親父は余計なこともいいこともする
「おい翔、のどかちゃんは大丈夫か?」
酒による後遺症は一切なく、いつも通りピンピンとしている親父が部屋にやってきて様子を見にきた。あんなに酒を飲んだ親父がこんな元気でいるのは本当に不思議だなあ。
「ご、ご迷惑をおかけしましたおじさん。でももう私元気!」
「だそうだ。ま、のどかは多分大丈夫だと思う」
「それはよかった。いやー将来の義理の娘をこんなところで失うわけにはいかないからな!」
「……え?」
ちょっと何をいっているんだこのクソ親父。すみかの次はのどかを俺の彼女にしているのか? え、俺ってそんなに女癖が悪い息子だと思われてんの?
「いやいやそう驚いた顔をするな翔。お前小さい頃言っていたじゃないか。将来俺はのどかと一緒にーー」
「それ以上は言わせねえぞ!!!」
実の父親に対して荒々しい言葉を投げかけ、手を強引に引っ張って親父を外に連れ出す。絶対のどかには聞かれたくない。確実にからかわれる。……覚えていないとは思うが。
「親父! そんな昔のことを今更引っ張り出すな!」
「いやー昨日の子といい、翔も隅におけねーなーと思ってつい面白がってな」
「なんて最低な動機だ」
どうして親っていうのは子供に対してこういう余計ないたずら心を向けてくるんだか。しかもヘラヘラ笑っているから反省もしてないな。まあもういいけど。
「ま、とにかくのどかちゃんが元気でよかった。それじゃあ翔、これから台風が来るらしいから畑にこい」
「色々と唐突だな……。のどかはどうするんだ?」
「え? 翔が手伝ってくれるようにお願いするんだろ?」
「……父親でなければ距離を置きたい」
こういういい加減なところが俺に遺伝しなくてよかったとつくづく思う。だけど畑が被害を食らうと俺の食生活にも被害を及ぼしかねないので、手伝わない絵わけにもいかない。
「……というわけで、手伝ってくれないか?」
他人の家の台風対策をお願いするとは実に図々しいと思うが、一応親父に言われたのでのどかにそういった。
「もちろん! 迷惑もかけちゃったし、家に帰ったらまた怒られるしちょうどいいや!」
だがのどかはなんだかんだ承諾してくれて、俺たちは三人で畑の台風対策に取り掛かる。とはいってももうすでにある程度親父が進めていたらしく、あとは不備がないか、倉庫が倒れてこないかを見るぐらいだった。
「もっと重労働させられるのかと思った」
「ははは! させるつもりだったんだが母さんに早くやれと急かされてな。一週間前からもう始めていたんだ」
さすが母さん、ほんと尊敬せざるを得ない。このクソ親父をうまく使える唯一の人物だけある。
「おじさーん、これはここに置いておけばいいんですか?」
「いや、それは向こうに置いておいてほしい」
「はーい!」
のどかものどかで結構しっかりと働いてくれる。多分普通の女子だと持つのさえ苦労しそうなものですら軽々と持ち上げていて、さすがといか言いようがない。
「……いやー、のどかちゃんも可愛いよな」
「親父、さすがにその発言は……」
「いや、娘としてみたらだぞ?」
まだそんなことを親父はいってくる。俺とのどかはそんな関係じゃないし、これからもならない。もう長い付き合いなんだから、なるんだったらもうとっくになっていてもおかしくないだろう。
「あのな親父……」
「のどかちゃんのことが全く気になってないわけじゃないだろ?」
「……」
全くない、といえば確かに嘘だ。だけどそれはきっと友人関係として気になっているだけだろう。少なくとも、いま俺が気になっている人に対して抱いている感情ではないはずだ。
「幼馴染とかそんな関係、一回なしにして考えてみろ。仲良くなり始めた頃、あんなにのどかちゃんのことを好き好きいっていたことを、俺は一切忘れないぞ」
「そ、それは頼むから忘れてくれ!!!」
ここら辺にのどか以外の女子がいなかったんだから仕方がないだろ! しかもそれ幼稚園の話だからな!
「それにお前がのどかちゃんと一緒の高校行くことにしたのは、多少なりとものどかちゃんと離れたくなかったんじゃないのか?」
「……まあ、あいつといると楽しいから」
なかなか確信のついたことを言われた。確かにのどかが地元じゃない高校に進学する話を言われた時、迷うことなく俺も一緒に行くことを決意した。
「だろ?」
ああ、親父の言ってやったって顔がムカつく。もうすぐでまとまりそうだった感情が、余計こんがらがって複雑になって……俺の心が揺れまくる。
「ま、どっちを選ぶか俺は知らんが彼女たちには迷惑をかけるな。あと変な気を使って嘘とかつくなよ? 女ってのは嘘に敏感だ。俺の浮気も何回バレたことやら……」
「いい話かと思いきややっぱり親父は最低だな」
前半はいい話に聞こえんだが、如何せん後半の内容がクソすぎて全く心に響かなかった。ああなるほど、昔の喧嘩の理由は親父の浮気だったというわけか。親父への信頼度がまた下がったよ。
「おじさーん、運び終わりましたー!」
「ありがとー! そんじゃあとは翔と二人っきりでごゆっくりー」
「まて親父! やっぱり仕事を押し付けるつもりなんじゃないか!」
かなり迷惑のかかる親父だ。だけど親として俺のことをよくみているんだなってこの会話でわかった。……だが俺自身がよくわからない。複雑に絡んだこの心境の糸は、一体どことつながっているんだか……。
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