学校にて、友人たちと
「……きて……起きてください」
どこからか声が聞こえる。はてさて一体なんであろうか。推しの声優の目覚ましは聴きすぎて一時期幻聴が聞こえるぐらい中毒になってしまったためしばらくつけてない。だとすると一人暮らしの俺に朝っぱらから声をかける人なんて……。
「あ!!!」
「きゅ、急に起きましたね……。おはようございます、佐久間くん」
「……や、やっぱりいる……」
ぼんやりとしていた頭に学校一の美少女であり聖女様がいるという情報が思い出されたと同時に、俺は冷や汗が湧き出てくる。昨日はその場のノリでご飯を食べさせたけど……よく考えたらそれって下心があるとか思われてもおかしくないんじゃ……。
「お、俺昨日は何もしてないから! 聖女様に手を出すなんて恐れ多いことできないし!」
「……ふふっ。大丈夫ですよ。佐久間くんがそんなことをする人じゃないことは知ってます。昨日はありがとうございました。生姜焼き、とっても美味しかったですよ」
「お、おお……」
昨日生姜焼きを食べていた時に見た笑顔とは真逆の、教科書に則ったかのような完璧な笑顔を向けながら聖女様は俺の疑念を晴らす。
……やっぱり、違和感がすごい。でもこれが聖女様のスタンダードだし、あんまり踏み込むべきことじゃないだろう。
「昨日のお礼は今日学校から帰ったらしますね。それじゃあ私はお先に失礼します」
「い、いやお礼なんて……いっちまった」
お礼なんかいらないのだが、そんな俺の言葉は彼女に聞こえていないかのように、聖女様は最後にこちらにぺこりと頭を下げて学校に向かっていった。
う、うーん……女心ってよくわからないな。
★★★
「聖女様について? 翔、まさかあの聖女様を狙っているのか? やめておけ、一生消えない傷を負うだけだぞ」
「そんなんじゃないしそこまで言わなくてもいいじゃないか」
最近また始まった学校に登校して数時間の拷問(授業)がひと段落して迎える昼休み。俺は一年からの友人である「盛岡冬馬」といつも通り飯を食べていた。
冬馬は副生徒会長をしていてなおかつ特進クラスに属する彼女を持つ学校屈指の青春を堪能している人物だ。なんでこんなやつと友達になったのかといえば一年の頃席が近かったからとしか理由が思い当たらない。
「聖女様のモテモテぶりは相当だからな。美優(冬馬の彼女)を迎えに行く時、いつも誰かしらの男に告白されているのを見るし」
「そんなに……。でもそんなに男に言い寄られていたら彼氏とかもいてもおかしくないのか」
「うーん、それが特進クラスの奴らもよく知らないらしいんだ。昼休みはいつもどこかに行ってるらしいから、その時に密会しているんじゃないかとは言われてるけど」
「密会って……」
人気者は噂話も絶えないようで大変そうだな。
「で、諦めはついたか翔?」
「いや、だからそんなんじゃないって。昨日ちょっと聖女様と色々あったから聞いただけ」
「ああ、いろいろあったという夢を見たのか」
「……」
まあ、普段女子との関わりが少ない俺がいきなり聖女様のことに関して聞き出し始めたらこんな反応にはなりますよね。ええわかっていましたとも。
「あー! 今日は生姜焼きだ! いっただきまーす!」
「げ」
ただ、俺は女子の誰とも関わりがないわけじゃない。いつも俺の弁当を箸で横取りしてくる、幼馴染のこいつとは腐れ縁がある。
「おいのどか。俺の弁当のおかず……それも主力級を横取りするんじゃない!」
「へへーん。美味しく作る方が悪いんでーす♪」
橘のどか。俺と出身は一緒で、幼少期からお互いを知ってる仲だ。見た目こそポニーテールのよく似合う可愛らしい女子だからこいつも一部の男子に人気らしいんだが……常に俺に構ってくるため、そいつらの殺意あふれる視線が俺に突き刺さるのはもはや日常である。
「たく、相変わらず変な理屈を……ってええ!? 生姜焼きだけでなく白米まで食うんじゃない!」
「もぐもぐ……。ごめんごめん、最近練習が厳しくてさ。お腹が空いて仕方がないの」
「二年生ながら女子サッカー部のエース様になられたお方が練習に弱音を吐いてもよろしいのですか?」
「う、うるさい! だったら一回練習に参加しにきなよ! エース権限で特別に参加させてあげる」
「そ、それは勘弁……」
のどかは女子サッカーの名門であるうちの学校で、二年生ながらエースを務める意外とすごいやつである。まあ、昔から俺よりずっとサッカーが上手かったし。
だからか食力もおぞましいものがある。ま、正直俺もそのことをわかってるからいつも多めに弁当を入れているんだけど。ただ今日は朝のことがあってろくに用意ができず少なめになってるから自然と俺の分が……。
「あれ、今日は量が少ないんだね。だめだよーちゃんと食べなきゃ」
「お前みたいなバカみたい食う女と一緒にするな」
「ひどい! 女の子はみんな食いしん坊なんだよ! 恥ずかしがり屋の子でも、ご飯はたくさん食べたいんだよ!」
「……ああ、なるほど」
のどかのその言葉に、俺はなんだか納得した。聖女様はあまりの空腹に理性を失っていた時こそ恥を感じていなかったんだろうが、普段はきっと恥ずかしいんだ。だから今日の朝はさっさと出て行ったんだろう。
「あれ、なんか思い当たる節があるの?」
「そいつ聖女様と関わりあった夢を見たんだよ」
「おお、いい夢を見れたね! 今日は大吉の日だよ翔!」
二人には変な方向で勘違いされたままだが……まあいいや。
「たくっ、翔も薄情なやつだよな。こんな可愛い彼女がいるってのに」
「は、彼女?」
彼女いない歴=年齢なんですけど。冬馬のやつ、強者の余裕からかニヤニヤしながらイヤミなからかいをしやがる。
「……」
のどかなんか哀れみからか、こっちに目も合わせようとしない。いや……そんなに俺って哀れ? いやこの中では俺何にも持ってないけどさ。
「そ、そんなことより翔! 今度の日曜からリーグ戦が始まるの。ど、どうせ翔暇だろうし、み、見にこない?」
めちゃくちゃ緊張した面持ちで、噛みながらのどかは俺にお誘いをする。まあエースとはいえ二年生だし、しかも名門校の看板まで背負うんだからナーバスにはなるよなあ。
「……よし、俺が特別に弁当を作って行ってやろう。エース様には頑張ってもらわないとな!」
「!!! う、うん! 試合よりも楽しみにしてる!」
「それはだめだろ!」
(ほんと、なんでこいつら付き合ってないんだか……)
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