お弁当を手に、幼馴染の応援
日曜日。いつもなら昼頃に起きてだらだらと時間を過ごすだけだが、今日はそういうわけにいかない。前にのどかと試合を観に行く約束をしているため、今日は朝からお弁当作りだ。
そのため今日の弁当はのどかが試合後に体力を全快できるよう彼女の好きなものを詰めようと思う。
普通なら試合後にはなるべく食べやすいものを入れたほうがいい。なにせ体力がなければ食欲もあまり湧かないものだし。ただ、のどかの場合昔から試合後にも関わらずバカみたいにご飯を食べる。
だから下手に少なくすればおそらくのどかは欲求不満になるだろう。
「昨日味付けしておいた鳥もも肉をっと……」
冷蔵庫にて醤油などで味を染み込ませていた鳥もも肉をまず3分ほど油で揚げて、そのあと少し間を数分開けた後にもう一度油で揚げる。これをすることによってよりサクッとした食感が加わるから。
「そして次は豚肉でアスパラを巻いて……卵焼きを焼いて……」
作れば作るほど、盛りつければ盛り付けるほど女子力の象徴、インスタ映えからどんどん離れていく茶色いお弁当になっていく。まあのどかは味と量しか気にしないから特に問題はないだろうけど。
「よし、これで完成」
そしてカロリーなんか一切気にせず、欲望のままに食べることを目的としたおかずが完成した。ついでおにぎりを何個か握って、まるで運動会にでもいくのかと思われるお弁当となった。
ああ、結構持つと重いな……。小学校の運動会でわざわざ豪勢な弁当を作ってくれた母親はこういうところでも苦労していたのか……まじリスペクトだ。
「あー、めっちゃいい天気だ。こりゃ絶好のサッカー日和だな」
外に出てみると空は雲ひとつ見当たらない天候で、気分も弾んでくる。そして俺は試合会場であるグラウンドへ歩き始めた。
★★★
「お、ちょうど始まるところか」
俺がちょうどグラウンドに着いた時、選手たちが整列して挨拶をしていた。運動を一切しない俺とは違い、選手たちはみんな引き締まった体をしていて、己の運動不足を痛感する。
その中でものどかの体つきはすごいというか……あ、なんだかこの言い方だとイヤラシイ捉え方をしてるようだな。もちろんそんなことは一切ない、うん。
「あ、こっちに気づいた」
のどかはポジションにつく際、俺がいることに気が付いたのか呑気なことに笑いながら手を振ってきた。うーん、いつもながら緊張感ゼロだ。
ただ……。
「お、お、お!」
試合が始まればのどかの顔つきは変わる。のどかのポジションはCFセンターフォワードだが、相手がボールを持てば前線の選手ながら必ず守備をし、自チームのボールになれば無理にボールを持たずに周りを生かしてボールを回す。そして、チャンスが来たらそれをものにする力もある。
つまりのどかはチーム内で起点となる選手だ。
そんな万能の起点を持つうちの学校は開始からずっとペースを握り、もういつ点を取ってもおかしくない。相手の高校だって弱いわけではないのだ。聞けば大会でもいい成績をコンスタントに出しているらしい。
ただ……うちの高校は、全国大会の常連。負ける試合の方が、圧倒的に少ない。
「うお!」
そして前半14分。のどかが味方のグラウンダークロスを素早い飛び出しでゴールに叩き込む。さすがというべきプレーで、味方の選手ものどかを囲って祝福してる。
ただ、そんなときにものどかは俺の方を見ると今度は右手でピースをしてきた。試合に集中しろ!
「うわ、なんて正確なパスだ。さすが!」
次に前半26分。のどかがサイドでボールを持つことによって相手を引きつけ、空いたスペースに絶妙なパスを送り込む。フリーに状態でボールを受け取れた味方は確実にゴールを決め、2点差となる。
もうおそらく勝利は確定だろう。
「……結局圧勝か」
試合は結局5―0で勝利し、のどかは1ゴール2アシストと大活躍。ほんとサッカーのことに関しては圧倒的な才能を持っているよなあ。
「いえーい! 翔、きてくれてありがとう!」
「うわ!? いきなり来るんじゃない!」
のどかは相手チームや観客に挨拶を終え、監督の試合後の話を聞いたあと、笑いながら俺の方にやってきた。よほどお腹が空いていたのか……?
「私すごかったでしょ!」
「ああ。サッカーに関しては否定できない事実だよ」
「何その言い方!?」
「他のことはあれじゃないか」
「ひどい!」
目を×にしたかのような顔をしながらのどかはぽかぽかと力のない拳を俺の体に当ててくる。ああ、試合後なのにほんとどこからその元気は出てくるんやら。
「あれ、あの人ってのどかの幼馴染で、一昨日学校で二年生の聖女様と……」
「ああそうだ! 聖女様にお呼ばれしてた人ですよ!」
「え!? 聖女様に男いたの!? ……私、狙ってたのに」
そんな風に二人でいつも通りやりとりしていると、他の女子サッカー部員(大体三年生)が俺の存在に気づく。あーやばい、一昨日も昼休みの後めちゃくちゃ追求されかけたんだよなあ。
「先輩たち、翔を追求しないであげてください! 意外とデリケートなんです翔は。追求するなら翔の専属マネージャーの私を通してくださいね!」
だが結局のどかが今と同じように機転を利かせてくれたおかげでなんとか追求は免れた。おそらくのどかの人望と実績あってこそ他の人たちが無理やり追求することをしなかったんだろうから……ほんと、のどか様様だよ。
「チェー。じゃあのどかちゃん、あとでそのくそ……いや、聖女様とどんなことをしてるか聞き出しておいてね」
「はーい! 明日スクープを部室に持っていきますね!」
「おい」
情報を垂れ流すならマネージャー失格じゃねえか!
「それじゃあ私翔とお弁当食べてきますんで。お先です!」
「はーい、お疲れ」
「ナイス活躍ありがとう!」
「ほいじゃーね〜」
そしてのどかと俺は近くのベンチがある公園にて、弁当を食べ始める。
「うっまーい! やっぱり翔の料理は抜群に美味いね!」
結構多めに作った弁当であったが、のどかが唐揚げすらもまるで飲み物であるかのようにバクバクとものすごい勢いで食べていき、あっという間に弁当から食べ物が無くなっていく。
「相変わらずすごい食欲だわ……」
「美味しく作る翔の実力あってこそだよ!」
「うーん、ただ単にのどかが大食いなだけだと思うんだが」
「いいの! 大食いでも運動してるから!」
まあそれは確かに。正直のどかの体は引き締まっているし、確実に効果は出ていることは明白だ。
「でさ、気になったんだけど……翔って本当に聖女様と付き合ってるの?」
「っ!!!」
あ、危ない……。危うく俺が食べてるものを吹き出しそうになってしまった。でものどかの顔が別にからかっている風でもないし、真面目に気になって聞いてきたんだろう。
「い、いやそれはない。ただの一緒に飯を食べる仲だ」
「一体どうしたら翔と聖女様がそんな仲になるの? 神がゴキブリと親交を深めるようなものじゃん」
「酷い例えをするな……俺はゴキブリかよ。まあいろいろあったんだ。とにかく付き合ってはないからな!」
「えー勿体無い。あんなに可愛くて、頭も良くて、優しくて……私にはないものいっぱい持ってる人だよ。付き合わないと一生後悔するよ!」
茶化しているのか、わからなかった。のどかの表情こそ俺をからかう風にそんなことを言っているが、なんだか雰囲気は少し寂しそうというか……。
「まあ確かに頭の良さは違うかもしれないが、可愛さだったらのどかも負けてないだろ」
「ふぇ!?」
でも俺としては聖女様も確かに可愛いが、のどかも十分対抗できるものがあると
思うので、そこは言っておいた。なにせ言わないと何も伝わらないし。
その言葉が意外だったのか、のどかは食べる手を止めてキョトンとこちらを見つめてる。
「……ほんとに?」
「見た目だけなら」
「なんだよ!!! やっぱり聖女様がいいんじゃん!」
まあ性格を加味したらそりゃーねー。ただのどかはプンスカ怒った表情をこちらに向けて
「もう怒った! 来週も試合あるから弁当持ってきてね!」
と言い出した。まあ元々行くつもりではあったし全然いいけど。
「はいはい。了解しましたよ」
結局俺たちはいつも通り、お互いをからかいあうことになって、俺は来週の日曜も弁当を作ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます