夏休み、翔とのどかの地元にて part1
「さてと、それじゃあ行こう。九条さんも用意できた?」
「大丈夫です! 行きましょう」
夏休み中盤、俺と九条さん、そしてのどかで計画していた通り三日間俺の実家に行くこととなった。天気もいいことで、空が俺たちの旅路を祝福してくれているかのようだ。ただ、なんか台風が近づいているらしいのが気がかりだが……。
「のどかとは駅で待ち合わせだから、そのまま駅に向かうよ。……それにしても九条さん、なんか荷物少なくない?」
俺のイメージとしては女性が遠出をする時、荷物が極端に多くなる傾向があると思ってた。だが九条さんの荷物は三日間とは言えリュックサックで収まっている。
「服と勉強道具、あとはカメラしか入ってませんから。これぐらいで足りますよ」
「べ、勉強道具……。ま、真面目だなあ」
「……佐久間くんの実家から帰宅した翌日に、模試を受けなくてはいけませんから」
少し表情を曇らして、九条さんはぽつりとそう呟く。
「え、大丈夫? 無理して俺たちの日程に合わせなくても良かったのに」
「大丈夫ですよ。私は佐久間くんと橘さんと一緒に行きたかったですから。ずらせばきっと橘さんと一緒に行けなかったでしょうし」
「そっか……。よし、それじゃあ御期待に添えるよう何もない田舎なりの歓迎をしないといけないな」
「楽しみにしてますね!」
九条さんはニコリと笑って、俺に微笑みかける。もうあれだな、勉強をさせない勢いで楽しませるぐらいの心持ちでいよう。
でもこの時期から模試を自ら受けるだなんて……九条さんは真面目だな。
「あ、翔! 九条さん! やっときた!!!」
そして駅に着くと、のどかが駅にあるコンビニのチキンと肉まんを頬張りながらこちらにブンブンと手を振ってきた。あいつ、昼もまだなのによくあれらを食えるな。胃に穴が空いているんじゃないか?
「お待たせしました、橘さん」
「悪いな、待たせたみたいで……のどか、その荷物の量はなんだ」
ふとのどかの荷物に目が向いた。九条さんは極端に少なすぎるが、大してのどかの荷物の量は多すぎる。なにせキャリーバックを二つ持ってきてなおかつリュックサックを背負っているんだから
「これ? このキャリーケースはみんなへのお土産で、こっちのキャリーケースは服とかコスメとか。リュックはトランプとか電車でできるボードゲームを入れてるよ」
「多すぎだろ……。それにしてものどかも化粧するんだな」
「す、するよ!!! 私だって可愛くなりたいもん! 九条さんだってするでしょ?」
「わ、私はお化粧をしたことがなくて……」
「……え? いつもすっぴん? ……やばい、やばい」
九条さんの衝撃の事実にのどかは元々ない語彙力をさらに失って、やばいしか言えずにガタガタと震える。でもこんな綺麗な顔をしていてすっぴんとか……神様はよほど九条さんを寵愛しているんだな。
「おいのどか、そろそろ意識を戻せ。電車に乗り遅れるぞ」
「……はっ! そうだ! それじゃあ行こうか九条さん!」
「は、はい!」
俺たちの田舎に着く電車は一度乗り換えをして、その後に約二時間ほど電車に揺られてようやく着く。そのため電車を逃すと待ち時間が恐ろしくかかってしまう。というわけで俺たちは余裕を持って小走りで電車に乗り、乗り換える駅まで乗った。
「20分ぐらい時間あるな。駅弁でも買おうか」
「さーんせい! 私焼肉弁当! 九条さんは何にする?」
「わ、私は……この唐揚げ弁当で」
乗り換えの駅で俺たちは各々駅弁を買い、電車が来るまでテキトーに休憩室で待つ。そしてようやく電車が来たら早速乗って席を取り、座席を向かい合わせにして、電車に揺られながら三人で弁当を食べ始める。
「ううーん! 美味しい! 電車の中で食べる弁当はまた違った美味しさがあるね!」
「そうですね、美味しいです!」
「ほんとそれだわ」
環境が弁当をさらに美味しくしているのか、俺たちは全員満足げに弁当を平らげ、次にトランプを始める。
「え……」
「九条さんジョーカー引いたのかな?」
「ち、違いますよ!!!」
九条さんはどうやらババ抜きにおけるポーカーフェイスが下手くそらしい。ジョーカーを引いたらすぐに表情に出てしまう。なんだかんだ子供っぽい一面もあるよな九条さん。
「……すう」
「……むにゃむにゃ……もう食べられないよお」
そしてババ抜きやらボードゲームをある程度終わらせると、九条さんとのどかは眠りにつき始めた。あたりの光景は実に退屈な田んぼやら家やらが流れるばかりで特に暇をごまかせるわけでもない。
「のどかはバカ丸出しで寝言を言ってるし、九条さんは静かに寝てるなあ……」
のどかの寝顔はいつ以来だろうか。多分相当昔に見たんだろうが、なぜかそういう気もしない。むしろ最近も見たんじゃないかと思わせされる。……しかし、のどかも顔は可愛いから、寝顔をずっと見てたら見とれてしまいそうだ。
こんなこと本人には死んでも言わないが。
九条さんは……そうか、初めてお隣さんだとわかった時に、成り行きで俺の部屋で寝た時以来か。……あの時から考えると、一緒に実家に帰るだなんて想像もできないな。寝顔もやっぱり素敵で……。
何を考えているんだ俺は。変態かよ!
「……ん? あ、もうすぐ着くな。二人とも、起きろー」
見慣れた景色が電車の窓に映り出され、それを見た俺は眠った二人を起こし始める。ようやく俺とのどかの実家についたというわけだ。
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