5.再挑戦は響くか散るか。そして物語は繰り返す。



 翌日……。


――――――――――

【Uさん】どやった! 師匠からの言葉は溜めになったやろ!


【まきや】驚きました。本当に凄い方で……。

――――――――――


 まきやはUさんに昨日の出来事を話しました。


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【まきや】根本の所を補強し直すか、練り直さないと駄目ですね。ショックでしたけど、それに気づかせてもらえただけ幸運だったと思うべきですね。


【Uさん】そやそや! その調子! しかし、まきやはん、ええなあー


【まきや】え? 何が?


【Uさん】わしの時は師匠から褒め言葉なんて、一言も貰ったことおまへんで?

――――――――――


 それからしばらく頭を悩ませたまきやは、なんとか修正版を書き上げます。


 あまり大きく変えてしまって、最初に物語を書いた時の勢いを殺したくない。そう考えた結果、まきやは矛盾や違和感の対策を考え、ひとつづつ潰していく方針で修正を行いました。


 もう初回の不安感は消えていました。修正の結果を早く読んでもらいたい。そして師匠がどう感じるのかを教えて欲しい。その一心でまきやの手は送信ボタンを押して

いました。


 まきやが用事から戻ってくると、早速返信が入っていました。


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【師匠】「それほどこの紙の朗読は、難解なものだった。」→判読は難しいものだった(例)

 朗読は、声でできた作品と捉えた場合、読み方が下手という風な解釈が出来てしまいます。

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 さっそく指摘から。師匠はとにかく無駄がお嫌いなのです。冗談です(笑)


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【師匠】「どんなに赤が入ったり急な差し替えが入っても瞬時に覚えて、対応しちゃうんでしょ? あの人しかできない事です。流石としか言いようが無いですよ」→ ディモールトベネ(非常に良し)です。

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 師匠は時々イタリアの人になります(JOJOファンだという事がのちに判明しました)。


 ここからはすべて師匠の言葉になります。怒涛の指摘ラッシュ(オラオラ系)をご体感下さい。


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【師匠】「――それがどれだけ危ない事かわかってるよな――」→ここはあまりナチュラルでないような気がします。こういうスタイルは地の文ではよいのですが、実際こういう感じに喋っている人がいたら若干違和感があるように思います。


「あいつはもっと馬鹿なんだよ」→ もっと、という言葉に対応する比較対象はなんでしょう?「もっと」はない方がよいように思いました。


「同期の恥だ……」→ ここなんですが、昨日はちょっと引っ掛かりながらもスルーしておりました。


  もし自分の同期に、ひたすらに仕事の虫で技巧に優れているのに出世欲がない人がいたとして、「恥」だと思いますか?


  同期としてではなく友人としての吐露であれば、別表現の方がいいように思います。


「 マコトに電話」→ ここは趣味の問題ですが、親は自分の子供の名前の漢字をカタカナ書きするものかどうか?という疑問が。 愛称的なものかもですね


「神浦はオフィスの柱に備えつけられた、アナログ時計を見た」→ここも趣味の問題ですが、電波時計をお勧めいたします。


  坊主頭いいですね!一気にレトロ感が増しました。


「舞台の王子のようにひざまずくと、」→ ここは主人公らしくないので削除した方が好きです。

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 水面を求めてあがくまきやの様子が想像できたでしょうか。いや、でもこれ本当にありがたい言葉ばかりです。


 しかも師匠は最後に、まきやをニヤつかせる言葉を忘れません。


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【師匠】「以上です。 とてもよくなったと思います。特に赤書き・プロンプターの処置が素晴らしいです。


【まきや】ご指摘、ご感想、ありがとうございます。


(このあと、まきやの指摘に対する返事がありますが、箸にも棒にもかからない内容の為、割愛)


  連日夜中になってしまい申し訳ありませんでした。


【師匠】「――それがどれだけ危ない事かわかってるよな――があるにしてもだ。→この部分を音読すると、どうしても自然には感じられないのです。


 まきやさんをUさんにご紹介いただいたとき『花火』を勧められました。そのときに思ったことなのですが、この方の武器(の一つ)は台詞回し、引いては感情の流れの自然さだと思いました。


 特に脳内で音読したときに滑らかで、ぎくしゃくしないのです。ですから、ここはまきやさんらしくないように思いました。 二作しか読んでないのに偉そうですみません。

――――――――――


 師匠が私の掌編に目を通し、そんな感想を持ってくれていたなんて! まきやは喜びで指摘を忘れそうになりました。


――――――――――

【まきや】「花火」も読んで頂いたのですね、恐縮です。会話内の「――」の部分、再考させて下さい。

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 ここからは、主人公が妻に対してプロポーズするシーンについての会話が続きます。


――――――――――

【師匠】 王子的跪きはですね、プチ?セルフ?フラッシュモブっぽくて(笑)  よくあるのは花束とかですかね??


【まきや】 ありそうですね。今はほかにピンとこないな……


【師匠】女性はいきなり仰々しい花束もらうと嬉しいけどちょっと引くので。 そういうのまで気が回らない男性諸氏のやりそうなことです。


【まきや】プレゼントを出す 手品でもさせようかな?


【師匠】 手品失敗しても可愛いですね。


【まきや】それいいですね(笑)


【師匠】しかしベストは地味に徹する、というのが好みです。それにもそっとしてるほうが主人公らしいので。

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 そこで指摘は一段落。その後は雑談モードに入ります。キーワードを拾うと、


「好みの漫画の紹介」「師匠は本当は一人称小説が嫌い」「情景描写への愛」「師匠が過去に行った企画での鬼修正の話」「オトマトペはセンス」「先生は絵も上手」などなど……


 ひとつだけ、Uさんとまきやの文章について、師匠が語った興味深い考察を載せておきます。


――――――――――

【師匠】…… というわけで、上手い人の文は長さが気になりません。


 私が最も嫌いなのはやたら難しい語彙・漢字を使い衒学的に読者を煙に巻く文です。自慰行為にしか見えません。


 まきやさんの文は分かりやすく、読む人に「あ、この作者は読者を門前払いしない」という感じを受けます。


 Uさんの文章からは、計算式のようなかっちりとした印象を受けます。そういう組み立て方もスマートで、都会的な雰囲気です。


 どちらも個性だと思います。

――――――――――


 最も馴染みある自分の文章を客観的に評価するのはとても難しい事です。こんな風に分かりやすい言葉にしてもらえると本当にありがたく、いろいろな気づきを得ることができると思います。



 さてさて、長く書き連ねてきたリテイクの記録も、そろそろ終わりを迎えます。


 他にもまだツッコミ所はありました。どれも納得の指摘ばかり。すべてが貴重な財産になりました。


 もしかしたらこのリテイク記を読んで「言われた通り直すのではなく、自分の主義・主張は無かったの?」と思われるかもしれません。


 ここには載せていませんが、意見を採用せす自分の意思で直した文もちゃんとあります。ただ師匠の意見のほとんどは、まきやが「なるほど!」と手を打って納得できる指摘ばかりでした。


 自分以外の創作者・読み手の意見はとても貴重です。採用するしないに関わらず、余さず聞いて自分の糧になるように活用したいものです。



 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。このリテイク記で実際に交わされた会話の臨場感を感じ取って頂ければ幸いです。



 あ、最後の最後に宣伝をさせて下さい(笑)


 本エッセイを読んで作品に興味を持たれた方は、ぜひ公開版をごらんになってくださいませ。


語りの人

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888491103


実験小説「花火」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887666661



(実録!「語りの人」リテイク記    おわり)

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