夕食にて、三人の勝つ宣言
(のどかが風呂から上がる少し前……)
さて、何を作るか。のどかをここに長居させるとまた違った問題が起こりかねないしので、なるべくお腹がいっぱいになって満足感が得られてかつ手短に作ることができるもの……。
ああそうだ。あれにしよう。ちょうど願掛けみたいなものにもなるし。
そのためにはまず下味をつけた豚肉に衣をつけ、両面がいい具合に揚げあがったら取り出し、程よい大きさにサクッ、サクッとカットしていく。
そのあとに食感を加えるため玉ねぎを薄切りにし、出汁をフライパンに入れた後にそれを投入し、しばらくして玉ねぎが柔らかくなったらカツも入れる。
その間に卵をといで、卵の半量を加えて一旦蓋を閉じてしばらく待つ。そしてちょうどいい頃合いをみて残しておいた卵を投入して、半熟状態で火を止める。それをピカピカに輝く白米の上に乗っけて、さらにネギを乗っけると……カツ丼の完成だ。
さてと、もう出たかはわからないがとりあえず二人に完成したことを伝えにいくか。
「おい二人とも。もうすぐご飯できるぞ」
「はいはい! ちょっと待ってね翔!」
お、のどかの声だ。どうやら風呂から出た様子。……あれ、そう言えばあいつ服ってどうしたんだ? 流石にずぶ濡れのをきてるわけはないし……九条さんのは……サイズが……。
「お待たせ!」
「……のどか……」
どうやら九条さんのサイズを借りてしまったらしい。まあそうだよな、女性同士だから借りやすいしな。……でもその格好は色々とまずい。
「あれ翔?」
俺は一旦無言で部屋に戻り、テキトーに女子がきてもおかしくないジャージを取り出してそれをのどかに渡す。
「……佐久間くん、ありがとうございます。私のじゃサイズが……」
「九条さんは心配することないよ。のどかが理不尽に大きいのが悪い」
「な、何それ!? それこそ理不尽じゃない!?」
のどかが怒る理由もまあわかるが、とはいえ事実なのでねえ。こいつが将来変な男に引っかからないか俺は実に心配だ。
「まあそれよりもさっさと飯を食べるぞ。のどかをここに長居させるとあらぬ誤解を生むからな」
「えーせっかくだしここに泊めさせてよ。帰ったら即寮のおばちゃんに怒られちゃうだろうし」
「自業自得だ。それに俺となんか誤解を生まれても迷惑だろ? ほら、さっさと食うぞ」
「はーい……」
そこまで怒られるのか嫌なのか? てっきりのどかのことだからおばちゃんに怒られることは1日で忘れそうなものだと思っていたけど。
「……こ、この匂いは……! 佐久間くん、今日の料理はカツ丼ですか!?」
「ああそうだよ。のどかが次の帝華桜蘭(のどかたちがぼろ負けした高校)に勝てるよう願掛けをしたつもりだ」
「しょ、翔……。ありがと!」
結構臭いことをしたなあと作った後に後悔したが、のどか本人に喜んでもらえたなら全てよし。あとは……カツ丼そのものを喜んでもらえるかだけど。
「き、綺麗な色をしてます……!」
「いやー翔の出来立ての料理とか本当に久しぶり! それじゃあ食べていい?」
「もちろん」
「「それじゃあ、いただきます!」」
二人は早速カツ丼を口の中に入れる。すると九条さんはいつものように満面の笑顔で、のどかも実に美味しそうに食べてくれる。
「卵がふわふわで……カツもとっても食べやすくて、噛めば噛むほど味が増して……美味しいです!」
「九条さんめっちゃ食レポ上手!」
「ご、ご飯が美味しいですから!」
二人は和気藹々としながら食事をしている。前にあった時はそんなでもなかった気がするけど……俺がいないところで親交を深めたのか?
「ごちそうさまー! 翔、食後のデザートとかないの?」
「図々しい奴だな……。……ないな」
「そこにリンゴが見えるけど」
「……わーったよ!!!」
このリンゴはめちゃくちゃ美味しいと実家から手紙付きできたから楽しみにとっておいたんだが……。まあいいや、どうせ九条さんにものどかにもあげるつもりだったし。
「……甘い! すごく甘いですねこのリンゴ!」
「寮で出てくるリンゴもこれぐらい美味しければなあ……」
リンゴを切って二人に渡すと、二人とも美味しそうに食べている。俺も一口食べてみれば、なるほど確かにこれは美味しい。夏休みに実家に帰ったらもっとよこせと要求しよう。
「さてと、それじゃあそろそろ帰る……前に! 私は勝つ宣言をするよ!」
「いきなりどうした」
「このまま美味しかった、だけじゃダメだと思ってね。じゃあまず私から。『今年中に絶対に帝華桜蘭に勝つ!』 あと二回戦えるチャンスがあるけど、それをものにして翔にお願いを聞いてもらう! じゃあつぎ九条さん!
「わ、私……ですか!?」
のどかの勝つ宣言はなんとなく予想できたが、九条さんのは全然予想できないな。少し気になる。
「……私は、自分に勝ちます!」
「ウンウン! よく言った九条さん!」
一体どういうことを指しているのか俺にはさっぱりだが、どうやら二人の間では伝わっているらしい。……でも九条さんが生き生きとしてくれるなら、俺としてもいいことだ。
「じゃあ次は翔」
「お、俺!? うーん……」
勝ちたいこと……。やばいな、これと言って特に思い浮かばない……うーん……。
「……夏休みのバイトに勝つ」
そしてひねり出した答えが、これ。いや、実際去年もさせてもらった食堂でのバイト、めちゃくちゃ大変で結構体にも心にもくるんだ。今年もさせてもらうから、心が折れないようにってことなんだが……。やばい、しょぼいな。
「佐久間くんらしいです!」
「うん! 本当にそれ! 翔らしくて笑える!」
「ば、バカにしてるのか!!!」
だがどうも二人はこの回答に納得しつつ笑っている。まあ笑える回答だけど。九条さんまで納得してるのが意外だ……。一体どう思われているんだ俺。
「さてと、それじゃあ私は寮に帰る! 怒られに行く! それじゃあね、九条さん、翔!」
「送っていくぞ?」
「ダメダメ! 翔がいうあらぬ誤解が生まれちゃうよ」
「まあそれは……」
「じゃあね!」
のどかは手を振りながら、寮まで帰っていった。……まあとにかく、元気になってよかったよ。
「それじゃあ佐久間くん、食器の片付け手伝いますよ」
「ありがとう九条さん」
そういうわけで、なんだか宣言をして俺たち三人の時間は幕を閉じた。
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