4.指摘は至る。そして物語の核心へ。
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【師匠】「神浦の幼く、さらさらとした髪の間をすり抜けていった。」
ここは私の主観ですので読み飛ばしていただいてもいいのですが、白髪を蓄える男性の子どもの頃、教科書の内容からしておそらく小学校低学年、ということは40年以上前になります。
坊主頭の方が好きだなと……坊ちゃん刈りもよいですね。
【師匠】「彼は朗読をそこまでの高みに押し上げる事に成功したと心底、思った。」→彼は朗読をそこまでの高みに押し上げる事に成功した、と心底思った。これは意見が分かれるかも知れませんが、音読したときに理解しやすいのは後者だと思います。
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ここは私も意識していました。見易さを考慮したつもりでしたが、やはり読み易さを気にされる方が多いのかもしれません。
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【師匠】「夜の店」という表現は風俗業を想起してしまうので、ここは何か別の表現がいいかもです。
表現について現段階で気付いたところは以上です。多分漏れはありますが……
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まきやが口を挟む余地のない、指摘の嵐が終わりました(チャットでやっているので余計にそう感じる)。
まきやが自分の甘さを痛感していると、一文が飛び込んできました。
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【師匠】ストーリーについては素晴らしいと思います。起承転結がくっきりしており、クライマックスのカタルシス感とそれを妨げない結びが秀逸です。
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し、師匠ぉぉぉ!! 彼女がその場にいたら、まきやは感激のあまり抱きついていたかもしれません(サッと避けられ手痛い一撃を喰らっていたでしょうが)。
それほど嬉しいお言葉でした。
けれど喜びは長く続きません。師匠の指摘はもっと本質的な矛盾に及びました。
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【師匠】プロンプターの普及前の物語と捉えた方がいいのでしょうか?
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プロンプターとは、スピーチをする人が登壇して演説する際に、目線上に原稿を表示しておく電気的な装置のことです。テレ・プロンプターとも言います。
まきやはその言葉を知っていましたが、物語の時代設定との関連に全く気づけていませんでした。
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【師匠】
その場合、スマホはガラケーにしないと時代がずれます。
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どういう事か説明します。
短編「語りの人」の主人公の中年アナウンサーは、その道の達人です。なのでニュース番組に出てしゃべる時、彼はまったく紙の原稿に目を落としません。
さらに彼は気に入らない箇所があると、勝手に原稿に赤(修正)を入れてしまう事もありました。そういう頑固で職人気質な所を強調した記述があり、この話を組み立てる重要な要素のひとつになっています。
けれど近年は前述のプロンプターが発達した事もあって、ニュースキャスターが紙の原稿を持っているシーンを見かける事が少なくなりました。
という前提から考えると、紙の原稿が出てくる「語りの人」は現在ではなく、一世代前の物語のはずです。
しかしそれとは別のシーンで、主人公が妻と連絡を取ろうとするシーンがあり、その場面にスマホが使われていたのです。
要するに師匠が言っているのは「時代設定が矛盾してない?」という事なのです。
あっ……あーーー! そう言われれば!! 本当にこれは、まきやのあさはかさが生んだ凡ミスでした。
スマホをガラケーに直すことは出来るのですが、スマホに依存したやり取りの文章が結構あり、それをガラケーに直して同じような表現が出来るのか、まきやには自信がありませんでした。
しかし師匠はちゃんと助け舟を用意していました。
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【師匠】例えば、頑固にプロンプターを使用しないという表現をどこかに盛り込めばこのままスマホはスマホでもいいと思います。 老アナウンサーの矜持というかそういうアレで。
【まきや】スマホ表記はそこそこあるので、その方が直しやすいと思っています。
【師匠】私が言っているのはほとんど難癖みたいなものなので、作者さんの采配で自由に書いてみてください。
【まきや】はい……あの、この部分で似たような懸念がありました。そもそも実際のニュースで赤い修正の入った原稿を使っているのか? という心配です。
【師匠】 そこが私にプロンプターの存在を強く意識させたんですよね。 思い起こせば、本番の原稿は赤くないですよね、○HKとか。その前に、アナウンサーに赤だらけのを渡すかどうかも素人なので「???」です
【まきや】 やはりそうですか。遅すぎますが、書き終えてから気になりました。結構、致命的もです。「主人公は頑固で、自分で赤入れした原稿しか読まない」とかも考えてみたのですが、どうも説得力が薄いかなと。
【師匠】読む人を混乱させることを原稿作成者はしたらアカン、ということで。ちなみに原稿は、結構何人かの目を経て読む人の手に渡ると思います。
【まきや】 普通はそうですよね。
【師匠】 しかし放送業界には疎いので、そういうものかな? と思っておりました。
【まきや】 業界に詳しい知り合いがおらず、書く時から困っていました。ありがとうございます。ここから先は自己責任で調べます。
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しかし師匠の手と頭の回転は物凄く早かったようでした。なんと『アナウンサーの原稿』のテキストや画像がまきやのもとに、どんどんと送られてきました。
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【師匠】結構書き込んでいますね。
【まきや】あっさり見つけて頂いた……全然駄目というわけではないのかも。
【師匠】別のこの記事によると、補足の書き込み自体は自分でやるようです。あ! この記事もそうです。やはりアナウンサーが自分で書いています。あ、なんか私コンサルみたいになっていますね。
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ポロリと漏れた師匠の本音がまきやの胸に刺さります。感想を求めるだけではなくて、もはや原案の考案者か共同執筆者の域に達してるぞって!
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【まきや】申し訳ないです……。
【師匠】しかし赤書きでの文章の訂正はおそらく許されないと。 読み仮名やアクセントや雰囲気の付け方、ペース配分の書込みになると思います。
今まで挙げた資料はそうでしたし、編集部が作った文章ですので。単語換えて読んだだけで事案扱いになって怒られたアナウンサーもいるようです。「首相」を「総理」に換えて読んでしまっただけで、とか。
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ますます先が見えないと暗くなっていたまきやに、師匠は救いの光を照らします。
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【師匠】 しかし、ここから先は作者さんの手腕で丸め込んで脚色した部分があってもいいと思います。
【まきや】再度調べる所と丸め込めそうな所とを分けて考えます。
【師匠】視覚的表現とドラマ性にすぐれたよい作品ですし、楽しく砥いでいってくださいませ。
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時間はすでに夜中のAM2時に近づいていました。
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【師匠】では、なんかイマイチ頭良さそうなこと言えませんでしたが、このへんで。
【まきや】こんな遅くまで、申し訳ありませんでした。
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