テスト後、誕生日プレゼント


 「テストが……終わった!!!」


 三日間の地獄が今、幕を閉じた。九条さんに教えてもらったことは見事テストにも反映され、赤点をとった気は一切しない。それどころか、過去最高点をたたき出してしまったのではないかとも思う。


 「やったあ! 初めて赤点をとった気がしない!!!」


 それはのどかも同様。ぴょんぴょん飛び跳ねては自らの手応えに喜びを爆発させている。……万が一これで赤点をとっていたら……なんてことは考えたくもない。


 「無事に終われてよかったな翔。はいこれ一日遅れの誕生日プレゼントだ」


 そして冬馬はテストが無事に終われてホッとしている俺にファンタをくれた。相変わらず彼女にあげるような高いものはくれないが、それでももらえるだけありがたい。


 「サンキュー冬馬。そっちはどうだ?」


 「なんとか順位は上がりそうだ。美優は……まだわからない。自己採点だと過去最高得点ではあるんだが……九条さんのできがわからないからな」


 「ハイレベルな戦いだ……」


 きっと俺には縁のない成績争いだ。一体どうしたらそんなにテストで点が取れるのやら。


 「じゃあ俺は美優のところに行くから。さらば!」


 そして冬馬はいつも通り彼女のところに行く。きっとテストが終わったからイチャコラすんだろうなあ……はあ。


 「お疲れ翔! お互い無事にテストを乗り切れたみたいだね!」


 「ほんとよかったよ。これで夏の予定にも支障が出なくて済む」


 「ほんとほんと! それじゃあ誕生日プレゼントをお渡ししまーす。はいこれ」

 「おお、なんだなんだ」


 やけに綺麗に包まれた箱をのどかから渡される。今までであればお菓子とかだったためこのように袋詰めされていることはなかったが、どうも今回は結構高価なものなのかもしれない。


 「……お、おお!? え、エプロン!?」


 予想外。まさかのどかからエプロンなるものを渡されるとは。しかもネタとかではなくちゃんと男性に似合うデザインで、これなら俺が着ても全然変ではない。


 「翔がいつも使えるものって考えたら……これだったんだ。い、嫌だった? ほ、他のものがよかった?」


 「全然そんなことはない。むしろありがたい。このデザインなら俺でも着れるし、これからもっと料理が捗りそうだ」


 「そ、それならよかった! じゃあ今度それを着て料理してるところ見せてもらうから! それじゃあ私練習に行ってくるね!」


 「ああ、頑張れ!」


 のどかは練習のためビューっとその場から立ち去り、俺も帰宅の準備をする。それにしても今日はいい日だ。なんかなんでも今日はできる気がしてならない。


 まあそういう油断こそろくなことを生まないから余計なことはしないけど。


 「……あ」


 そして家に帰ると、ドアの前に九条さんが何やら大きな袋を持って立っていた。


 「佐久間くん! どうでしたか、テストは?」


 「九条さんのおかげでうまく行ったよ。これで夏休みは一緒に実家に行けるね」


 「そ、それはよかったです! ……あ、あとこれ……1日遅れですが……誕生日プレゼントです」


 「おお! ありがとう!」


 九条さんからも誕生日プレゼントをもらえた。持ってみると、結構重い。お値段が高めのものなのだろうか……ちょっとドキドキする。


 「じゃあ部屋で一緒に開けてもいい?」


 「……!!! わ、わかりました!」


 そして部屋に入り、俺は九条さんからもらったプレゼントを見てみる。すると……。


 「ふ、フライパンだ! しかも結構いいやつ! これ、九条さんのお財布には大丈夫だったの?」


 「それは大丈夫です。……佐久間くんに渡すプレゼントで一番長く使ってもらえそうだったのが、これでしたので」


 「なるほど」


 確かに俺が長く使うであろう品物だ。九条さんもわかってるなあ。


 「のどかからはエプロンを渡されたんだ。きっと俺のイメージって料理ってことが定着してるんだろうね」


 「……だって佐久間くんの料理は美味しいのはもちろん、料理をしている姿も……素敵ですから」


 「そ、そう? そう言われるとなんか照れるな……」


 九条さんから、天使のような笑顔を向けられながらそう言われて俺はなんか気持ちがムズムズする。もちろん九条さんのような人から褒め言葉をもらえたら誰しもそうなるのは間違いない。


 ただどうも俺自身その言葉でものすごく火がついたというか……スーパーハイテンションになってきた。


 「じゃあその褒め言葉に沿って今日は腕を振るって九条さんの舌を唸らせまくってやる! 覚悟しておいてくれ」


 「……はい! 楽しみに待っていますよ!」


 俺はのどかから渡されたエプロンを着て、九条さんからもらったフライパンを使えるようならしておき、料理ができるよう準備を整える。


 「それじゃあ九条さん、リクエストはある?」


 「リクエスト……ですか? ……そ、それじゃあ、ハンバーグ。ハンバーグが食べたいです!」


 「よしきた! それじゃあちょっと待っててね!」


 九条さんからリクエストをもらい、俺は早速料理に取り掛かる。


 四月には想像もできなかった日常。関わりもなかったのに、いつの間にか九条さんと一緒に食事を囲んでいる。夏休みも、きっとこうした時間が続くんだろうなあ……。

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