テスト前、勉強会の提案


 「もうすぐ期末テストかよ……」


 七月に入り、高校生にとって常に試練として立ちはだかる期末テストがある時期となった。うちの学校は中間テストがない代わりに期末で1学期の成績が全て決まってしまうので、プレッシャーがかなりかかる。


 「翔、随分と憂鬱そうだな」


 そのことで放課後、机でうなだれている俺に、冬馬がオレンジジュースを飲みながら話しかける。


 「そりゃテストが近づいてウキウキしてるやつのほうがおかしいだろ」


 「美優(冬馬の彼女)はウキウキしてるけどな。今回こそ聖女様に勝って学年一位を取るんだあ! って」


 「す、すげえなあ特進クラス……」


 冬馬の彼女も常に学年上位にいる秀才だからなあ。ただ、突き抜けて九条さんの成績がいいためなかなかこの学校では……。


 「でも確かに翔が憂鬱になるのも無理はないか。なんだってテスト二日目に誕生日だもんな。一番テストで修羅場って時にお祝いムードにはならないよな」


 「そうなんだよ……。はあ……テスト消えねえかなあ」


 毎年同じ日程で期末テストは組まれているため、去年も同じように誕生日と被っててその日には何もしなかった。……そもそも冬馬とのどかにお菓子をもらっただけなんだが。


 「なになに翔テストが近づいてて落ち込んでるの?」


 「あ、のどか。テストもそうだが誕生日がまたテストと被ってることに俺は落ち込んでるんだ」


 「あーなるほど。でも当日に祝われなくてもいいじゃん。私が今年は盛大に祝ってあげるよ!」


 「去年アメひとつだったじゃん……期待できねえよ……」


 「今年はちょっと事情が違うからね! 楽しみにしてて!」


 「はあ……」


 一体何が違うというんだ? てかそもそものどかの方はテスト大丈夫なんだろうか。全くテストに対する緊張感を感じ取れないのだが……。


 「な、なに翔? 私に熱い視線を……」


 「冗談はよせ。のどかがテストに対する緊張感をどこにしまっているのか探しているんだ」


 「そんなものあるわけないじゃん! 成るように成るだ!」


 「ふざけるな!!! お前また追試&補習の嵐に飲まれちまうぞ!」


 去年のどかはほぼ全科目赤点で、部活での活躍がなければおそらく上がれていたか……というぐらいバカだ。ただ今回それが通用するのかどうか……のどかに留年されるのは嫌だし。


 「じゃあ翔勉強教えて」


 「お、俺!? ……無理かなあ。俺も赤点取りそうだし」


 「ぶーっ。じゃあ冬馬くん、美優ちゃん借りていい?」


 「俺もそうさせてあげたいが、今の美優は俺でさえ引くぐらい鬼にも劣らない怖さで勉強しているからな。それに翔が加わればまさに火に油。だからやめといたほうがいい」


 「お、俺そんなに嫌われてんの……」


 「前も言ったろ? だから今回は俺も二人の勉強会に参加させてほしい。美優の邪魔はしたくないからな」


 結局冬馬も参加するのか。それにしても冬馬の彼女に嫌われる心当たりは一切ないが、確かに嫌われているとなると教えを請うのは無理だよなあ。……あ、そうだ。


 「じゃあ九条さんにお願いしよう。前に教わった時にもすごくわかりやすく教えてくれたし」


 「お、お前九条さんに勉強まで教わってんの? ……本当に付き合ってないんだよな?」


 「だから違うって!」


 勉強を教わったぐらいで付き合ってるとなる冬馬の思考がよくわからない。やはり恋愛真っ最中なだけあって頭がピンク色なんだろうか。


 「それいいね! じゃあ勉強場所は翔の部屋で決定!」


 「ちょっ!?」


 わざとだろうか。のどかがマックでもなくスタバでもなく、あえて俺の家を選んだのは。なにせ知っているはずだから、俺のお隣さんが九条さんであることを……あ!


 あのやろ! 確信犯だな! 冬馬の視線が外れたところでこっちにいたずらがバレた子供のように舌を出してやがる。くっ……やられた。


 「まあ九条さんの勉強方法を知れるのはいいな。美優に横流しもしてやれる。じゃあ翔、九条さんに許可をとっておいてくれ」


 「え……」


 結局話はまとまってしまい、冬馬がまたうちに来ることになってしまった。……でも前回バレなかったし、なんとかなるか、なるよな!


 ★★★


 「お勉強会ですか……?」


 夕食の際、俺は九条さんに今日提案された案を話す。


 「私なんかでよければ全然構いませんよ」


 やはり九条さんは人が良いのでなんの躊躇もなく承諾してくれた。ホント、こちらとしては実にありがたい話だよ。


 「ありがとう九条さん。いやー毎年テストの日は俺の誕生日と被ってて余計憂鬱なんだけど、九条さんに勉強を教えてもらえればなんとかなりそうでよかったよ」


 「お、お誕生日の日……何ですか?」


 「ああうん。テスト二日目の一番修羅場の時に誕生日。ホント、勘弁してほしいよね」


 「……なるほど」


 九条さんは妙に神妙な面持ちでそのことを聞き、何やら少し考え事をしているようだ。……もしかして。


 「九条さん、別に誕生日プレゼントとか無理しなくて良いからね」


 「え、ええ!? ど、どうして私がそのことを考えていたって……わかったんですか?」


 図星だったらしい。九条さんは顔を真っ赤にして慌てふためいてしまった。……こういうところが、実に可愛らしい。


 「今の文脈で他にはないかなあと思ったから」


 「そ、そうですか……。で、でもプレゼントは渡します! いつもお世話になってますから!」


 とても張り切った様子で九条さんは語る。……九条さんのプレゼントって一体なんなんだろう、気になる。


 「そ、そう? ならまあ楽しみにしてるよ」


 「はい! 是非楽しみにしていてください!」


 なんか九条さんからも誕生日プレゼントをもらえることになった。こりゃあ、期末しっかりと頑張らないとな。

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