第二十五話【日本人がアメリカを見限る刻1 〝2014年11月〟事件】

「2014年6月の韓国ソウル、韓国人元米軍慰安婦が遂に声を挙げました! 韓国人元米軍慰安婦122人が遂に裁判に訴えたんですっ。『米軍慰安婦として惨い目に遭わされた』と賠償を求めたんです! 米軍慰安婦訴訟の始まりですっ!」天狗騨記者のボルテージが上がる。


「——韓国ソウルでいよいよ始まった米軍慰安婦訴訟はアメリカ人に大いに衝撃を与えました。だが彼らは彼らが我々日本人に対して要求したことを、決して自分達自身に実践しようとはしなかった。アメリカ人達は韓国人元米軍慰安婦に対し謝罪と賠償をするという真っ当な道を放棄し歪んだ危機意識だけを持ち始めたのですっ」


「——2014年6月米軍慰安婦訴訟、問題は韓国人元米軍慰安婦の悲惨な証言が明らかになった後に自称良心的アメリカ人達がとった行動の全てです! リベラルを自称するアメリカ人達の言動の全てです! 我々はこれを決して忘れず許してはならない。必ず地の果てまでも追って追求し尽くさねばならないんですっ!」



 天狗騨記者のやっていることはもはや〝仕事〟でもなんでもない。だがこの異様な迫力を前にして『黙れ』と言える者はこのフロアにはただの一人もいなかった。そして彼がこの後何を言うのか、それについての興味もまたこの場にいる誰も否定できないのであった。



「——アメリカ人達の歪んだ危機意識は、まず2014年11月に顕在化しました。アメリカの大手教育出版社がその正体を露わにしました。当該出版社が発行する世界史教科書に書かれている〝慰安婦問題に関する記述〟について、日本政府の行った修正要求に対し『著者の作品・研究および記述内容を支持し、いかなる修正もしない』と回答したのです。ちなみに日本政府が問題視した内容は、『日本軍は14歳から20歳の女性約20万人を慰安所で働かせるために強制的に徴用した』、『逃げようとして殺害された慰安婦もいた』などです。むろんこの教科書に果たして真実が記述されているのかどうかについては当然の如く問題となります。が、そんなことは他の日本人連中がとっくにやっている。しかし他の日本人連中が絶対にやらないことがある! 敢えて私がこの場で強調したいのは、その一方でこのアメリカの大手教育出版社の教科書には、米軍慰安婦問題についての記述はゼロだということです!」


「——これは私の考えですが、これまで『慰安婦問題』を持ち出せば日本政府を面白いように服従させることができました。ところがその日本政府から、アメリカ人自身が〝絶対勝てるカード〟だと思い込んでいた『慰安婦問題』で逆に攻撃を食らい逆上したというところでしょうか」


「——問題は彼らアメリカの教科書会社に逆上する資格があるか、という点にあります」


「——2014年6月にはのハルモニ達の悲惨な証言が存在することが明らかになっているのに、このアメリカの大手教育出版社は米軍慰安婦問題に一切触れず、『記述が日本人攻撃だけに偏っていて問題があった』と認めることもせず、日本人だけを慰安婦問題で攻撃することを正当化したのです! こうした連中に果たして歴史を教える教科書を作る資格があるでしょうか? 人種差別主義者が教科書を造っていいのでしょうか? 残念ながらこれがアメリカの姿です! アメリカの現実です! アメリカ人達はこれでいいんでしょうか⁉ アメリカ人の中に米軍慰安婦問題を追及する良心的な人間はいないのでしょうか⁉」


 天狗騨記者の怒りに満ちた熱弁は続いていく————

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