夏休み、翔とのどかの地元にて part3
【お詫び】
ここ最近大学やバイトの疲れや、さらには風邪を引いてしまって更新が遅れました。申し訳ありません。今後ともこの作品は更新していくので、末長くよろしくお願いします。それでは久しぶりの本編をどうぞご覧くださいませ。
◇◆◇◆
「何を言っているのか私よくわからないよ」
これからの衝撃の展開が明らかになってから数十分後。のどかがお菓子を持ってきてうちにやってきたのでことの顛末を話すと、数学の方程式がわからない表情と同じ顔でそう言われた。
「九条さんと翔が同室? そんなのだめ! ダメダメ! それだともっと二人が……い、いや、翔はスケベだから九条さんが危ない!」
「俺はそんなスケベじゃない! のどかの家はどうなんだ? 空いてたりしないのか?」
「……ない。空き部屋は弟が占領してた……」
のどかの弟のたけるはなんて元気なことやら。まあ無理やりどかすことをしたらたけるの機嫌も損ねかねないし、あまり得策とは言えない。
「わ、私は大丈夫ですよ。1日だけですし、佐久間くんは変なことをしないって信じてますから」
先ほどまで顔を真っ赤にしてぼーっとしていた九条さんはようやく正気を取り戻し、本人は大丈夫だという。九条さんがいいなら俺も構わないので、まあ一日ぐらいならなんとかなるんじゃないかとも思えてきた。
「く、九条さんがそういうと……そうするしかないよね。あ、そうだ。なら私もここに泊まればいいんだ。うん、そうしよう」
「え、正気かのどか」
安心していた矢先、またも爆弾が投下されてしまった。これが冗談であって欲しいんだが、のどかは笑いながら俺の母親のところに行って許可を取りに行く。
「ダメに決まってるでしょのどかちゃん。せっかく実家に帰ったんだから、ちゃんと家族孝行しないとダメよ」
「う、うう……わかりました」
だがうちの母親は大変家族関係を大切にするタイプなので、のどかの要望は通らなかった。ふう、流石にのどかまで来るとなればなかなか気持ちが落ち着くものじゃなかっただろうし、一件落着かな。
まあ九条さんと同室という時点で何も解決していないが。
「九条さん! 抜け駆けはしてもいいけどお手柔らかにね!」
「え!? そ、それは……し、しませんよ!」
何やら九条さんとのどかは俺にはわからない何かを取り合っているのか、謎の会話を繰り広げている。しかも九条さんはまた顔を真っ赤にして。一体何を抜け駆けするんだ? きになるけど女性の会話にむやみに首をつっこむものでもないからな。やめとこ。
「さてと、このまま家でダラダラお菓子を食うのもいいが、せっかく九条さんもいることだし何かしたいな」
「でも何もないのが田舎の宿命だよ翔」
「う……」
そう言えばそうだ。本当に何もないこの場所だと遊べる場所など非常に限られている。
「じゃあ久しぶりにあの秘密基地にでも行くか? 残ってるかわからないけど」
「おおいいね!」
「秘密基地……?」
九条さんはきょとんとした表情で疑問の表情を向ける。
「俺とのどかが小学生の頃に作ったやつだよ。今もあるかわからないけど、結構手間暇かけて作ったんだ」
「そ、それはすごいです! 是非見に行きたいです!」
話を聞いた九条さんは目をキラキラさせながら秘密基地に興味を持ってくれた。そりゃそうだ、秘密基地に心躍らない人なんていないだろう。
「よし、それじゃあ早速行こう!」
ということで、俺たち三人は秘密基地に向かうべく外に出る準備をする。距離は大して離れていないが、ちょっとした森の中にあるため一応虫除けスプレーをかけておく。
それとのどかが持ってきたお菓子も持っていき、高校生ながらちょっとした冒険に出かけに行く気分だ。
そして用意が十分できたところで出発し、俺たちは意気揚々と秘密基地に向かう。
「九条さん、虫とか大丈夫?」
「私、あんまり虫とかと触れ合ったこともなくて。なので苦手……というよりは慣れてないです」
「なるほど。じゃあもし虫が出てきたらのどかに処理してもらおう」
「なんで私なの!? 触れるけどさ! もしかして翔、まだ虫触れないの?」
「……」
「あー図星だ!」
のどかがニヤニヤとしながら俺を指差してからかう。でも仕方がないだろ! 俺はどうしても虫だけは無理なんだ。田舎で暮らしてきたからといって必ずしも虫に耐性がつくわけではない!
「佐久間くん、虫が苦手なんですね。ちょっと可愛いです」
九条さんはのどかとは違い、微笑みながらそういってくれた。
「そ、それほどでも……」
「翔、それ褒められてないよ」
「それは言わないでくれ……お、ついた」
そんなやりとりをしているうちに、気づけば秘密基地についていた。正直当時の面影はさほど残っていないんじゃないかとも思っていたが、ちゃんと手作りした机に椅子、それとブランコがそこにはあった。
「おー結構残ってるじゃん! やったね翔!」
のどかは机にお菓子を置いて、早速ブランコに乗ってゆらりゆらりと揺らし始めた。やっぱりここまでちゃんと残っていると嬉しい限りだな。
「すごいですね……ちゃんとしっかりとした椅子と机にブランコ。これを小学生の頃にお二人で?」
「うん。まあお互いの親の力も借りてはいたけど。ほら、九条さんも座りなよ」
「は、はい。……なんだか、森の中で暮らしているみたいで素敵ですね!」
「そう? そりゃよかった!」
椅子に腰を下ろして、あたりを見渡しながらそう感想を言ってくれた九条さんの表情はうっとりとしていて、満足してもらえたようだ。
きっと小学生の頃の俺が聞いても嬉しい感想だ。
「さてと、他には何か……ってうわあ! 虫だ!!!」
他に何かないか探そうとしていた矢先、不幸なことに俺は虫と遭遇してしまった。さらに情けないことに、それに驚いてずっこけてしまう。うう……九条さんにものどかにもなんていう醜態を見せてしまったんだ。
「だ、大丈夫ですか佐久間くん!」
九条さんはすぐに俺の元へ駆け寄り、ずっこけた俺に手を差し伸べてくれた。
「い、いやーありがとう。なんか、本当に情けないところを見せちゃったね」
「大丈夫ですよ。佐久間くんの可愛いところがまたみれて……私はよかったです!」
「い、いいことなのかなそれは」
「!!! わ、私なんてことを……」
九条さんはまた顔をボッと赤くしてしまう。俺としては、九条さんのこういうところが可愛いんだけど、それは本人に伝えていいものなのかどうなのか迷う。
「ちょっと二人の世界に入らないでよ! ほら翔、大好きな虫さんだよ!」
「や、やめろのどか! く、来るなあ!!!!」
のどかは意地悪なやつで拾った虫を俺にくっつけようとしてくる。それから逃げるために俺はそこらへんをぐるぐると走って……九条さんはそれを見て楽しそうに笑って……。
そんなバカみたいなことをし続けていたら、気づけばもう太陽が沈んでいた。
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