日曜日の夜、将来について


 日曜日のその後。のどかの試合観戦を終え、昼ご飯を食べ終わった後にのどかは寮に戻り、俺と九条さんはその後一緒に花を見にいった。あんまり花とか普段見ない俺でも甘い香りと癒される風景に心が安らいだ。


 「今日はすみません。私の趣味にまで付き合ってもらって」


 「いやいや。俺も楽しかったよ。花ってじっくりみるとさらに魅力を感じられて心が落ち着くんだなと思った」


 「それは良かったです。佐久間くんにも楽しんでもらえて」


 そして帰宅後、一旦俺らはお互いの家に入り、俺は夜ご飯の準備を開始する。今日は……そうだな、チャーハンを作るか。


 まずはフライパンを温め、少し煙が見えてきたらご飯と卵を同時に入れる。そしてご飯を潰す感じではなくご飯を広げて水分を飛ばすようにヘラでほぐしていき、ちょうどいい感じになったら具材の肉とネギを入れてフライ返しを始める。


 正直俺はこれが得意ではないんだが、なるべく上手くいくように努める。おお、危ない危ない危うく溢れるところだった。


 そして程よく焼くことができたら最後にコショウをパラパラと入れて、完成。


 どうしてもチャーハンは店で出すような本格的なものを作ることはできないが、家で作るものにはそれなりの良さがあるはず。うん。


 「お、ノックの音だ」


 そしてタイミングのいいことに九条さんがやってきたようだ。俺はテクテクと歩いてドアの鍵を開ける。


 「こんばんは、佐久間くん。これ、今日撮った分のお花の写真です。よければ部屋に飾ってください」


 九条さんは小さな額縁に入れた花の写真を渡してくれた。


 「おお! 生で見てもすごく良かったけど、こうして写真にすると芸術感があるというか……」


 やばい。感性はこの写真を賛美しているのだが、俺の残念な語彙力ではこのすごさを表すことができない。もっと本を読んでおけばよかった……。


 「喜んでもらえてよかったです。あ、後これ……橘さんに渡してもらえますか?」


 「ん? ……こ、これがのどか? す、すげえ……カッコよく写ってる」


 もう一つ渡された写真には、試合中ののどかが写っていた。その姿はプロさながらの凛々しい姿で、ボールを蹴りだしているシーン。ああ、きっとあいつが本当にプロになったら……と想像させる一枚だ。


 「私から渡すより佐久間くんから渡した方がいいかと思って。でもいずれ私からも勝手に写真を撮ってしまったことはお伝えするつもりです」


 「わかった。きっとこの写真はのどか飛び跳ねるぐらい喜ぶだろうなあ……九条さん、写真も撮るのが上手いんだね」


 「そ、そうですか? あ、ありがとうございます……!」


 少し照れた様子を九条さんは見せる。でも本当にうまいよなあ……なんか九条さんの方もプロ並みと言えるんじゃないだろうか。


 「ま、とりあえずご飯にしよう。今日はチャーハンだよ。あんまり本格的には作れなかったけど」


 「ちゃ、チャーハン……た、楽しみです!」


 いつも通りご飯のことになるととろけるような笑顔をし始める九条さん。俺は時々怪しい人に餌でつられて連れて行かれないか不安になるよ。


 「さてと、量は多めに作っておいたから多分大丈夫。味の方はちょっと不安かなあ」


 「め、珍しいですね……佐久間くんがそんなに自信がなさそうなの」


 「チャーハンって人によってこだわりが強いからさ。俺は何度も親父にこれじゃないと言われたよ」


 「た、確かにチャーハンっていろいろありますからね。でも私が食べてみないと私の舌に合うかはわかりません。だから心配する必要はないです!」


 「あ、ありがとう」


 九条さんはにっこりと笑って俺にそう言ってくれた。実にありがたい言葉だ。正直チャーハンにする際少し悩んだが、やっぱ料理は挑戦しないとどうしても成長しないから……。


 「それじゃあいただきます!」


 そして九条さんはチャーハンを口の中に運ぶ。その様子を俺は固唾を呑んで見守る。


 「……美味しい、美味しいですよ!!!」


 チャーハンを食べた九条さんの顔はパアッと晴れやかな笑顔になり、口からは感激の言葉が出てくる。ああ、よかったあ。この九条さんの顔をみると本当に満足してもらえたんだなと実感する。


 そもそも九条さんが俺の料理を不味そうに食べるところは一切見たことがないが。


 「佐久間くん、自信を持って大丈夫ですよ。このチャーハンはすごく美味しいです!」


 「そう言ってもらえると俺もすごく嬉しい!」


 きっと俺は俺の想像以上に嬉しかったんだろう。普段バカ食いはしないんだが、チャーハンをまるで飲み物のように食べ始める。もちろん九条さんの分は考慮して。


 「ふう……やばい。食べ過ぎた」


 そんなことをすれば当然俺の胃袋はパンクする。俺は食べ終わると身動き一つ取れない状況に陥ってしまう。ああ、情けねえ……。


 「今日は私が全部の食器を洗いますよ」


 「う……お、お願いします九条さん」


 この状況だと流石に九条さんの申し出を断れない。ありがたく申し出を受け取るしかない。

 

 そして九条さんは食器を黙々と洗い始める。前洗ってもらった時は結構危なっかしかったけど、今回は結構しっかりと洗えている。もしかして練習をしたんじゃないかとも思ったが、それを聞くのは野暮だな。


 「……佐久間くんはプロの料理人になりたいですか?」


 「え?」


 ふと九条さんが俺にそんな質問を投げかける。うーん、そういうことはあんまり考えたことがなかったな……。確かに料理は好きだし、仕事にできたらきっと楽しいんだろうけど……。


 好きなことがずっと楽しいわけでもない。きっとどこかで料理が嫌いになるかもしれない。


 ……でもなあ。


 「ちょっとなりたいかも。やっぱり好きなことは極めたい」


 「……そう、ですよね。佐久間くんはきっと素敵な料理人になれると思いますよ。その時は……私もお邪魔してもいいですか?」


 「もちろん! まずは九条さんに食べてもらいたい」


 「!!! そ、それじゃあ楽しみにしてますね!」


 なんか将来の約束をさらっと交わした気がする。でも本当にそうなったらいいなあとも思う。


 「そういう九条さんはプロの写真家になるの? いや、腕前的にはもうその域なのかもしれないけど」


 「……そんなことはないですよ。それに、私は親から一つ課せられた条件がありますので、今はそっちが優先ですから……あんまり考えられないです」


 「そっか。じゃあもし俺が料理人になったら、九条さんに宣伝写真を撮ってもらおうかな」


 「そ、それは……」


 料理は写真で見栄えを紹介することも大事だ。だから是非とも九条さんの写真の腕前はお借りしたいため、そう言った。すると九条さんは言葉に詰まらせてしまうも……。


 「……わかりました。佐久間くんの料理の魅力を存分に伝えられる写真を撮れるよう、私も頑張ります!」


 九条さんはこちらに振り向いて、少し照れくさそうに言った。


 「それじゃあスポンサーにはのどかにでも頼むか。あいつが一番プロに近いし」


 「ふふっ。きっと橘さんは喜んで佐久間くんに支援してくれますよ」


 「でもそうなると俺があいつに頭があがらない立場になるのか……」


 それを想像するとのどかをスポンサーにするのは何だかな……。い、いやそもそものどかに頼らずとも店を経営できるようにすればいいんだ。うん。


 「あ、食器洗い終わりましたよ」


 「おお、ありがとう」


 そしていつの間にか食器洗いは終わり、九条さんは帰宅の準備を始める。


 「何だか、今日は将来のことまで喋っちゃいましたね」


 「まだまだ先の話だけど、なんかうっすらと見えてる気もするよ。こういうの考えると、結構ワクワクするな」


 「そうですね。私も……未来に向けて元気が湧いてきました」


 「それはよかった」


 「だから……佐久間くんともっと長く一緒にいられるよう、私も頑張ります」


 「え、それって……」


 「!!! そ、それじゃあおやすみなさいです!」


 ちょっと意味深なことを言い残して、九条さんは足早に俺の部屋を後にした。……あんまりこのことは追求しないほうがいいよな。気にはなるけど。

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