蛮行

韮崎旭

蛮行

 殺してやる! と叫びそうになった。それは紛れもなく野蛮な行為である。実際に殺害するのは勿論野蛮だが、叫ぶだけでも十分に程度の高く野蛮な行為である。もとはといえば母が私を食事を彼女のお望みどおりに取らない件で誹ったのが発端だった。そもそもお前のお望みどおりに食事をすることは私の身体状況からして不可能だし、私はお前のようにさもしくないから何でも食べたりはしない、そもそもがお前とその夫の話し声がうるさいので早々とリスペリドンを服用して意識にご退場願った余波で深夜であろうがものを食べる前に強い眠気に……午後5時から午前0時まで眠っていた……見舞われ食事どころではなく、それでも貴重な静寂を無駄にしまいと活動しつつもリスペリドンの影響と思われる強い眠気に見舞われながらもう無理かもしれないと思い、かろうじて菓子を食べたのだが、それを母は「そのうち体壊すよ」の言葉で片付けたのだった。なぜ私が悪いことになるのだろう。なぜ、このような呪詛に限りなく近いつぶやきをぶつけられなくてはならないのだろう。すべては母親やその夫が私を生まなければ解決しているのに、なぜ自分の生み出した他人にそこまで求めるのか。どこまであなたの人形をすればいいのか? いや何もここまでさかのぼらなくても、彼らが家にいないで深夜のドライブデートでもして、家庭内で会話がなければ私は彼らのいない居間で食事ができた。というか存在しているのが悪い。私は其れなのに、それらもろもろを飲み込んで、かろうじて菓子を食べた。それなのに体を壊すと呪われた。なぜ私が? という思いが強い。体を壊すのはお前ではないし、100%壊すとも限らない。ましてそれが昨日今日の不摂生が完全なる原因であるものであることなど誰が証明できようか? 私が病気になれば彼女はもろ手を上げて喜ぶのだろう、表面上は悲しんだふりをして、「この子が健康になるためなら何でもします」みたいなふりをして、内心ほくそ笑んでいるのだ、「ほらご覧、私の言う通りにしないから(病気になったのだ、そらみたことか、ざまあみろ)」。

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蛮行 韮崎旭 @nakaimaizumi

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