒のストックはまだあるだろう?」
「お父さん、昨日お客さんと一緒に飲み干しちゃったでしょ? もうしばらくお酒は禁止です。するんでしたらお酒のない宴会にしてください」
「そ、それは宴会じゃねえよ!!! く、くう……」
ばか親父のアホ丸出しのやりとりについ俺たちは笑い、気付いたら焼きそばは食べ終わっていた。自分で作るものいいが、母さんの料理もなかなか美味しい。お袋の味とはこう言うことを言うのかな。
「それじゃあ翔、明日またね!」
そしてのどかは自分の家の手伝いをしなくてはいけないということで焼きそばを食べ終えると帰る準備を済ませ、俺とすみかは玄関前にてのどかを見送る。
「台風が来るって言うのに来るのかよ」
「そりゃあ私はいつでも元気なのが取り柄だからね! てかそもそも家が近いんだから問題ないでしょ!」
「そう言うのが身の危険を招くんだが……ま、大丈夫そうだったら俺から迎えにいってやるよ。今日みたいに倒れられても困るから」
「う……で、でも翔が見てくれるから問題ないじゃん!」
「あのなあ……」
俺に頼りすぎなんじゃないかこいつ。まあ悪い気は一切しないし、俺自身それを受け止めているところもある。なんか、熟年夫婦みたいな関係だなと思ってしまう。
「九条さんもまた明日! 明日は……二人でお話ししよう! 翔との出来事も聞きたいし!」
「わ、わかりました! 私も翔くんとのここでの思い出を聞きたいです!」
「オッケー! 翔、明日は耳をふさぐものを用意した方がいいかもね」
「へ、変なことは言うんじゃないぞ……」
背筋がぞくっとした。絶対のどかはろくなことを言わない気がする。よし明日はのどかの口を封じるためにもたくさん美味しいものを作っておこう。
「それじゃ!」
そしてのどかはブンブンと手を振って家に帰っていった。……熟年夫婦みたいだとは思うけど、それでもあいつは友達としての関係としか思えないな。……でも、それだけだとも言い切れないところもあるような気も……。
あーもうなんなんだこの気持ち! スッキリしたいけど答えが出ない!
「それじゃあ翔くん、今のうちに夏休みの宿題を終わらしちゃいましょう」
「……え、持ってきてないよ俺」
「……あ、そ、そうなんですね」
すみかは宿題をする気満々だったようだ。だけど俺としては夏休みの宿題は終わる前日に答えを写して済ませるようなものだと思っていたから、真面目にやると言う発想すらない。
「やっぱりすみかは真面目だな。模試をサボるって言ったのが信じられない」
「……そ、それは翔くんのご実家にいるのがとっても心地よくて、そ、それに……」
「それに?」
すみかは言葉を詰まらせて何やらモジモジと可愛らしくしている。そしてすっと息を吸ってすみかは俺の目を見てこう言った。
「……翔くんと一緒にいられる時間を、減らしたくなかったんです」
俺のハートがドキリ、と大きく鼓動する。すみかのその言葉は友達としてなのか、それとも……あれなのかは俺には判断できないし、聞く勇気も持ち合わせていない。
だけど素直に嬉しかった。そう言ってもらえることが。
「……じゃあ、そのご期待に応えるように一緒に宿題やろう。問題は……あ、特進と普通じゃ違うか」
「国語の読書感想文は一緒だったはずです。二冊あるので、一緒に読みましょう」
「お、ありがとうすみか」
さすがすみか、準備がいい。そして俺たちは一緒に親父の邪魔を受けつつも、読書を済ませて感想文を完成させたのだった。
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