屋上にて、三人でご飯を食べる


 「まさか聖女さ……九条さんと一緒にご飯を食べることになるとは。人生とは不思議なものだな翔」


 「なんかポエマーぽいぞ冬馬」


 休みが明けて少し憂鬱な月曜日。昼休みに俺と冬馬……そして九条さんは一緒に屋上でお昼を食べていた。


 これは土曜日に相談したことなんだが、九条さんと一緒にご飯を食べるにしても金曜日食べた教室だと教師が来た場合に言い訳も何もできない。なにせ俺たちは正式に入る権利を有しているわけではないから。


 だが、屋上の鍵は冬馬が副生徒会長として管理している。だとしたら一番安全なのではないかと思い、そして冬馬であればベラベラと他人に九条さんのことを喋らないだろうと判断して三人でご飯を食べることにした。ちゃんと九条さんの許可も冬馬の許可も取っている。


 まあ最初冬馬にそのことを話した時、異形のものでも見たかのような目を向けられたけど。


 「にしても……二人は本当に付き合ってないのか?」


 「え……ええ!? い、いやそ、そんな……そんな間柄では……」


 「そうだぞ。のどかにも勘違いされていたが、俺たちは一緒に飯を食べてる友達だ」


 しかしどうしてのどかといい冬馬といい、俺たちが付き合っていると勘違いするのだろう。そもそも俺じゃあ九条さんに釣り合う人間じゃないだろうよ。


 「はい九条さん、今日はたくさんサンドイッチを作ってみたんだ。具材のレパートリーはハムとかチーズにイチゴに卵。あとカツも入れてあるから好きなのとっていいよ」


 「お、美味しそう……。そ、それじゃあイチゴと……カツをいただいてもいいですか?」


 「もちろん。コンビニのサンドイッチがもう食べれなくなるぐらい美味しく作ったつもりだから、どんどん食べてよ」


 「い、いただきます!」


 (完全に餌付けされてるじゃねえか九条さん……。はあ、橘さんにとんでもない強敵が現れてしまった……)


 「ん? 冬馬どうかしたか? 俺の顔をまじまじと見て」


 「いや、世の中ほんと不思議だなあと思っただけだ」


 「???」


 なんだか今日の冬馬は何か考え事をしているようでやけにぼんやりとしたことを言ってくる。九条さんがいるから緊張しているのだろうか? いやでもそういうタイプでもないしなあ。


 「そういえば生徒会が会議をしていたけど、一体何を話していたんだ?」


 「たわいもない話だよ。トイレに洋式を増やせーとか、もっと学食をうまくしろーとか、携帯をいつでもいじれるようにしろーとか。こんなことに一週間を費やす生徒会が俺は心配で仕方がない」

 

 「なんともいえないな……」


 所詮生徒会なんて大した力のない組織だといえ、無駄な時間を費やすのは如何なものかと思う。


 「で、その間に二人は仲良く一緒にここで食べてたわけか。ああ、青春だ」


 「言い方に含みがあるぞ。確かに楽しく食べてたけど」


 「!!!」


 なぜか九条さんが顔を真っ赤にしてしまう。あれ、俺何か変なこと言ったか……?


 「でも驚いた。美優(特進クラスに属する冬馬の彼女)から聞いてた九条さんの話と

 翔と話している時の九条さん……結構違うな。なんつーか……聞いた話よりも砕けた感じか」


 「そ、そうですか? ……いや、そうかもしれません。佐久間くんと一緒に食べるご飯は、とっても楽しくて……佐久間くんは優しいですから」


 「まあこいつ根はいいやつだよな。ただちょっと九条さんに伝えておかないと。こいつは声優が大好きでな、こいつの家の中にめっちゃ恥ずかしいシチュエーションのドラマCDがある。まあ家に行く機会はないだろうけど、そういうやつだっていうことは知ってて損はないだろう」


 「俺はすごく損してるんですけど!!?」


 冬馬のやつ、明らかな悪意を持って九条さんにとんでもないことを教え上がった。それはダメだ、俺の好きなS倉A音のあのドラマCDはとんでもなくダメなんだ。何がダメと言えないぐらいダメなんだ。


 しかも冬馬に言えないが、九条さんは俺の家に来るんだよ!!!


 「へ、へえ……佐久間くんにそんなご趣味が」


 九条さんはぽかんとした表情をする。まあそれは驚くよな、いきなりそんなことを言われたら。でもあのCDはちゃんと秘密の場所に隠してあるからバレることはない……はず。


 「それって……佐久間くんが好きな人にしてほしいことが入ってるんですか?」


 「!!?」


 九条さんはこちらに疑問の表情を見せ、問いかける。そ、それは確かにしてもらえたら

 嬉しい、というか感激しちゃうだろうけど……あくまでS倉A音がしているからこそ価値があるという面もあって……。む、難しい、説明できない。


 「こいつは好きな人には料理をひたすら褒められるだけで満足するよ」


 そんな慌てふためく俺の様子を見て、冬馬が助け舟を出してくれた。まあ言い出しっぺだからこいつがそれを言わなければなんてことなかったんだが。


 「な、なるほど。そうですよね、佐久間くんの得意分野で褒められるのが一番嬉しいですよね」


 納得したのか、九条さんは俺ににこりと笑ってサンドイッチを食べる。ああ危ない。九条さんにとんでもないアレがバレるところだったよ……。


 「そう言えば翔、昨日橘さんの応援に行ったんだろう? どうだった?」


 「ああそれはもうのどかの大活躍だったよ。やっぱあいつのサッカーセンスはすごい」


 「……あれ? 佐久間くんの幼馴染って……女の子だったんですか?」


 九条さんがキョトンとした顔をする。ああそうか、性別とか詳しいことは言ってなかったな。


 「ああ言ってなかったね。うちの女子サッカー部2年の橘のどかは俺の幼馴染なんだよ。まあそいつがよく食べるやつでね、昨日も大きい弁当を持って行ったんだ」


 「うちの学校の生徒だったんですね……しかも同級生。ごめんなさい、私あんまり学校の情報に詳しくなくてそのひとのことわからないです」


 「まあ特進クラスだと普通科と絡む機会が少ないからね。ああそうだ、だったら次の試合は一緒にーー」


 「おおっと翔、俺もサンドイッチをもらうぞ」


 俺が言葉を言い切る前に、冬馬がいきなり弁当に手を突っ込んでサンドイッチを一つつまむ。いきなりどうしたんだ? 普段のどかがやるようなことをいきなりやり出して。


 「お、おい冬馬、いきなりなんだよ!?」


 「俺も食べたくなったんだ。よこせ、全部よこせ」


 「そしたら俺と九条さんの分が無くなるだろ!」


 「じゃあ翔の分をよこせ」


 「なんでだよ!!!」


 どうもよほど冬馬は俺のサンドイッチが食べたいのか強引にサンドイッチを奪い取ろうとするので、俺はサンドイッチを持って逃げ出す。もちろん冬馬も追いかけてきて……結局昼休みギリギリまで追いかけっこは続いてしまい、急いでサンドイッチを食べる羽目になった。


 (流石に二人を翔がいるところで直接合わせるのはまずいからな……。はあ、一体どうなるんだか)

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