祝日にて、お出かけ
月曜日。普段であれば長い長い学校があるのだが、今日は国からのお恵みで祝日。つまりは休みである。
三連休ともなれば1日ぐらいどこかに行きたくなるが、かと言ってどこに行こうかと問われれば特にないのが現状。うーん、テーマパークとかに行くには時間も金も行く人もいない。
……ああそうだ。数駅したところに釣った魚を食べられるここら辺では珍しい釣り堀があったな。そこに行こう、確かニジマスを天ぷらにして食べられる店でドリンクもついてきたはず。
でも一人で行くにはあれだな。冬馬はなんか彼女とネズミの国に行くとか自慢を繰り返していたから連絡もしたくないし、のどかは今頃練習をしているはず。
となれば……。
「え、釣り堀ですか? 私釣りをしたことはないんですけど……大丈夫ですか?」
お隣さんの九条さんしかいない。
「それは問題ないよ。全然難しくないし、最悪店員が取ってくれる」
「そうなんですか? じゃ、じゃあ行ってみたいです……!」
きっと今頃九条さんの頭の中には美味しいお魚で頭がいっぱいなんだろう。見るからに嬉しそうな顔をしているし。
「それじゃあ準備ができたら俺の部屋をノックして呼んでほしい」
「わかりました!」
そうして俺たち二人は一緒に釣堀に行くことになった。
「私釣りが初めてで何だかドキドキします」
「俺も久しぶりだから緊張するわ。お互いどれぐらい釣れるかなあ」
電車の中、俺は量産型高校生の格好で、九条さんは何百年かに一人の美少女と称されるような容貌で電車に揺られる。結構九条さんには男性はもちろん、女性の視線も集めているのを見るあたり、本当に九条さんのルックスは神から寵愛を受けているんだなと実感する。
この視線の中にうちの学校の生徒がいたらめんどくさいけど……まあもう今更だろう。どうせ変な誤解されているだろうし。
「佐久間くんはどこで釣りをしたことがあるんですか?」
「あー俺は実家に川があるから、そこでやってた。中学の頃は暇すぎて毎日行ってたな」
「佐久間くんのご実家は自然が豊かなんですね。素敵です」
多分都会育ちの九条さんは目を輝かせてそういう。でも……
「いや、住むとなると別だよ。正直社会人になってからあそこに住むのはちょっと嫌だ」
「そ、そうなんですか? ……私は、人がごちゃごちゃしている都会の方があまり住みたくないです」
「ああ、それもわかる。なんだかんだ程よい街に住みたいよね。忙しすぎず、暇すぎずって感じの」
「それもいいですね。……今の生活も、私には充分すぎるぐらい幸せですけど」
「そう? 九条さんの実家ならもっといい生活ができるんじゃない?」
「……今の生活には、実家では到底得られないものがあるので……あ、着きましたよ!」
ちょっと話の折りがあんまり良くない時に、電車は目的地に到着して俺たちは電車から降りる。少し九条さんが小走り気味で歩いているのは、恥じらいからなのだろうか……。
「結構おしゃれな場所ですね。釣堀ってこういう雰囲気なんですか?」
九条さんは釣堀について何も知らないらしく、今回連れてきた場所を釣堀のスタンダートだと勘違いしてしまった。
今回行った釣堀は室内にある小綺麗な釣堀で、従来の汚い釣堀とは到底かけ離れている。最初冬馬と一緒に来た時、地元と違って都会はこんな綺麗なところで釣堀をするのかと俺も勘違いしていたが……。
「まあ普通の釣堀はこんな感じじゃないけど……。ここなら初心者でも気楽に魚釣れるし、始めようか」
「はい!」
そして俺らは店員から説明を受けて釣竿と餌をもらい、釣りを開始する。時間は一時間ほどあるので、俺たちはジュースを頼んでのんびりと魚が引っかかるのを待つ。
「そういえば九条さん、さっき実家では到底得られないものがあるって言ってたけど……それって……」
「!!!!! そ、それは……い、いや……わ、私……い、家だと誰とも一緒にご飯を食べてなかったので」
「え……あ、ごめん、辛いこと思い出させちゃって」
「大丈夫です。私はそういう家に生まれてきたので。でも……だからこそ、佐久間くんと一緒にご飯を食べている時間は本当に楽しいです、嬉しいです」
「それは良かった。じゃあ俺はご飯以外でも九条さんの役に立ててるんだ」
「ご、ご飯だけなんかじゃないです! 佐久間くんは私にこれ以上ないことをしてくれてますから……あ、つ、釣れそうです!」
「お、キタキタ! 釣竿をこう引いて……やった!」
まずは一匹、九条さんは釣ることができた。釣った魚を見て九条さんは目をキラキラさせながら、釣り上げた余韻に浸りつつ一旦店員に預ける。
よし、俺も負けてられないな。九条さんよりも多く釣り上げるぞ!
「さ、佐久間くんより多く釣れちゃいました……」
「……まじかよ」
そして終了時刻。結局なぜか俺は九条さんに完敗した。魚も人間の容姿でつられてしまうのだろうか。魅力に敵わずに引っかかってしまうのだろうか。
ちょっと自信あったんだけどなあ……。
「佐久間くん、元気を出してください。料理として出るのは五匹だけですし、ここでは数は関係ないですよ」
九条さんは本当に心配そうに俺を慰めてくれる。ほんと、すごく優しい人だ。
「ありがとう九条さん。いやー……まじ男らしくないことした」
俺はいじけたことに反省し、天ぷらが上がるのは待ち始めた。まあ待つって言ってもすぐあげられるんだけど。
「幸せそうなカップルでしたので、一つオマケでどうぞ」
そして店員が大変余計なお世話で天ぷらを一つサービスしてくれた。正直訂正しようかとも思ったがせっかくもらえるので俺の方はその場に合わせた対応をした。
「カカカカっプル……」
九条さんの方は声を震わせながら真っ赤に顔を染めていたけど。やっぱりそう言われることに慣れないらしい。……まあ俺じゃ不釣り合いだしなあ。
「それじゃあ食べようか」
「はい!」
俺たちは魚の天ぷらを食べ始める。おお、揚げたてということもあってすごくサクサクしてる。なおかつ付いてきた塩が結構美味しい。数こそ少ないけどこれは結構満足だ。
「美味しいですね」
「ウンウン……うん?」
ただ、九条さんの反応がいつもと違う。俺のご飯を食べているときはもうこれ以上ないであろうぐらいに幸せ感を出しているのに対して、今は普通、と言った感じだ。
「……九条さん、あんまり合わなかった?」
「い、いえそんなことはありません! とっても美味しいです! ……でも、いつも佐久間くんのご飯を食べさせてもらっているので、どうしても舌がそれ基準になってしまって……」
「まじか」
そこまで九条さんが俺の料理を評価してくれているとは……。あ、なんだか店員から嫉妬の視線を感じる。無視しよう。
「でもここの釣堀にはまた来たいです! また佐久間くんと釣りがしたいです!」
「よし、今度は負けないから。覚悟しておいて」
「はい!」
ただ今回の釣堀には満足してもらえたようだ。よし、今度は負けないように釣りの研究をしておこう。
そして俺らは店を後にして、次にどこに行こうかと考えている最中……。
ぐーっと、食事を求める音が九条さんのお腹から聞こえてきた。
「!!!!!!」
「まあ量多くなかったからね。それじゃあ帰りはなんかスーパーぐるぐる回って具材でも買おうか」
「はい! 佐久間くん」
俺たちはお互いに笑顔で言葉を交わし、近くのスーパーに足を運んだのであった。
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