夏休み、翔とのどかの地元にて part2

 「お出迎えはなしか……」


 駅につき、改札を出ても誰もお出迎えはなかった。それどころかいるのが駅員一人で、田舎の人の少なさが改めてよくわかる。


 「そりゃあお互いここから歩いて行ける距離だしわざわざ来ないよ。それじゃあ私は先にうちに帰っとくね。あとで翔の家にも行くから!」


 「おーわかった。またあとでな」


 一旦のどかと別れて俺は九条さんを連れて自宅に向かう。一応親には友達を連れてくると伝えて許可を得ているので九条さんの寝る場所もちゃんと確保してくれているはずだ。


 「自然が豊かで空気も美味しいです。素敵な場所で佐久間くんは生まれ育ったんですね」


 「逆にそれしか取り柄がないよ。たまにくるにはいいけどずっと住むのは嫌かなあ」


 そう、確かに木々は生い茂り都会のように車の通りも少なく、かつマンションがあちこちにあるわけではなくポツンポツンと家があるためか空気も澄んでいる。だがお買い物とかをする時には車を必須としていたり、何かと不便なところを持ち合わせているけど。


 「それでもこういう場所はカメラにも残しておきたい場所です。あとで写真を撮ってもいいですか?」


 「もちろん。こんな田舎を九条さんの腕前でよく見せて欲しいな」


 「ご期待に添えるよう頑張ります!」


 どうやら九条さんもこの田舎を良く思ってくれてくれたようだ。あとは家をよく思ってくれるかだけど、まあボロアパートに住んでるわけだし、そこも大丈夫かな……ん?


 「お、あれは……」


 ふと少し離れたところで、虫かごをぶら下げた子供の姿が見える。その姿は見覚えがあって、俺が小中学生の頃に遊んだのどかの弟だと思われる。


 「お知り合いですか? 佐久間くん」


 「うん、多分のどかの弟だ。おーいたける、久しぶりだな」


 俺は手を振って声をかける。するとたけるも俺のことに気づいたらしく、バタバタと走ってこっちまでやってきた。


 だが、ここで俺はすぐに元気よく久しぶりやら言われると思っていた。しかしたけるはじーっと俺たちのことを見て、なにやら口をまごまごとさせている。久しぶりにあったから恥ずかしいのか? そうか、こいつももう小学4年生になるからーー


 「……しょ、翔にいちゃんが美人な彼女を連れて戻ってきたあ!!!!!!!!!」


 「……は?」


 予想していたものと違った。たけるは響き渡る声であらぬ誤解を叫び、ガクガクと震えながら俺のことを見ている。おいおいまじかよ、いきなりそんな勘違いをされてしまうのは流石に……。


 「な、なんじゃと。あの翔に彼女が!?」

 「ほ、ほんとじゃ! な、なんという美しさ……聖女さながらじゃ!」

 「翔くんも立派になって……」


 さらにあまりに大きな声だったため、少し離れたところで畑仕事をしていた顔見知りのお年寄りたちが勘違いを鵜呑みにしてみにきてしまった。やばいぞ、誤解が誤解を生んでいくだけだ。


 「ち、違うからな! 九条さんは友達だ! 彼女じゃない!」


 「カップルはみんなそう言ってごまかすってかーちゃん言ってた!」


 「ちがーう!!! ほんとに違うから! ……仕方がない、お菓子をやるから俺と九条さんの仲が友達と認めてくれ」


 「お菓子くれるの!? うん信じる!」


 子供は簡単にもので丸め込めるからいい。……ちょっとお年寄りの誤解は解けそうにないからそのままにしておこう。どうせそのうち忘れてくれるだろう。


 「ごめん九条さん。変な誤解を生ませて」


 「だ、大丈夫ですよ佐久間くん。私全然気にしてませんから」


 「よかったそれじゃあ行こうか。たける、じゃあまたあとでな」


 「うん!」


 そして俺たちはたけるに一旦別れを告げ、改めて家に向かう。途中たまたまあった知人にもたけると同じような誤解をされてしまうが、俺にこんな彼女がいるわけないだろ、といえばすぐに納得してくれた。


 ……それはそれで悲しいが。


 「よしついた。ここだよ九条さん」


 古き良き和が家に到着して、相変わらずボロいなあと感じる。今住んでるボロアパートも負けてないから大差ないといえばそうなんだけど。


 「お、大きいですね……。家の中を走り回れそうです」


 「実際走り回れるよ。まあ走り回ることもないけど。さてと、ただいまー」


 持っていた実家の鍵を取り出して、ドアを開けて俺たちは家の中に入る。そしてただいまという声に反応した家の中の誰かが、バタバタと駆けつけてくる。


 「おかえり翔…………!」


 母親がやってきたが、どうも俺と九条さんをジロジロとみて、口を籠らせている。あれ、なんかこのパターン、さっきもあったような……。


 「お父さん! 翔が彼女を連れてきた!!!」


 「ち、違う!!!」


 またおんなじ風に勘違いをされてしまった。しかも母親に勘違いされると色々と問題がある。どうしてこんな風に勘違いされてしまうんだか……俺にこんな立派な彼女ができるわけがないというのに。


 「だってあんた友達を連れてくるとは言ってたけど、女の子だとは言ってなかったじゃない!」


 「え、言ってなかったっけ?」


 てっきり言ったつもりだと思っていたが、違ったらしい。ま、まあでも大きな問題も特にあるわけじゃーー


 「言ってないわよ! だから……あんたたちの部屋、つい同室で用意しちゃった」


 「……え? わ、私と佐久間くんが一緒の部屋……ですか!?」


 「く、九条さん!!!」


 九条さんはボッと吹き上がるように顔を真っ赤にさせてしまい、呆然としてしまった。そ、そりゃそうだよな、高校生の異性同士が一晩一緒になるとか色々とまあ……。


 「ど、どうにかならないのかよ!」


 「今日は無理。私たち民泊を始めてて、今日は予約があるから他の部屋が空いてないのよ」


 「それも初耳だがマジかよ……」


 さらっと両親が新しいことを始めていたことも知ったが、それ以上に早速色々と問題のある事件が起こってしまった。


 「わ、私と佐久間くんが一緒の部屋で一晩……!!!」


 「く、九条さん正気に戻って!!!」


 九条さんはなかなか元に戻らないし、かと言って俺の方も結構気が動転していて……。


 はあ、本当にこれからどうなるんだ!?

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