放課後にて、のどかとお出かけ
放課後。俺はのどかに連れていかれるがままに目的地もわからずただひたすら電車に揺られる。
「なあ、一体俺はどこに連れていかれるんだ?」
「それはついてからのお楽しみということで。それに私今日は試合前最後のオフ日だから、ちょっと寄り道もしたいなあ」
「つまり俺もその寄り道に同行すると」
「イエス!」
どうやら今日は早く帰れないな。のどかの寄り道は物があるごとに長引くため時間がかかるのは間違いない。しかしいきなりどうしたんだか。普段オフの時は女友達と遊びに行っているというのに。
「ついたよ、さあ降りよう!」
やけに元気満タンなのどかはウキウキした足取りで電車から降り、駅の改札を通過する。
ついた場所は遊ぶ場所がたくさんある都会……ではなく、なんの変哲のない街。ただ一つあげれば、そこにはサッカースタジアムがある。でも今日はなんの試合もやっていないはずだったけど……。
「あ、言っておくけど試合を見に来たわけじゃないよ」
「え、そうなの?」
「それは次の私の試合で満足させてあげるからさ。ま、とりあえずレッツラゴー!」
ますますのどかの意図がよくわからないまま、俺はのどかの後を歩き出した。
「わあ! これ可愛い! ねえ翔、これ勝って!」
ふと立ち寄ったよくわからない服屋で、値段を見れば学生の財布がすっからかんになりかねないワンピースをのどかが物欲しそうな顔をしながらこちらに目線をチラチラと見せる。
「無理に決まってるだろ! こんなの払えねえよ!」
「翔のケチ! そんなこと言ってたらモテないよ」
「うるせえ!」
どうせ俺はモテませんよええ!
「おお翔! これ美味しそうだね! 一緒に食べようよ!」
次に立ち寄ったのはおしゃれなカフェ。そこに飾られているケーキのメニューの写真にのどかは釘付けとなり、俺に承諾を取ろうとする。
「まあいいけど……お前太っても知らないぞ」
「女の子に太るとかいうなんてどうかしてるよ! 私は運動してるから太らないの!」
「へいへい。じゃあいきましょか」
中に入るとおしゃれなカフェということで、カップルが大半を占めていた。もう少しカップル抑えめでもいいじゃないかと思うんだが……結構俺にはきつい空気だ。
「あ、翔。カップルが多くてキョドッてる」
「!!! そ、そんなことは……」
「いっつも聖女様と屋上でいちゃついてる佐久間翔君なら平気だと思ったんだけどなあ」
「いちゃついてない! くそ……冬馬のやつ余計なことを……」
またのどかにからかわれることが増えてしまった。これに関しては俺がのどかに対してカウンターをすることができない題材だからなあ……。
ああのどかのやつ、すげえしてやったりって顔を俺に見せてくる。
「それじゃあこれとこれをください!」
そして席につくとのどかは速攻でオーダーを頼んだ。どうやら俺の分まで頼んだらしく、俺に選択肢は元からなかったらしい。
「いやあ、実物を見るとやっぱりこっちの方がいいねえ」
注文したケーキが届くとのどかは目をキラキラさせて食べるのを躊躇する。確かにこのケーキ、ショートケーキなのだが形に一切の乱れがなくなおかつクリームの白い色が芸術的とも言えるぐらい真っ白。
シンプルなショートケーキにここまで魅了される時がくるとは思わなかった……。
「ねえ翔。翔はこういうケーキとかは作らないの?」
「材料がなあ……。俺の実家からお菓子作りの材料が送られてくることは多分一生ないし」
「確かに翔の家から送られては来ないか。うーん、残念。翔のお菓子も食べてみたいなあ」
女子というよりも男らしくばくばくとケーキを食べながらのどかにそう言われる。作ってみたいとは思うがなあ……夏のバイトで材料費稼いだら作ってみるか。
「ふう、ごちそうさま! それじゃあ行こう!」
食べ終わるとのどかはここでダラダラと過ごすのではなくすぐに店に出た。ああ、もうじき日が暮れる時間か。のどかは寮の門限があるからそんなに遅くまでは外出を許されてない。だから早めに出たわけか。
「いよいよ目的地の到着です! どう翔? 楽しみでしょ? 楽しみすぎて私の手とか繋ぎたくなるでしょ?」
「なんでだよ。まったく文脈が繋がってないぞ」
「ばれた! チェ、繋いで恥ずかしがる翔の姿、みたかったなあ」
「は、恥ずかしがらねえよ! 昔山登る時とかにずっと繋いでたりしてたろ!」
「あはは! 昔のことを引き出してる時点でもう翔の負けだよ」
笑いながらのどかにど正論をぶちかまされる。クッソ……なんか今日ののどか、いつもみたいに笑っていはいるがどこか冷静というか……。
「さて、ついたよ!」
「? ここって……」
目的地という場所は、この街で一番のシンボルであるサッカースタジアム。ここを拠点としているクラブは強豪ではないがファンにとても愛されているらしい。
でもなんでここに連れてきたんだ? 試合を見にきたんじゃないってさっき言ってたよな?
「……翔覚えてる? 昔このスタジアムで、一緒にサッカー見にきたこと」
「……ああ! 小学生の頃家族ぐるみできたな!」
「そうそう! その時の試合がきっかけで私サッカー始めたじゃん」
「そうだな……俺も始めたけど、なんか才能がなさすぎてやめたな……」
「ボールを蹴っても前に飛ばないぐらい下手くそだったもんね」
「うう……」
ほんと、ちゃんとボールを前にけりだしてるつもりなのに一切前に飛ばないとかいう黒歴史よ……。
「だからこのスタジアムは私にとって思い出の場所でもあって、勇気をもらえる場所なんだよ」
「……勇気をもらいにきたのか」
「そうだよ。だって怖いもん。去年先輩たちがボコボコにされた相手だよ。あんなに強くてかっこよかった先輩たちが、ロッカールームで大泣きしてたのは……忘れられない」
のどかは笑いながらも、その笑顔に多少のぎこちなさが見える。のどかのような存在でもそんな気持ちになるのかと思うと同時に、そうなったのどかに俺ができることは……。
「じゃあ俺はひたすらのどかを応援するしかないな」
「うん、やっぱり翔はそうしてくれるよね」
にぱあとした笑顔を見せて、のどかは俺の近くに寄ってくる。
「じゃあ最後のお願い。明日の試合勝ったら……私の一番の願いを聞いてくれない?」
「す、すごい俺に不利な内容だな……」
「……だめ?」
いつもと違う、可愛らしいのどかの姿に断るという選択肢は消された。きっとそのお願いのためにのどかは頑張れるんだろう。……
「俺に無理のない範囲だったら……いい」
「ぜーんぜん大丈夫! それじゃあ約束成立ってことで!」
「お、おい! 結局その約束の内容って……」
「……それは、乙女の秘密だよ♪ あ、門限やばい! 翔、急いで駅まで走ろう!」
結局俺はのどかの一番の願いがなんなのかわからずじまいのまま、普段運動しない体を無理やり動かして駅まで走っていった。
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