九条すみかによる看病の様子


 佐久間くんはなんとか眠ることができ、今はスヤスヤと休息を取っている。まだ体調が良くなる段階ではないだろうから、油断はできないけれど。


 ……佐久間くんも風邪を引いてしまうんだなと私は痛感した。


 もちろんバカにしてそんなことをいっているわけではない。いつも私に美味しいご飯を作ってくれる佐久間くんはいつまでも元気でいる存在……そんな希望的観測が打ち砕かれただけ。


 でも少し怖くなった。佐久間くんがいる日常はもう私に取って当たり前となったものだけど、それがいつ無くなってもおかしくないんだなと考えさせられたから。


 「……今日は私が佐久間くんを元気づけないと」


 だから今日は私が佐久間くんを支えないと。佐久間くんが困っている時にすら何もできないようじゃ、私はいつまで経っても受け身でいるだけだから。


 「確か寝る前にそこのお米でおかゆを作ってくれたら嬉しいって言ってました……。よし、頑張ろう!」


 正直料理は苦手。でも佐久間くん直々に作って欲しいと言われたから、その期待に添えるよう私はスマホで作りかたを見ながらまずお米を洗う。そしてお米とお水を鍋に入れて、蓋をして強火で……このぐらいかな?


 そして沸騰したらお米をそこからひとかきして弱火にした状態で40分ぐらい煮込む。……うまくできるといいんだけど。


 そんな期待と不安が入り混じった中、40分することがない私はふと佐久間くんの顔を見る。いつも素敵な笑顔で私にご飯を食べさせてくれる表情とは違い、今は少し辛そうだけどスヤスヤと眠っている。


 ……可愛い。


 「!!! な、何を私……」


 佐久間くんは風邪で苦しんでいるというのに、私は佐久間くんの寝ている姿を見て……少しハートがドクンとしてしまった。そんなことはあってはいけないのに……。


 私は恥ずかしさのあまり一旦佐久間くんの顔を見ることができず、ふと部屋の周りを見渡す。そういえば私、男の方の部屋になんの躊躇もなく入っているんだなあと実感した。


 ……もしかして、エッチな本とかもあるのかな。


 「!!! ま、また私は何を……」


 佐久間くんが寝ているからなのか、私はいつもなら考えもしないことが出てきてしまう。きっと佐久間くんも男性なのだからそういうことには興味はあるだろう。……でも、佐久間くんはどんな女性が好み……ああ! また変なことを私……。


 「……勉強しよう」


 きっとこのままぼんやりと過ごしていたらもっとひどいことを考えてしまうのではないかと思い、私は持ってきていた勉強道具をちゃぶ台の上に広げて勉強を開始する。


 ……やっぱり集中はできない。でも無理やり勉強する。昔も今もそうしてきたから。


 「……あ、この問題。佐久間くんがこの前苦戦していたものの応用……そうだ」


 ふと偶然この前佐久間くんに教えた数学の問題の応用が出てきた。もしかしたら普通科でもこれは授業で出てくるかもしれないと思って、自分がただ解けるだけでなく、佐久間くんにわかりやすく説明できるように考える。


 「……よし。これならきっと大丈夫なはず。もし佐久間君に聞かれたらすぐに教えられます」


 なんとか問題の分析は終わり、おかゆができるまであと五分となった。……時間が経つのってあっという間だ。


 「……そっか……私が佐久間君のお隣さんでいられるも……」


 一年生の時に全く関わりがなかったのが今では一番の後悔。私がなるべく人と関わらないようにしていたから自業自得だけど、それでもあの一年前に佐久間君と出会えていれば……もっと長く近くでいられたんだろう。


 でももう今更後悔しても遅い。それにそもそも佐久間君と一緒に居られること自体が奇跡と言ってもいいぐらいの出来事だ。だから……私はもっとこの時間を大切にしないと。


 「……あ、九条さん。居てくれてたんだ……」


 「あ、佐久間君。大丈夫ですか、お体は」


 佐久間君はぼんやりとしながら眠りから覚める。先ほどよりも顔色は良くなっていて私は少しホッとした。


 「なんとか大丈夫。……ん、おかゆを作ってくれたの?」


 「はい、もうすぐ出来上がります。……上手く作れているか不安ですけど」


 「大丈夫。きっと九条さんは上手く作れてるよ」


 佐久間君はにっこりと笑ってそう言ってくれた。その言葉に私のハートはまたドクンとして……。


 「い、今見てきますね!」


 それをごまかすためにおかゆができたかどうかを見る。蓋を開けてみると、暖かい湯気が溢れ出して、おかゆは白く光っていた。よかった……焦がしてなかった。


 そして私は火を止めて、味付けに塩をパラパラとふって、少し熱いだろうからふーふーして渡す。


 「……うん、美味しいよ。風邪の時にはおかゆが一番だ」


 佐久間君は本当に美味しそうにおかゆを食べてくれた。きっとおかゆなんて誰でも作れる料理だけど、それでも喜んでもらえた事実が私は嬉しくてたまらなかった。


 「そろそろ九条さんも家に帰って大丈夫だよ。もう夜だし」


 「で、でも……まだ心配です」


 「うーん……あ、そうだ。鍵を渡しておくよ」


 「え!?」


 か、鍵を!? し、信用されてるからこそ……?


 「もし俺が明日出てこなかったらそれで部屋まで見にきて欲しい。……まあ多分大丈夫だろうけど」


 「……わ、わかりました」


 私は鍵を受け取り、結局佐久間君がおかゆを食べ終わって食器を片付けて佐久間君が寝つくところまで居続けた。そして佐久間君が起きないようにそっと扉を開けて、鍵を閉めて、私の部屋に帰った。


 ……部屋に入ると、私は自然と笑みを浮かべてしまったのは……信用されていることが、嬉しかったからだろう。

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